人間の学習効率アップの方法は犬にも共通するか?
人間が何かを学習したり記憶したりする際に、ポジティブな感情で覚醒している状況は、認知能力にプラスの影響を与えるということが過去の研究で分かっています。
このことは犬にも当てはまるのだろうか?という研究の結果が、アメリカのリンカーン大学の研究チームによって発表されました。
学習の後は遊ぶべきか?休むべきか?を調べる研究
研究のために参加したのは、1〜9歳までの16匹のラブラドールレトリーバーでした。犬種による結果のばらつきをなくすために、全員が純血種のラブラドールで統一されました。
犬たちは2つのグループに分けられたのですが、過去の訓練や経験を考慮して、どちらのグループもほぼ同じ構成になるようにされています。
どちらのグループの犬にも、2つの違う物体が示され、指示されたものと同じものを選択することが求められるという、同じ訓練課題が与えられました。
1つの物体は、白い水玉のついた青いカゴに、ウッドチップが入っているものです。もう1つの物体は、黒い縞模様の緑の箱に、猫砂が入っているものです。つまり色も形も匂いも、全く違う2つの物体を区別する訓練です。
犬は10回のトライアルを1セットとして、2回のセッションで連続して80%の正答率を出すまで、訓練が行われます。
訓練が終わった直後に、1つのグループは10分間歩いてプレーグラウンドに行き、そこにあるおもちゃやフリスビーで10分間好きなように遊びます。そしてまた10分間歩いて戻ってきます。
もう1つのグループは、訓練の直後にベッドに横たわり、その隣で犬の飼い主と研究者が30分間会話をします。その間研究者は、犬が眠ってしまわないよう名前を呼ぶなどして目をくばります。
そして翌日、同じ訓練セッションを行いました。結果は、遊び組が平均26回のトライアルで訓練を終了できたのに対し、休憩組は平均43回のトライアルを行ったという、はっきりとした違いが確認されました。
この結果は、学習後の「楽しい覚醒」は人間と同様に、犬の記憶を増強する効果があることを示唆しています。
作業犬の訓練への応用に期待
この研究では、犬の記憶が増強されるメカニズムについては示されていませんが、犬たちが遊んでいる間に分泌された脳内ホルモンが関連すると推測されています。
しかし、犬たちの遊びは体を動かす運動でもあり、この効果が遊ぶという行為によるものか、運動によるものかを確認するためには、さらに研究が必要とされています。
このように訓練の後に、遊びの時間を設けることがのちの学習効果を高めることになるという結果は、探知犬などの作業犬の訓練効率を高めることに応用が期待されます。犬の福祉も向上し、訓練の効率が良くなるというのは犬にも人間にも嬉しいことですね。
家庭犬の場合も、この結果は応用ができるかと思います。犬に何かを覚えてもらいたいときには、最後に綱引きやモッテコイ遊びをして終えるというのを、ワンセットにすると良さそうですね。
まとめ
犬の訓練セッションの後に遊びの時間を設けることで、翌日以降の訓練効率が大幅にアップしたという研究結果をご紹介しました。
英語のことわざで、「勉強ばかりして遊ばないと子供はばかになる」というものがありますが、まるでその言葉の通りのような研究結果だなあと思いました。
この効果は人間の他に、類人猿やラットなどのげっ歯類でも確認されており、哺乳類の脳の働きは共通する部分が多いのだなと感心させられます。犬との遊びの時間の大切さも改めて痛感させられました。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0031938416303626?via%3Dihub