実験犬の安楽死を減少させるために
様々な医薬品の開発のため、私たち人間は多くの実験動物の命を犠牲にしています。しばしば「人類の最良の友」と呼ばれる犬たちも例外ではありません。科学者が求める正確な試験結果を得るために実験に使用され、終了後には安楽死となることも多々あります。
しかしこのたび、アメリカで食品や医薬品などの製品の認可や、違反取締りを行うアメリカ食品医薬品局が、実験犬の安楽死を減少させるための研究を開始すると発表しました。1日も早い実現が待たれる、その研究の内容をご紹介します。
犬の命を奪わずに検査をする方法を研究
従来の方法では、犬の安楽死が必要事項になっている医薬品開発のひとつが、新しい抗寄生虫薬の研究です。人工的に寄生虫感染させた実験犬に、治療のための薬を与えて、その効果を実験します。
これらの薬物に使用される分子の一部は腸にのみ作用し、血流によって全身に吸収されないため、実際にその薬物が働いたことを確認するためには、安楽死させた犬を解剖して検査を行うことがあります。
この検査方法は、新規の医薬品の開発および、ジェネリック医薬品の承認のための検査など頻繁に使用されています。
しかしアメリカ食品医薬品局が発表した新しい計画では、犬を解剖するのではなく、血液検査で薬物を検出する方法を研究していく予定です。
シンプルに血液採取を行い血液を検査する方法が、従来の方法と同じくらい正確に、薬物の生物学的同等性を評価できるかどうかを研究していきます。
研究の概要
研究計画では、29匹の犬で実験を行う予定です。
実験が始まるまで、犬たちは人間のそばで快適に飼育されます。その後犬たちは研究施設に移り、3か月間はスタッフが1日に4〜5回の遊び時間を費やして過ごします。
そのようにして心身ともに健康に育てられた犬たちは、3つのグループに分けられ、各グループはそれぞれに違う種類の薬を投与されます。
投与される薬は局所的に作用する抗寄生虫薬と、血流に吸収されるタイプの抗寄生虫薬の混合物です。9か月の実験期間中、犬は研究のために定期的に血液を採取されます。
これらの薬物は、犬の体にどのように影響するかが既によくわかっているものです。過去のデータに基づいて、研究者は血流に吸収された血液中の薬物吸収のレベルを用いて、もう一方の薬物がどのように働いているかを予測するモデルを作成しました。
実験に参加した犬たちの血液はこのモデルが実際に正確であるか、改良が必要な場合にはどのようにするのかという研究に用いられます。この研究が成功すれば、食品医薬品局は医薬品の承認を得ようとする製薬企業に、モデルの使用を促し、犠牲になる犬の数を大幅に削減することができます。
実験動物の『3Rの原則』
近年、研究に使用される実験動物について『3Rの原則』の徹底は、グローバルな動きの一環となっています。3Rとは以下のようなものです。
- Replacement(代替)できる限り動物に代わるものを利用する
- Reduction (削減) できる限り利用に供される動物の数を少なくする
- Refinement (改善) できる限り動物に苦痛を与えないこと
科学者は、実際に動物などの対象物を取り扱わないコンピュータモデリングプログラムを創ったり、より侵襲性の低い診断検査を考案したりと、『3Rの原則』の徹底に尽力しています。
まとめ
医薬品の開発に使われる、実験犬の安楽死を減少させるための研究についてご紹介しました。
近年はようやく実験動物の福祉についても考慮される例が増えてきました。「研究や開発に携わっていない人間には関係のないこと」ではありません。大切な愛犬が使用しているノミダニ駆虫薬や、フィラリア予防薬も実験動物なくしては開発されなかったものです。
不要な動物実験が廃止され、必要なものについても最小限で、実験動物の福祉が考慮されたものになるには、一般消費者の関心が向けられていることがとても重要です。
なお、ここで紹介した食品医薬品局の研究実験に参加する犬たちは、この実験後は研究室での仕事からは引退して、家庭犬として新しい生活を始めることが予定されているそうです。
《参考》
https://www.fda.gov/downloads/AnimalVeterinary/ScienceResearch/ToolsResources/UCM626050.pdf