犬の「楽観的な傾向」と「悲観的な傾向」
犬にも楽観的な子と悲観的な子がいると聞くと、「え?」と思われるかもしれませんが、これは本当です。
何か確固たる理由があるわけではないけれど、過去の経験などに基づいて「この先には何かいいものがある!」と目標に突進するタイプは楽観傾向が強く、「いやいや、何があるかわからないから用心しなくては」と様子を伺いながら進むタイプは、悲観傾向が強いと言えます。
ペットの犬の場合、「何かいいもの」はおやつや楽しい遊びが考えられますね。
悲観的な傾向は、動物が自然の中で生き残るためにはとても大切なものです。
群れの中にそういう個体が一定数いることは、動物の種としての生き残り戦略の一つです。けれども家庭犬の場合、悲観的な傾向が強すぎると必要のないストレスを負ってしまうことも考えられるので、これをうまくコントロールしてあげることが大切です。
そんな「犬の楽観的な傾向を高める」研究の結果が発表されました。
アメリカの、犬の認知に関する研究所であるEthodogのデュラントン博士と、バーナード・カレッジのホロウィッツ博士による研究結果をご紹介します。
ノーズワークとヒールワークが犬の「物の見方」に影響?
研究に参加したのは、様々な犬種の20匹の家庭犬です。
犬たちはまず、それぞれの楽観的傾向を調べるためのテストと訓練を受けました。これは認知バイアスのテストとも呼ばれるものです。
ある場所に置かれたボウルには常にトリーツが入っており、別の場所のボウルには入っていないという状況を作り、犬がそれを覚えるように訓練をします。
訓練の後、犬がボウルにたどり着く時間を計測し、時間が短いほど「トリーツが食べられる!」と楽観的な傾向が強いと判断します。
犬たちは2つのグループに分けられ、一つのグループは嗅覚を使って、隠されたトリーツを探すノーズワークのクラスに参加します。
もう一つの対照グループは、飼い主の側にきれいに付いて歩く、ヒールワークのクラスに参加します。2つのグループの犬は、先の楽観的傾向のテストの結果がほぼ同じになるように分けられました。
どちらのグループの犬も、1週間ごと2回のグループレッスンに参加し、レッスンのない日は自宅で飼い主と一緒に1日1回の練習を続けました。どちらのアクティビティもポジティブ強化の方法が用いられ、上手くいくとトリーツの報酬が与えられるという方式です。
2週間のレッスンの後、ノーズワーク組もヒールワーク組も、もう一度楽観的傾向を調べるテストを受けました。その結果、ノーズワーク組の犬はトリーツが「入っているかもしれない」ボウルにたどり着く時間が有意に短くなっていました。
対して、ヒールワーク組ではレッスン前の結果と変化がありませんでした。ノーズワークの何が、犬の楽観的な傾向を強くするという影響を与えたのでしょうか?
「自然な行動」と「自分で選択する」大切さ
2つのアクティビティの違いを見ると、ヒールワークでは常に飼い主の側に付いていることが求められているのに対し、ノーズワークでは指示されたものを探すために、犬は部屋の中を自由に歩き回り自分の嗅覚によって判断をします。
また、嗅覚を使うというのも大きなポイントです。言うまでもなく嗅覚は犬にとって最も大切な感覚で、その大切な感覚を使うことは犬の自然な行動に適っています。犬にとって自然な行動をすることと、自分で判断や選択をすることは動物福祉における2つの重要な要素です。
2つの要素が満たされて犬の福祉が向上したことで、犬の楽観的な傾向が強くなったと研究者は結論づけています。
まとめ
ノーズワークを通じて、嗅覚を使って自分の判断で何かを探すという活動をした犬は、その後、楽観的な傾向が強くなったという研究の結果をご紹介しました。
ペットの犬というのは一見自由なようでいて、犬が自分で選択できることというのはとても制限されています。
食事、トイレ、遊び、散歩、その他ほとんど飼い主が与えるものが犬にとっての全てです。それだけに私たちは、できる限り犬が犬らしく自然に過ごし、無駄なストレスを感じないようにする必要があります。
犬が嗅覚を使って自分で何かを判断するということが、犬の福祉に貢献するというこの研究の結果は、私たち飼い主にとって素晴らしいヒントを与えてくれたと言えますね。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0168159118304325?via%3Dihub#!
ユーザーのコメント
20代 男性 宇野直人