犬の不整脈の新しい治療方法の開発
人間と同様に、犬にも不整脈があります。特に治療の必要のないものから、即刻治療しなくては生命を脅かすものまで、様々なタイプがあります。
不整脈の中でも、心臓内に副伝導路と呼ばれる異常な電気回路ができてしまうことで起こる不整脈は稀なタイプではあるものの、生命に関わる危険度の高いものです。副伝導路がどのように形成されるのかは、今のところまだ分かっていません。
その副伝導路による不整脈の新しい治療法を開発するために、アメリカのモリス動物基金という動物の治療研究のための財団が研究費用を提供し、このたびその結果が発表されました。
Kathy N. Wright, Chad E. Connor, Holly M. Irvin, Timothy K. Knilans, Dawn Webber, Philip H. Kass. Atrioventricular accessory pathways in 89 dogs: Clinical features and outcome after radiofrequency catheter ablation. Journal of Veterinary Internal Medicine, 2018; 32 (5): 1517 DOI: 10.1111/jvim.15248
成功率の高い新しい治療方法
今回研究者が開発した治療方法は、高周波カテーテルアブレーションというものです。 これは、人間の不整脈治療の代表的な方法の一つで、カテーテルという細い管を太ももと首の血管から挿入してその先端を心臓まで到達させ、カテーテル先端から高周波電流を流して不整脈を起こす原因となっている箇所を焼き切るという方法です。
カテーテルによる治療のため、一般的な手術に比べて身体への侵襲度が低く、負担が小さいために回復も早いというメリットがあります。 この副伝導路による不整脈が、最も多く見られる犬種はラブラドール・レトリーバーなのだそうです。 今回、研究チームは23犬種89匹の犬にこの治療法を試みました。89匹中半数近くの42匹がラブラドールだったということです。
89匹の犬のうち、3匹はアブレーション治療を受ける準備中に死亡、1匹はアブレーション治療の5日後に重篤な神経症状を起こして安楽死となったため、85匹でこの治療法の効果が判定されました。
そのうち、3匹だけが2回目の治療アブレーションを必要としましたが、残りは1回のアブレーションで副伝導路を断つことができました。
その3匹の犬も、2回目のアブレーションで副伝導による不整脈は観察されなくなりました。結果、長期的に見たこの治療法の成功率は98.8%(2回目のアブレーションを必要とした例も含めて)となりました。
この成功率の高さももちろん素晴らしいものですが、この治療法は生涯にわたる薬の投与や通院などの必要もなくすので、犬にも飼い主にも負担を少なくできることも大きなメリットです。
副伝導路による不整脈の症状
副伝導路による不整脈は若い大型犬に多く見られ、異常に多い心拍数によって様々な症状が引き起こされます。副伝導路の異常な電気回路が犬の心臓に異常に急速な心拍動を起こさせ、それがうっ血性心不全や生命に関わる危険につながります。高齢の犬で心拍数の増加が見られる場合には他の心臓病を患っている場合が多いそうです。
この研究で、副伝導による不整脈を持っていた犬に見られた症状は以下の通りでした。
- 元気がない時、脱力している時がある
- 食欲の低下、嘔吐などの消化器症状
- 頭を上下に振る動作、胸部で感じられる異常な脈うち
- 失神
これらの症状が見られた場合は、獣医師の診察を受けてください。
まとめ
アメリカのモリス動物基金が資金を提供して、副伝導路による犬の不整脈の新しい治療方法が開発されたというニュースをご紹介しました。
人間の不整脈での一般的な治療法であるアブレーション治療を犬に応用した治療法で、犬の体への負担も少なく一旦成功してしまえば通院や投薬の負担も大幅に減らすことができます。 犬と人間の医療が相互に応用されるのは、犬の保護者としては非常に心強い気がします。 新しい治療方法が広く広がり、不整脈に苦しむ犬が1匹でも少なくなるよう、心から祈ります。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/12/181210101912.htm
本記事の元になった論文の内容をもう少し詳しく説明いたします。