犬が行動を抑制する能力は訓練によって向上するだろうか?という研究

犬が行動を抑制する能力は訓練によって向上するだろうか?という研究

犬の認知機能を調査する研究はたくさん行われていますが、そのうちの一つである「抑制機能」が訓練によって向上するだろうかという研究の結果が発表されました。

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犬の認知機能のひとつである「抑制機能」の研究

黒いラブラドールの顔アップ

近年の数多くの研究によって、犬の認知機能についていろいろなことが明らかになっています。中でも最近注目を集めているのが「抑制機能」です。

抑制機能と聞いても、瞬時にはピンと来ませんが、何らかの事柄に対して行動しようとする反応を抑制する機能を指します。広義に言えば、自分の行動をコントロールする能力です。

このたび、アルゼンチンのナショナル科学技術研究評議会と、イタリアのナポリ大学の研究者が共同で「水難救助犬の抑制機能は訓練によって向上する」と題する研究を発表しました。

水難救助犬と家庭犬の抑制機能を比較

訓練中の水難救助犬

研究者は訓練によって、抑制機能が向上するかどうかを調査するため、高度な訓練を受けた犬と、そうではない犬を比較した研究を行いました。

家庭犬のラブラドールとゴールデンレトリーバー、水難救助の訓練を受けた同犬種が実験に参加しました。

水難救助犬が選ばれたのは、水難救助犬は他の盲導犬などの作業犬と違って、目的のために特別に繁殖をされているわけではないからです。この点で、家庭犬と条件は同じであると研究者は考えました。

犬たちは、3つの逆さまに置いたカップの下に隠されたトリーツを探し当てる課題を与えられました。

第一段階ではトリーツは常に同じカップの下に置かれます。トリーツを隠すという行動も、犬の目の前で行われます。全てのカップには匂いが付くように、トリーツが擦りつけられています。複数回行ううちに、どの犬も簡単にトリーツを見つけられるようになりました。

第二段階では、他の条件は皆同じで、トリーツが前回とは違うカップの下に隠されました。これは「以前はメリットのあった行動が有効でなくなってしまったときに、自動的に過去と同じ反応をしてしまうことを抑制することができるかどうか=抑制機能を有するかどうか」を検証するものです。

結果は、家庭犬の多くが第二段階でも、第一段階でトリーツが隠されていたカップの下を探しに行ったのに比べて、水難救助犬は第二段階で条件が変わったときには自分の行動を変えて、トリーツを得ることができました。

このことから研究者は、救助犬になるための高度な訓練が2つのグループの抑制機能の違いの理由であると結論を出しました。

抑制機能の違いは本当に訓練のせいだけか?

座って舌を出すゴールデンレトリーバー

研究チームのこの結論に対して、動物行動学者でドッグトレーナーでもあるカレン・ロンドン氏は小さな疑問を呈しています。確かにこの結論の通りである可能性もあります。けれども、他の条件の違いが抑制機能の違いを生んだ可能性もあります。

実験に参加した水難救助犬たちは、単に高度な訓練を受けただけでなく、訓練を受けた後テストに合格した犬たちです。働く犬として成功する犬は、人間の行動に敏感に反応する傾向や、高いレベルで感情をコントロールできる傾向があります。これらの傾向は実験の結果に影響を与えた可能性は大いにあります。

つまり、水難救助犬のグループと無作為に選ばれた家庭犬のグループの違いは、訓練の有無だけとは言えない可能性が高いと言うことです。この点は、犬の抑制機能について今後さらに研究が必要な点だと思われます。しかし、訓練や経験によって犬の抑制機能が強化できる可能性は大変興味深いことです。

まとめ

水遊びをするレトリーバーたち

犬の抑制機能という、ちょっと聞き慣れない能力が訓練によって向上させられるかどうかという研究をご紹介しました。

この実験のことを読みながら、わが家の犬たちのことを考えていたのですが、カップや握ったゲンコツの中に隠したトリーツを探すゲームをするときに、目の前で隠しても前回と同じところをまず探しているなあと思い当たりました。

なるほど、あれは「確かここにあったはず!」という経験から、行動が抑制できない結果なのだなと理解できました。そういうことを自分自身が理解した上でトレーニングを行うと、人間の方が心理的に楽になるかもしれないなとも思いました。

「犬の認知機能の研究」というと物々しい感じもしますが、犬が何をどのくらいどんなふうに認知しているのかを知ることは、興味深く楽しいことですよね。

《参考》
https://www.researchgate.net/publication/328895790_Training_improves_inhibitory_control_in_water_rescue_dogs
https://thebark.com/content/inhibitory-control-dogs

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