商業的繁殖施設における犬の福祉と健康
アメリカに、「犬の福祉と健康のための研究」を支援することを目的とした、スタントン財団という団体があります。インディアナ州にあるパデュー大学動物福祉科学センターの研究チームが、この財団から198万ドル(約2億1000万円)の助成金を授与され、新しい研究が開始されました。
研究の内容は『商業的繁殖施設における犬の福祉』です。犬の商業的繁殖施設と言うと、多くの人が思い浮かべるのはパピーミルと呼ばれる、犬の健康や福祉のことは全く考えられていない、利益追及だけを目的にした繁殖業者です。
しかし、この研究が対象にするのは、そのようなパピーミルとは一線を画した、アメリカ農業省の認可を受け、定期的な査定で合格基準を満たしている繁殖施設です。
対象となる繁殖施設の規模は、一般の住宅で少数の繁殖だけを手がけるブリーダーから、大規模施設で年間に何百匹もの子犬を送り出す施設まで、様々です。
アメリカのペット市場でも純血種の子犬の需要は高く、商業的な繁殖施設を頭から否定することはできないのが現実です。そのような施設に科学をベースにした、犬の福祉と健康のための明確な基準を作ろうというのが、この研究の目的です。
具体的にどのような研究が予定されているかをご紹介していきます。
床材のチョイスは犬たちの福祉と衛生にどんな影響がある?
犬舎の床材のチョイスは、掃除のしやすさや、犬の健康を左右する重要な要素です。アメリカ国内の施設の床のタイプと、そこに暮らす犬たちの健康状態や衛生状態の関係を調査して、様々な相関関係を見いだし、理想的な床材を探っていきます。床のタイプの違いによる、犬の快適性や行動の違い、犬の好みについても調査が行われます。
繁殖犬たちの歯周病の有病率をリサーチ
パピーミルのような酷い施設ではなくても、歯周病は繁殖施設で飼育されている犬の最も一般的な健康上の問題点です。しかし、現在のところ、繁殖施設の犬たちがどのくらいの割合で歯周病にかかっているかという研究は行われていません。この歯周病に関するリサーチでは、繁殖犬たちの歯周病の罹患率の割合と、効果的な検査の方法を探すことが目的です。
犬たちの福祉がどのくらい守られているかの評価ツールの開発
「犬の福祉に配慮した倫理的な施設の運営」というような曖昧な表現では、全国的な基準を作ることも正しい評価もできません。繁殖施設で暮らす犬の福祉と健康を守り改善するために、信頼性が高く標準化された明確な評価スケールを作成することが研究されています。
繁殖犬の引退時期とリホームについてのついての考察
商業的な繁殖に使われた、親犬の引退とリホーム(家庭犬として新しい飼い主を探す)のための最良の方法を確立することが研究されます。これらのことをビジネスオーナーの個人的な判断ではなく、客観的で科学的なバックアップをベースにして基準を作る必要があります。
大規模な犬舎の中でしか暮らしたことがない繁殖犬が、引退後に普通の家庭犬としてスムーズに馴染めるような準備プログラムも研究されます。
まとめ
アメリカのパデュー大学の研究チームが、商業繁殖施設における犬たちの福祉と健康に関する研究をスタートさせたという情報をご紹介しました。
アメリカの話ではあるのですが、「商業的な繁殖施設を頭から否定することはできない。それなら犬たちの健康と福祉が守られるための明確な基準を作ろう。」という姿勢は、日本でも大いに参考になるのではないかと思います。
ここで紹介したような研究が実を結んで、繁殖犬たちが衛生的で、健康に暮らすための基準が作られ、国際的な広がりになることを願ってやみません。
《参考》
https://vet.purdue.edu/discovery/croney/current-research-welfare-breeding-dogs.php