野生動物の絶滅と犬
犬は私たちにとって大切な家族であり、「人類の最良の友」とも呼ばれる動物です。けれどもその人間との距離の近さゆえに、犬は自然の食物連鎖には含まれず、野生動物とは相容れない存在でもあります。
自然環境の研究者たちは、過去に犬のせいで絶滅に追いやられた野鳥や動物は、12種に上ると述べています。現在も放し飼いや野生化した犬が、世界中で約200種の鳥や動物の存在を脅かしていると言われています。
最近の研究では、チリのアンドレス・ベジョ大学とアメリカの研究者が、野生動物に対する放し飼いの犬の影響の深刻さを発表しています。
日本にも共通するところのある、この問題を考えてみたいと思います。
チリの農村地域で調査された飼い主の意識
野生動物への脅威となるのは、捨てられたり逃げたりして、野生化した犬と放し飼いの犬の両方です。けれども、管理の難しさという点では飼い主のいる放し飼いの犬の方がより困難なのだそうです。
研究者は、農村地域で野生動物を脅かす放し飼いの犬を管理する対策を立てるため、同地域での住民への聞き取り調査を行いました。
放し飼いの犬が家畜、子供、野生動物を攻撃した場合に、襲った犬の殺処分、飼い主への罰金、襲った犬の放し飼いの制限についてのアンケートを取りました。
回答者の大多数は、放し飼いの犬が家畜や子供を襲った場合に、飼い主への罰金を望みました。一方で、犬の殺処分を望む声は一貫して罰金よりも低いものでした。襲った犬の放し飼いの制限については賛成する人が多かったものの、ほとんどの犬の飼い主は犬の放し飼いに問題を感じていませんでした。
また、襲われた野生動物がキツネであった場合には気にしない人が多かったのに対して、世界最小の鹿で絶滅危惧種のプーズーが襲われた場合には、9割近くの人が何らかの対策が必要と回答したそうです。
これらの回答は今後の対策の参考とされますが、さらなる研究が必要だと考えられています。
犬が自然環境に与える影響は捕食だけではない
犬は食物連鎖の一部ではないため、犬が野生動物を捕食することは、生態系を乱すことにつながります。襲われる動物だけでなく、野生の肉食獣の獲物を奪っていることも問題です。これは目に見えるわかりやすい影響ですが、見えないところで進行する問題もあります。
世界の多くの地域で、野生動物が犬からの病気の感染によって絶滅の危機に追いやられており、直接的な襲撃よりも重大な影響となっています。
また、犬が同地域に住むオオカミやコヨーテなど、野生のイヌ科動物と交配することで、種の保存に影響を与えることも懸念されています。
犬と野生動物、どんな対策を立てる?
犬の放し飼いは、昔ながらの文化や、自由に動き回る犬が仕事の助けになっている部分もあるため、一概に禁止することは難しいのです。一方で飼い主のいない野生化した犬は、殺処分すればいいではないかという声もありますが、これもまたそれほど単純な問題ではありません。
ある地域で野犬を殺処分して個体数を減らしても、それは他の地域から新しい野犬が流入する余裕を作るだけで、イタチごっこになることは多くの場所で起こっていることです。即効性はなくても、効果的かつ持続的なのは、放し飼いと野犬の両方の避妊去勢とワクチン接種だと言われています。
現在、地球上には10億匹の犬が住んでおり、その数は今後さらに増えるだろうと科学者は予想しています。犬が野生動物を脅かす問題には、唯一にして絶対というような解決策はありませんが、今後も多くの研究が続けられていく模様です。
まとめ
世界の各地で放し飼いや野生化した犬が、野生動物の絶滅の原因になっているという問題をご紹介しました。
日本では奄美大島のノネコの問題が多く報道されていますが、犬でも同じことは起こっています。犬を山に捨てることの酷さは言うまでもないことですが、管理の甘い外飼いや放し飼いの結果、勝手に繁殖して野生化した犬は、日本でも多くの地域で報告されています。
放し飼いではなくても、山や河など自然の中に飼い犬を連れて行くことも、大なり小なり自然に影響を与えていることを犬の飼い主は認識しておかなくてはなりません。むやみに野生動物を追いかけさせない、排泄物は必ず持ち帰る、などは愛犬を自然破壊の原因にしないための大切なことです。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0301479718306777
https://www.bbc.com/news/science-environment-47062959