犬と時間の感覚
犬と暮らしていると、彼らの体内時計の正確さに、驚かされることがたびたびありますね。食事の時間、散歩の時間、飼い主の帰宅時間を、犬たちはとても正確に覚えています。
言うまでもなく犬が時計を読むわけはないので、日中の日の高さや気温などが、犬に時間の情報を提供していると考えられます。
以前の研究では、家の中に漂っている飼い主の残り香が、時間の経過とともに薄くなっていき、一定の濃度になったことで犬は、「そろそろだ!」と飼い主の帰宅を予想することもできると発表されています。
しかし、そのような環境的な要因とは別に、哺乳動物が脳内で明確な時間感覚を持っているという証拠が、新しい研究によって明らかになりました。
アメリカのノースウェスタン大学の研究者が発表した研究の内容をご紹介します。
マウスを使った「時間の計算」実験
実験は、マウスとバーチャルリアリティ環境を使って行われました。
マウスはバーチャルリアリティ環境の中で、本物のトレッドミルの上を走ります。
バーチャルリアリティの中で、マウスは仮想の廊下を走り、仮想のドアに突き当たります。
仮想のドアの前で6秒間待つとドアが開いて、さらに進むとマウスはリアルなおやつを受け取ることができます。
何度かの練習で、マウスは6秒待って進んでいくとおやつをもらえるということを完全に学習しました。
その後、研究者は突き当たる仮想のドアを消して見えないように設定しました。
面白いことに仮想のドアが消えても、マウスは仮想空間の同じ位置に行って6秒待ってから先に進んでおやつを手にしました。
「閉じているドアが開くまでの時間」という目に見える感覚がなくても、マウスは自分の脳の中にある6秒という時間感覚を使ったということが考えられます。
哺乳動物の脳
研究者は、さらにバーチャルリアリティ環境で走っているマウスの脳の活動を、高解像に画像化する技術によって観察しました。
マウスが仮想ドアの前に来ると、マウスの脳内で空間情報の符号化を制御するニューロンが発火するのが観察されました。
マウスが仮想ドアの前で止まると、そのニューロンは消えて、待っている時間には新しいニューロンの発火が始まります。
そして、これらの空間情報に関するニューロンも時間情報に関するニューロンも、マウスがアクティブに走っている最中には、発火しなかったこともわかりました。
これはマウスの脳内で、マウスがどのくらいの時間活動を止めて、ジッとしているかが符号化されているということだそうです。
哺乳動物の脳の働きは共通する点が大変多く、犬が食事の時間や散歩の時間になるとソワソワしたり催促に来たりするときには、マウスの実験で観察されたのと同じ脳の領域が活動していると考えられるそうです。
犬は環境的な要因からの判断と、脳内で「これくらいの時間待ったからごはんの時間だ」と符号化された情報を使って、時間を判断しているということですね。
私たちが「犬の体内時計の正確さは素晴らしい」と感じていたことが、科学的に証明されたと言えるでしょう。
まとめ
マウスを使った実験で、哺乳動物の脳内に『時間符号化ニューロン』が発見され、哺乳動物の脳が時間の感覚を制御できることがわかったという研究をご紹介しました。
これは私たちの愛犬が、「ごはんまだ?」「散歩の時間だよ」「もうすぐパパが帰ってくる」という様子を見せるとき、犬自身がそのことを時間の感覚として理解していることを意味します。
また、アルツハイマー病の患者さんが、ある物事が起こったことを忘れてしまうことは、この脳の領域の機能が失われているためと考えられます。
今回の研究はそのような疾患を理解して、治療の糸口を発見する助けになる可能性があります。
待っている犬の脳内で、こんなにいろいろなことが起こっていると考えると、改めて驚嘆させられますね。
《参考》
https://www.sciencedaily.com/releases/2018/10/181023130518.htm