カナダの先住民族居留地の野犬問題
米国におけるネイティブアメリカンと同じように、カナダにも元々その地に住んでいた先住民の人々がいます。古い呼び方ではカナダインディアン、現在はファースト・ネーションという呼び方が定着しています。ファースト・ネーションの人々の約半数は、政府が定めた居留地に住んでいます。
今回ご紹介するのは、カナダのアルバータ州の都市カルガリーの東に位置するシクシカ居留地で、実施されている野犬対策です。
これら先住民居留地では、古くからの習慣のままの犬の飼い方で、避妊去勢の処置をせずに放し飼いにしている人が多く、その結果として人間の管理外の野犬が多く生まれてしまいました。
犬の飼い方については古い習慣が残っていても、住民の生活は現代風になっており、彼らの先祖が犬とうまく共存していた頃のようにはいかなくなっています。
以前から住民が野犬に咬まれる事故は度々起こっていたのですが、2016年に子供が顔を咬まれたり、成人男性が複数の犬から襲われたりと、深刻な事故が続いたことを機に、本格的に野犬対策が実施されることになりました。
シクシカ居留地が取った対策
シクシカ居留地で複数の深刻な咬傷事故が起きた後、当地の警察は『アルバータ避妊去勢タスクフォース』というNPOにコンタクトを取りました。
この団体はファースト・ネーションを専門に、住民の犬や猫に避妊去勢手術を施す活動をしています。
タスクフォースは避妊去勢手術だけでなく、住民への教育や犬のリホーム活動も行っており、シクシカ居留地の地域社会のパートナーとなって、野犬対策に取り組むことになりました。
彼らが最初に取り掛かったことは、犬に関する規則を設け、すべての飼い犬を鑑札登録することでした。犬が避妊去勢処置を受けている場合は、登録料が無料になります。
犬の避妊去勢を推進するため、無料または低料金の手術を提供する診療所が設置されています。
居留地内では、現在も犬たちは自由に歩き回ることが許されていますが、これは将来的には変更される可能性もあります。
こうして犬の個体識別ができる状態を作り、咬むことが確認された犬や飼い主のいない犬は、捕獲して保護施設で飼育管理をします。
原則として保護施設の犬は、家庭犬としてリホームされます。
犬対策の焦点になるのは「教育」
アルバータ避妊去勢タスクフォースの責任者は、地域の文化を大切にしつつ住民の意識を高め、ゆっくりと進歩を遂げることを目標にしています。単に犬を捕獲して収容することは解決につながらず、単に犬の避妊去勢を義務付けるだけでも足りないと言い、包括的なアプローチが大切で、中でも焦点は住民への教育だとしています。
タスクフォースのスタッフは、地域でのイベントの際に説明のためのブースを設ける、地元の学校で子供たちに犬との付き合い方の講習を行う、戸別訪問でこの野犬対策のコンセプトを紹介するなどの活動を行っています。
これらの様々な角度からのアプローチの結果、2017年には咬傷事故は32%減少しました。2018年の統計はまだ出ていませんが、地元住民からは以前よりも安心して外を歩けるようになったという声が聞かれているそうです。
まとめ
カナダのアルバータ州の先住民居留地で、成果をあげている野犬対策をご紹介しました。
カナダの先住民が住む地と言うと、あまりにも遠い世界の話と感じられるかもしれませんが、昔ながらの外飼いや放し飼いの犬が繁殖してしまい、野犬化しているという問題は日本のいろいろな地域で起こっていることと共通しています。
外飼いや放し飼いの犬には避妊去勢処置を行うこと、そのために安価な手術を提供すること、犬との付き合い方の教育を広く徹底すること、これらは現在の日本でも取り入れたい事柄です。
一見遠くかけ離れたように見えることに、案外共通する問題が多く、学ぶことがたくさんあると知っておきたいと思います。
《参考》
https://abtaskforce.org/about-us/sdccp-siksika-nation/
https://globalnews.ca/news/4899055/siksika-nation-dog-bylaws/