骨に発生するガンの新しい治療法
犬の骨に発生するガンにはいくつかの種類がありますが、最も多いガンは骨肉腫で、進行が早いガンです。
犬の骨肉腫はアメリカでは毎年1万例以上発生しており、治療法は外科手術と化学療法が主なですが、新しい治療法である「免疫療法」の研究も進んできています。
このたびアメリカのミズーリ大学獣医学部の研究者によって、犬の骨肉腫に対する免疫療法の研究内容が、2018年アメリカ獣医がん学会年次総会(2018 Veterinary Cancer Society Annual Conference)にて発表されました。
患犬の腫瘍から作ったワクチン
今回ミズーリ大学の研究者が発表した方法では、患者である犬自身の腫瘍細胞と免疫細胞の一つであるリンパ球を使います。
今回ミズーリ大学の研究者が発表した方法では、患者である犬自身の腫瘍から増殖した免疫細胞を使います。
腫瘍を切除した後に、その腫瘍細胞と患犬自身の血液から採取したリンパ球を使って腫瘍を攻撃する性質を持ったリンパ球を作り、増殖させたリンパ球を点滴で犬の体内に戻します。体内に戻されたリンパ球は、体内の腫瘍細胞を見つけ出し徹底的にその腫瘍細胞を破壊するのだそうです。
ガン細胞だけを標的として攻撃するため、健康な細胞にまでダメージを及ぼす可能性のある化学療法は不要になります。
実際に治療を受けた犬の経過
骨肉腫を患い、この免疫療法を受けた犬と、化学療法を受けた犬の比較も発表されました。
米国国立がん研究所(National Cancer Institute)が行った別の研究では、化学療法を受けた骨肉腫の犬では約270日間の寛解が得られました。一方、この研究で手術後に化学療法は受けず、免疫療法のみを受けた犬は400日間以上の寛解が見得られました。
研究者によると、骨肉腫の犬が化学療法を受けずに、これほど長く生存したのは初めてのことだと報告されています。
ガン治療の最も辛い点とも言える強い副作用のある化学療法が不要になるだけでなく、生存期間が大幅に延びるというのは大変嬉しい結果ですね。
まとめ
アメリカのミズーリ大学獣医学部の研究者による、犬の骨肉腫の免疫療法についての研究が発表されたというニュースをご紹介しました。
大型犬に多く見られる骨のガンは、進行が早く治療も犬にとって負担の大きいものでした。新しい治療法である免疫療法は、副作用もほとんどなく効果が期待できるとのことで、とても心強く感じられます。
同研究チームはELIAS Animal Healthという会社とも共同研究を行っており、化学療法でみられる副作用のない癌細胞だけを標的にした免疫療法を確立すると共に、骨癌を含む様々な人間のガン治療に免疫療法の臨床試験を行うことを目標にしているのだそうです。現在も、モリス動物基金からの支援を受け米国国立がん研究所と共同で、人間の様々なガン、特に小児の転移性骨肉腫の治療法について研究を行っているそうです。
この研究は現在のところ学会で発表されただけで、論文として発行されていないので予備的な情報としてとらえられるものですが、犬の症例数より人間の症例数が少ない病気の治療法が犬で研究された例の一つです。
これは、人間に対する治療法の開発につながるというメリットに加え、人間の医療にも応用できる可能性が大きいことで、犬における研究にもしっかりと時間や費用がかけられるという犬に対するメリットもあります。
日常生活だけでなく、医療の研究という面でも犬と人間は互いを助け合っているという事実を見るにつけ、「犬は人類の最良の友達」という言葉に、また一つ重みが増すような気がします。