犬の恐怖とヒトの精神疾患に共通点がある?
犬が雷や花火などの大きな音に過敏になったり、馴染みのない人や状況に怯えたりする恐怖症は、よく見られるものです。
一般的に「恐怖」という感情は、危険を避け生命を維持するための大切な反応です。けれども、犬の生活の中で恐怖の程度が大き過ぎたり、反応が過度になったりすると、攻撃性につながる場合もある問題です。犬のQOLの低下も考慮しなくてはなりません。
犬の恐怖症は、人間の不安障害に当たる可能性があると示唆する、以前の研究もあります。
このたび、フィンランドのヘルシンキ大学の研究者が、犬の騒音感受性と一般的な恐怖症(馴染みのない人間や新しい状況に対して)に焦点を当てたリサーチを行い、その結果をさらに遺伝子研究の面から照査した結果を発表しました。
ジャーマンシェパードを対象にしたリサーチ方法
騒音感受性が高い、又は一般的な恐怖症を持っている犬を洗い出すために、まずはジャーマンシェパードの飼い主300人以上に対して、犬の行動を調査するツールとして使われている詳細なアンケート調査に答えてもらいました。この結果を分析して、各犬に恐怖を感じる強さを表すスコアが与えられました。
このスコアに基づいて、あまりにも極端な怖がりの個体を除いた、犬たちの遺伝子が調査されました。その結果は非常に興味深いものでした。
犬の一般的恐怖症とヒトの精神疾患はほぼ同一の遺伝子領域に関連していた
犬の一般的恐怖症はイヌ第7染色体の領域と関連していました。これは人間で言えば、ヒト18番染色体の特定の領域に対応するものです。
そのヒト18番染色体の特定の領域とは、統合失調症や双極性情動障害などの精神神経疾患との関連が判明している部分です。恐怖は多くの精神神経疾患の重要な部分でもあります。この結果は、犬の恐怖症と人間の精神神経疾患が同様の根本的な要因から来ている可能性を示しています。
犬だけでなく、人間にも騒音感受性が高すぎる聴覚過敏症状を持つ人は見られます。今回、犬と人間に共通することが発見された遺伝子領域には、不安と聴覚の両方に関連する遺伝子も含まれています。また別の遺伝子では不安、ストレス、社会的行動に関連するものも含まれます。
今回はジャーマンシェパードのみの単一犬種で研究が行われましたが、今後さらに大きな規模での研究が必要だと考えられています。犬の恐怖症の研究が、人間の精神神経疾患の根本的な治療に役立つ可能性も期待されます。
まとめ
犬が大きな音や未知のものに対して示す恐怖症と、人間の精神神経疾患のいくつかは、ほぼ同一の遺伝子領域に関連しているという、ヘルシンキ大学の研究をご紹介しました。犬の行動研究においての関連遺伝子の発見は大変稀で、今後のさらなる研究とその結果が期待されるところです。
人間の疾患の治療法確立への期待はもちろんのことですが、犬の恐怖症は対応に苦労している飼い主さんも多い問題です。また、恐怖症が深刻で問題行動が起こっているのに、対応されずに放置されている例も少なくありません。
犬の恐怖症の根本的な原因が判明して、適切な対応への第一歩になってほしいものだと心から思います。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/01/190123091155.htm