子犬や赤ちゃんの『キュート侵略』についての研究
コロコロとかわいらしい子犬を前にして、「かわいすぎてたまらない〜!」と抱きしめたり、愛らしい写真や動画を見て「かわい過ぎる〜!」とバタバタしてしまったり、そんな経験を持つ人は多いですよね。
動物や人間の赤ちゃんを見て、こういう感情や行動をしてしまうことについて、アメリカのイェール大学の心理学者が、2015年に『Cute aggresion =キュート侵略』と名付けて、研究レポートを発表しています。
そのイェール大学の研究を受けて、カリフォルニア大学リバーサイド校の、神経科学および臨床心理学の研究者が、新たな研究結果を発表しました。
どうやら、あの「かわいすぎてたまらない〜!」という私たちの感情は、脳から発せられる信号に基づいていて、進化の過程やメンタルヘルスの治療にも関連する可能性があるそうです。
人間が「かわいい」と感じる対象とは?
イェール大学の研究者のレポートでは、人々は成体の動物よりも子犬や子猫に対して、より強いキュート侵略を受けたと感じていることが報告されています。
また人間の赤ちゃんの画像の場合、より可愛らしく赤ちゃんらしく見えるよう、デジタル修正で目や頬を強調したものに対して、より強いキュート侵略を感じたとも報告されているそうです。
カリフォルニア大学の研究者は、この現象に関して、「何かに対して強く”かわいい”という感情を持ったときの脳の活動パターンがあって、それが抱きしめたりつまんだりという”抑えきれない”行動を促しているのではないか?」と考えました。
確かに、子犬に頰ずりせずにいられなかったり、肉球をチョンチョンしたりする衝動を止められないあの感じは、攻撃を受けているとも言えるし、何かの命令を受けていると言われれば納得ですね。
『キュート侵略』を分析する実験
研究者は『キュート侵略』を経験した人々の脳が、検出可能な活動の証拠を示すという仮説を立てて実験を行いました。
実験に参加したのは、18歳から40歳の54人の男女です。参加者は電極を装備した実験用の帽子をかぶり、カテゴリー別の32枚の写真を見せられました。
カテゴリーは4つで、
- デジタル修正して「かわいい度」を上げた人間の赤ちゃん
- デジタル修正無しで「かわいい度」通常の人間の赤ちゃん
- 子犬など動物の赤ちゃん
- 成犬など動物の成体
参加者はそれぞれの写真を1〜10の尺度で、「かわいい度」を評価しました。
また、写真を見たときにどのくらい感情的に揺さぶられたかを、「たまらない」「世話をしたい」「抱きしめたい」などの尺度で評価しました。
カテゴリー別では、子犬など動物の赤ちゃんは大人の動物よりも明らかに、「かわいい度」で高い評価を得ました。一方、人間の赤ちゃんでは修正有りと無しの間に、顕著な違いはありませんでした、
電極を付けた帽子で、参加者の脳の神経活動も同時に測定記録されており、参加者が「キュート侵略を経験している」と感じているときに、脳の報酬システムと感情システムの両方が関与していることが結論付けられました。
特に強い相関が見られたのは、子犬など可愛い動物を見てキュート侵略を感じたとき、脳が報酬反応を示していたことだそうです。
可愛い生き物を見て報酬を受け取ったと脳が反応するのは、幼い生き物が他者から面倒をみてもらうための進化的な適応だと考えられます。
実際に赤ちゃんの世話の経験のある人は、赤ちゃんや写真を見たときにより強いキュート侵略と神経反応を経験すると考えられるようです。同様にペットを飼っている人が、かわいい子犬やその写真を見たときにも、同じことが起こりうるそうです。
まとめ
かわいい子犬や子猫、人間の赤ちゃんを見たときに、その可愛らしさに冷静さを失ってしまったり「抱きしめたい」「世話したい」と感じたりすることは、脳の報酬システムと感情システムが関与しているという、カリフォルニア大学の研究をご紹介しました。
私たちが子犬の画像や動画を見て、「うわーっ!」という気持ちになるのは、脳が報酬を受け取っていると反応しているのかと思うと興味深いですね。かわいい動物のコンテンツを見ることが、ストレス解消になることも納得です。
この研究は、産後うつに苦しむ女性や、自閉症スペクトラム障害の研究への応用が期待できるのだそうです。かわいい子犬を見るときの、自分の気持ちにちょっと変化が起こりそうな研究結果ですね。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/12/181204143857.htm