珍しいタイプで危険度の高い犬の不整脈の新しい治療方法が開発された!

珍しいタイプで危険度の高い犬の不整脈の新しい治療方法が開発された!

稀なタイプではあるけれど命を脅かす危険度が高い不整脈の新しい治療方法がアメリカで開発され発表されました。どのような内容なのかご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

犬の不整脈の新しい治療方法の開発

獣医師と犬と心拍のチャート

人間と同様に、犬にも不整脈があります。特に治療の必要のないものから、即刻治療しなくては生命を脅かすものまで、様々なタイプがあります。

不整脈の中でも、心臓内に副伝導路と呼ばれる異常な電気回路ができてしまうことで起こる不整脈は稀なタイプではあるものの、生命に関わる危険度の高いものです。副伝導路がどのように形成されるのかは、今のところまだ分かっていません。

その副伝導路による不整脈の新しい治療法を開発するために、アメリカのモリス動物基金という動物の治療研究のための財団が研究費用を提供し、このたびその結果が発表されました。

Kathy N. Wright, Chad E. Connor, Holly M. Irvin, Timothy K. Knilans, Dawn Webber, Philip H. Kass. Atrioventricular accessory pathways in 89 dogs: Clinical features and outcome after radiofrequency catheter ablation. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2018; 32 (5): 1517 DOI: 10.1111/jvim.15248

成功率の高い新しい治療方法

獣医師の診察を受ける黒ラブ

今回研究者が開発した治療方法は、高周波カテーテルアブレーションというものです。 これは、人間の不整脈治療の代表的な方法の一つで、カテーテルという細い管を太ももと首の血管から挿入してその先端を心臓まで到達させ、カテーテル先端から高周波電流を流して不整脈を起こす原因となっている箇所を焼き切るという方法です。

カテーテルによる治療のため、一般的な手術に比べて身体への侵襲度が低く、負担が小さいために回復も早いというメリットがあります。 この副伝導路による不整脈が、最も多く見られる犬種はラブラドール・レトリーバーなのだそうです。 今回、研究チームは23犬種89匹の犬にこの治療法を試みました。89匹中半数近くの42匹がラブラドールだったということです。

89匹の犬のうち、3匹はアブレーション治療を受ける準備中に死亡、1匹はアブレーション治療の5日後に重篤な神経症状を起こして安楽死となったため、85匹でこの治療法の効果が判定されました。

そのうち、3匹だけが2回目の治療アブレーションを必要としましたが、残りは1回のアブレーションで副伝導路を断つことができました。

その3匹の犬も、2回目のアブレーションで副伝導による不整脈は観察されなくなりました。結果、長期的に見たこの治療法の成功率は98.8%(2回目のアブレーションを必要とした例も含めて)となりました。

この成功率の高さももちろん素晴らしいものですが、この治療法は生涯にわたる薬の投与や通院などの必要もなくすので、犬にも飼い主にも負担を少なくできることも大きなメリットです。

副伝導路による不整脈の症状

芝生に嘔吐している黒い犬

副伝導路による不整脈は若い大型犬に多く見られ、異常に多い心拍数によって様々な症状が引き起こされます。副伝導路の異常な電気回路が犬の心臓に異常に急速な心拍動を起こさせ、それがうっ血性心不全や生命に関わる危険につながります。高齢の犬で心拍数の増加が見られる場合には他の心臓病を患っている場合が多いそうです。

この研究で、副伝導による不整脈を持っていた犬に見られた症状は以下の通りでした。

  • 元気がない時、脱力している時がある
  • 食欲の低下、嘔吐などの消化器症状
  • 頭を上下に振る動作、胸部で感じられる異常な脈うち
  • 失神

これらの症状が見られた場合は、獣医師の診察を受けてください。

まとめ

獣医師に抱かれたチワワと心電図

アメリカのモリス動物基金が資金を提供して、副伝導路による犬の不整脈の新しい治療方法が開発されたというニュースをご紹介しました。

人間の不整脈での一般的な治療法であるアブレーション治療を犬に応用した治療法で、犬の体への負担も少なく一旦成功してしまえば通院や投薬の負担も大幅に減らすことができます。 犬と人間の医療が相互に応用されるのは、犬の保護者としては非常に心強い気がします。 新しい治療方法が広く広がり、不整脈に苦しむ犬が1匹でも少なくなるよう、心から祈ります。

《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/12/181210101912.htm

監修獣医師による補足

本記事の元になった論文の内容をもう少し詳しく説明いたします。

  • 犬の副伝導による不整脈に関する文献は少なく、この研究が最も多い症例数を検討したものである。
  • 他の小規模の研究と同様に、ラブラドール・レトリーバーでこの不整脈が多く認められた。ラブラドールが米国でも人気犬種であり登録数が多いことを差し引いて考えても、ラブラドールでこの不整脈が多く起こっていると言える。また、どの犬種でも雌よりも雄でこの不整脈が多かった。
  • この不整脈によって引き起こされる頻脈の結果、若い大型犬で多くの消化器症状が認められたことに注意。そのような症例は、食べ過ぎやゴミ箱あさり、異物などと誤診されることが多い。
  • また、診察で頻脈が認められた場合には、脱水や緊張のせいにはせずに心電図検査を行うべきである。また頻脈が間欠的にしか起こらない場合もあるので、一般的な診断アプローチで消化器症状の原因が特定できない場合には、ホルター心電図検査を行うことが望ましい。
  • 頻脈を呈する原因の分からない拡張型心筋症の犬においては、頻脈誘発性心筋症の可能性を検討すべきである。
  • この研究では、アブレーション治療によってうっ血性心不全からの回復と収縮機能不全の改善が長期にわたって認められた。
  • つまり、アブレーション治療によって、副伝導路を断ち、頻脈性不整脈による症状を消失させ、心臓の機能不全を改善できると確認された。
  • アブレーション治療から1か月後のホルター心電図検査では、期外収縮や心室性頻脈などが見られたが、全てアブレーション治療の前から見られたものであった。85匹中1匹だけ完全房室ブロックが見られた犬がいて、その犬にはペースメーカーを設置した。
  • この論文が書かれた時点で、アブレーション治療後5日の時点で生存していた犬85匹のうち、45匹の生存が確認された。その45匹の飼い主の全員が、アブレーション治療後には症状がなくなったと報告していた。そのうち3匹の犬では、ホルター心電図検査の結果心室性頻脈が認められたため投薬を行っていた。
  • 生存が確認された45匹以外の40匹では、2匹が心疾患に関連した突然死、32匹がそれ以外の原因で死亡していた。残りの6匹は追跡調査が行えなかった。
  • アメリカ心臓協会(American Heart Association)とアメリカ心臓病学会(American college of cardiology)は、房室リエントリー性頻脈や早期興奮を伴う心房細動のある副伝導路による不整脈の患者には、カテーテルアブレーション術を治療の第一選択として薦めている。これをサポートする大規模研究では、治療の成功率は93~95%で主な合併症のリスクは3%とされている。今回の我々の研究においても、アブレーション治療の成功率は91%(アブレーションを行う前に死亡した例も含めた場合)から98.8%(2回目のアブレーションが必要となった例も含めた場合)であった。
  • アブレーション治療は、成功すれば(他の不整脈がない限り)生涯にわたる投薬や重篤な不整脈やうっ血性心不全を起こした場合に必要となる入院、生涯にわたる通院や検査が必要ではなくなるため、経済的にも飼い主へのメリットがある治療法と言える。
獣医師:木下 明紀子
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