動物病院は犬にとってストレス?
皆さんのお宅のわんちゃんは、動物病院が苦手ですか?
たまに「うちの子は獣医さんが大好きで」というお話も聞きますが、病院は好きじゃないとか、大嫌い!というわんちゃんは多数派だと思います。
そんな「動物病院に行くことと犬の行動と福祉の関係」というテーマで、イタリアのピサ大学の研究者が大規模なアンケート調査を行い、その結果が考察とともに発表されました。
確かに病院に行くことがストレスになるという犬が多かったのですが、他にも興味深いことや、人間が心しておかなくてはいけないことが調査の結果から見えてきました。
「犬と動物病院」に関するアンケートの様々な数字
このアンケートは、イタリアの906人の犬の飼い主を対象に行われました。ほとんどの飼い主が、自分の犬は病院の待合室から獣医師による診察まで、病院の中で起きる全ての段階のどこかで、大なり小なりのストレスを感じていると報告しています。
病院へ行く初期段階での犬のストレスに関する回答は次のようなものでした。
- 犬は車の中で、すでに病院に行くと気づいている:39.7%
- 家を出る前に、すでに病院に行くと気づいている:7.4%
- 病院に到着するとすぐに、ストレスサインを見せる:52.9%
獣医師から受ける全ての医療的処置におとなしく耐えられる犬は約3分の1しかいないようだ、という結果もこの研究から出ており、その数字自体も研究者は重大に受け止めているようです
しかし待合室に入る以前の段階で、すでにストレスサインを見せている犬が上記のように見られることは、おとなしく診察を受けているように見えても、実は恐怖やストレスで抵抗できなくなっている可能性が大いに考えられます。
犬が病院で強いストレスを感じていることを示す数字としては、
- 診察室へ入ることを拒否するので抱いて運ぶ必要がある:16%
- 獣医師が与えようとした食べ物を食べない:37%
- 病院で飼い主を咬んだことがある:6.4%
- 獣医師に唸ったり歯をあてたりしたことがある:11.2%
待合室や体重測定など病院での初期の段階でストレスを感じている犬は、診察や検査などのもっと後の段階でもストレスを感じている割合が高いこともわかりました。
また病院ではなく、家庭で歯磨きや爪切りなどのケアをする際、47%の飼い主は「問題なくできる」と答えていますが、「ケアに困難を感じたことがある」と答えた飼い主も約3分の2いました。
ケアに困難を感じたとき、72.4%の人が犬を叱り、強制的にケアを行うと答えています。
同じ状況で犬を叱らないと答えた人は、14%しかいませんでした。
研究者はこの数字をとても重く見ており、犬が家庭でのケアを嫌がったときにに飼い主に叱られることと、動物病院で診察中の獣医師に、攻撃的な態度を見せることに関連を見出しています。
またこの関連は、家庭でのケアを犬が嫌がっても叱って無理やり行った場合にも、叱ってケアするのをやめた場合にも見られたということです。
研究者は、ケアや治療を嫌がる犬を叱ることについて、「状況を悪化させ、犬の福祉を損なっている」と懸念を示しています。
病院での犬のストレスの緩和について、研究者の考察
とはいえ、ケアや病院での診察は犬にとっても大切で必要ななことで避けることはできません。
病院での犬のストレスを少しでも和らげるのはどうすれば良いのでしょうか?
研究者は、「子犬の頃から、病院に慣れさせることが大切」と述べています。まずは、病院に行っても何も処置をせず場所に慣れさせることから始め、その後体温測定や耳のチェックなどの一般的な医療行為に慣れさせるのです。
また車での移動をポジティブなことに関連付けることも大切です。
車での移動は病院だけでなく、楽しい場所への移動にも積極的に使う、車で病院に行っておやつを食べて帰ってくる、などはその一例です。
最も重要なのは、犬が嫌がったときに叱らないことです。
まず何が犬にとってストレスになっているのかを飼い主が明確に理解しなくてはなりません。
自分だけでは解決できないと判断したら、動物行動学者または動物行動学を理解しているドッグトレーナーに相談することが推奨されています。
研究者は、飼い主だけでなく獣医師の行動も重要であると述べています。
診察室で飼い主が犬を叱った場合など、獣医者は飼い主に対して、それが動物福祉を損なっていることを伝え正しい対応を指導することが必要だとしています。
半数以上の獣医師は犬に優しく話しかけたり、名前を呼んで撫でたりという行動を実行しています。これだけでは嫌がる犬が落ち着きを取り戻すには弱いのですが、これらの行動をしない場合には、犬は獣医師に対してさらにストレスを感じる可能性が高いため、やはり有効であるとしています。
また動物病院内の騒音や、待合室のレイアウトなどをストレスの少ないものにすることの大切さにも言及しています。
まとめ
イタリアのピサ大学の研究者が行った、動物病院での犬のストレスに関する飼い主へのアンケート調査の結果と考察をご紹介しました。
従来から言われていたことと重なる部分も多いのですが、動物病院での犬のストレスを飼い主や獣医師がどのように扱うかで、動物福祉を損なうことにもなるという点にはハッとさせられました。
研究者は獣医師へのアドバイスとして、「動物の福祉を保護することは獣医師という職業の義務であることを認識してください。」と述べています。
一般の飼い主には、動物病院を選ぶポイントのひとつとして覚えておいてほしいとも述べています。
愛犬を病院に連れて行くときには、「この犬の福祉を損なわないこと」を強く意識しようと考えさせられました。
《参考》
https://www.companionanimalpsychology.com/2016/10/dogs-stressed-at-vets.htm
《原著論文》
Mariti C, Pierantoni L, Sighieri C, & Gazzano A (2016). Guardians' Perceptions of Dogs' Welfare and Behaviors Related to Visiting the Veterinary Clinic. Journal of applied animal welfare science : JAAWS, 1-10. https://doi.org/10.1080/10888705.2016.1216432
動物の福祉に気を使ったり行動学的な観点を持つ獣医師や動物病院は、犬が楽しく動物病院に来てくれるようになるために、診察する必要がなくても病院に立ち寄ることを快く迎えてくれるはずです。病院に来たらおやつをもらって、スタッフと遊んでもらうのに何曜日に来たらいいか、何時ごろに来たらいいか、事前に相談してくと良いでしょう。
JAHA(公益社団法人 日本動物病院協会)は「人と動物の共生社会の実現に向けて」という理念のもと、動物の福祉にも配慮した社会づくり、動物病院づくりを行っています。特に、同協会認定のしつけインストラクターがいる病院では、子犬が病院に来た際には、健康チェックやワクチン、駆虫などの医療行為を行うだけではなく、その子犬が楽しく病院にやってくる犬に育つ対応をしてくれるでしょう。
≪公益社団法人 日本動物病院協会≫