始まりは不公平な報酬に対するフサオマキザルの研究
人間に協力して作業をする動物が、協力への報酬として何かを受け取る、研究のための実験でも作業犬の訓練などでも、よく見られる光景ですね。
では、与えられた報酬が隣にいる動物に比べて不公平だったとき、彼らはどんな反応をするのでしょうか。
この研究で最もよく知られているのは、2003年にエモリー大学霊長類リサーチセンターの研究者が発表したフサオマキザルの実験です。
2匹のフサオマキザルが、それぞれに隣り合ったケージに入っています。サルたちはケージの中にあるコインを実験員に手渡すと、報酬を受け取れるよう訓練されています。
最初はどちらのサルも報酬としてキュウリをもらい、どちらも問題なく作業をこなしていました。次に片方のサルにはブドウを、もう片方のサルにはキュウリを報酬として与えました。サルたちにとって、ブドウはキュウリよりもずっと価値のある報酬です。
するとキュウリを与えられたサルは怒ってキュウリを投げ返し、作業をすることを拒否しました。フサオマキザルは、同僚と平等に扱われない作業をすることを嫌悪することが示されました。
過去の「犬の不平等嫌悪研究」を再検証
フサオマキザルの実験がきっかけとなり、その後様々な動物の不平等嫌悪についての研究が行われました。
中でも犬の研究は最も多く、このたびオーストリアのウィーン大学の研究者によって、過去の犬の不平等嫌悪研究を再検証した上で、要約した結果が発表されました。
再検証されたのは7つの出版物で、これらの研究では計140匹の犬が実験に参加しています。研究者が発表した結果からは、不平等な報酬に対する反応は、犬とフサオマキザルではかなり違っていたことが伺えました。
犬は不公平に対してどんな反応を示したのか?
犬の不平等嫌悪研究では、全て同居している2匹の家庭犬が対象になっていました。犬たちは「お手」をするように訓練されています。
犬たちが指示された通りお手をすると、3つのパターンで報酬が与えられました。
1. 2匹とも同じトリーツが与えられる
2. 1匹にはジャーキーなど価値の高いトリーツ、もう1匹にはニンジンなど価値の低いトリーツが与えられる
3. 1匹にはトリーツが与えられ、もう1匹には何も与えられない
- 1のパターンはどの犬も問題なくお手をしました。
- 2のパターンもどの犬も問題なくお手をしました。
価値の低いトリーツを与えられた犬もサルと違って、指示によってお手をしました。
- 3のパターンでは、トリーツを与えられなかった犬たちの多くがお手をすることを止めました。
犬にとってはトリーツの質よりも、報酬が与えられることが大切なようです。トリーツを与えられなかった犬の行動には、興味深い個体差もありました。
行動の個体差
食べ物に対する衝動が強い犬は、報酬をもらえなくてもお手をし続けたそうです。一方、お手をしても報酬はないなら、自分の行動を変えることを判断した犬たちもいました。この場合、後者の犬たちは高度な認知機能を持っていることを示唆します。
サルと犬の違いは完全に明らかになってはいませんが、大きな違いの一つは犬は人間から報酬を得るために、サルよりも多くの時間を費やしたということです。
つまり、犬にとって大切なのは隣にいる同僚犬との不平等よりも、目の前にいる人間から報酬を得られるかどうかということかもしれないと考えられます。犬と人間との繋がりの強さが伺えるようで興味深いですね。
また、ある研究では不平等な報酬の実験の後に、2匹の犬が報酬を出した実験者と飼い主のいる部屋を自由に歩き回らせて様子を観察しました。すると、報酬をもらえなかった犬は実験者に近づくのに、もう一方の犬よりも長い時間がかかりました。
不平等な扱いをする人間を犬が避けるとしたら、それは犬と人間の共同作業へのマイナスの影響となることを示しています。また、不平等な扱いが犬にストレスを与えている可能性も示唆されます。
まとめ
犬が不平等な報酬に対してどのように反応するかについての過去の研究の再検証と要約の結果をご紹介しました。
犬は同じ作業をした他の犬が、自分よりも価値の高い報酬をもらっていてもあまり気にしている様子がないが、報酬がもらえないことについては、作業の拒否や実験者を避けるなどの反応が観察されました。
不平等嫌悪に対する動物の心理メカニズムや、動物の種による違いを理解するためには、さらに多くの実験や研究が必要です。けれど、サルにせよ犬にせよ、動物が不平等を理解しているということは動物との関わり方にとって重要なことだと言えそうですね。
《参考》
https://www.nature.com/articles/nature01963
https://link.springer.com/article/10.3758/s13420-018-0338-x