筋ジストロフィーという病気
筋ジストロフィーは、身体の筋肉が壊れやすく、再生されにくいという症状を持つ多くの疾患の総称です。
遺伝子の中のある種の変異が、この疾患の症状となって現れます。現在のところ根本的な治療薬がない難病です。
筋ジストロフィーは犬にも発症し、細胞骨格を形成するタンパク質が不足、又は欠損しているため、筋肉が正常に動かず運動能力に支障を来し、栄養失調や臓器不全を招きます。遺伝子の突然変異による進行性の疾患で、有効な治療法がないとされてきました。
しかしこのたび初めて、科学者たちがゲノム編集の技術を使って、犬の筋ジストロフィーの進行を止める研究が行われていることが、『サイエンス誌』で報告されました。
ゲノム編集技術で遺伝子の欠損を修正
今回の研究を報告したのは、テキサス大学サウスウエスタン・メディカルセンターのドクターです。研究の対象となったのは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを患っている4匹の犬の治療でした。
筋ジストロフィーの中でも、最も一般的と言われるデュシェンヌ型は、ジストロフィンという重要なタンパク質を作る遺伝子が、突然変異による欠損で正常に働かなくなることで引き起こされます。ジストロフィンが作られないと、心臓や横隔膜をも含む体全体の筋肉が時間とともに破壊されていきます。
この問題を解決するには、遺伝子にジストロフィンを生産させるようにしなくてはなりません。
従来の遺伝子治療研究では、欠損が生じた遺伝子を正常なものに置き換えることが研究されていたのですが、遺伝子を置き換えるというのは余りにも膨大でハードルが高過ぎたそうです。
今回の研究チームは、欠損した遺伝子を修正するというアプローチを取り、そのためにCRISPR遺伝子編集技術が使用されました。
その結果、数週間のうちに4匹の犬たちの体全体の筋肉にジストロフィンが回復したことが確認されました。
回復の効果は身体の部位によって差があったのですが、心臓の筋肉においては正常値の92%、横隔膜においては正常値の58%という回復を見せました。
これは研究者たちが「前例のない改善」と呼ぶほどのものでした。
人間の筋ジストロフィー治療に応用できる可能性
動物の治療研究が、人間の治療研究の大きな手掛かりとなることはしばしばあります。
今回発見されたゲノム編集技術を用いた治療方法は、まだ初期段階ではあるが、有望なものと見ることができると研究者は述べています。
短期的なスパンでは良好な結果が得られた、この研究を人間に応用するためには、長期的なスパンでの影響を含め、更に研究が必要だとされています。
研究者は今後、動物でのさらなる研究で、数年のうちに人間のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療へと向かう可能性の希望を語っています。
まとめ
有効な治療法がないと言われていた犬の筋ジストロフィーを、ゲノム編集技術を使って治療し
良好な結果が得られたという研究をご紹介しました。
難病に苦しむ犬たちへの有効な治療法が発見されたというのは、嬉しいニュースですが、それが人間の治療にも応用される可能性があると聞けば、更に明るい気持ちになりますね。
《参考》
https://consumer.healthday.com/disabilities-information-11/muscular-dystrophy-news-489/gene-editing-in-dog-study-shows-promise-for-kids-with-muscular-dystrophy-737258.html
https://www.jmda.or.jp/what-muscular-dystrophy/