変形性関節症に対する最新のアプローチ
愛犬の変形性関節症に悩んでいる方は多いですね。
変形性関節症と言うと、「それは何?」と馴染みのない感じがしますが、一般的に関節炎と呼ばれるものです。加齢や肥満などがきっかけで、ヒザの軟骨や半月板がすり減って変形し、炎症を起こして痛み伴ったり、運動能力を妨げたりする病気です。
犬の関節炎の治療は、痛み止めや抗炎症剤の投与、サプリメントやハーブなどの代替療法、運動などの理学療法、外科手術などがありますが、大多数の患者に効果があるというスタンダードな治療法は、これまではありませんでした。
しかし、再生医療のひとつで、効果的な幹細胞治療が研究開発されており、このたび、その結果が発表されました。
幹細胞治療とは、身体の様々な組織になる未分化な細胞=幹細胞を利用して、怪我や病気で損傷した組織の再生や、根本的な治癒を目指す治療法です。
注射を打つだけのシンプルで簡単な治療法
新しい治療法を開発し、発表したのは、イタリアのサン・ミシェル獣医学病院の研究チームです。
研究チームが注目したのは、幹細胞治療の中でも、今まで治療が困難とされてきた怪我や病気の治療に期待されている、「間葉系幹細胞」です。
従来の「間葉系幹細胞」は、骨髄から採取して培養〜増殖するのですが、これは採取できる量に限りがあり、培養には、施設も時間も必要になります。
今回、研究チームが行った治療は、脂肪組織に由来する「間葉系幹細胞」治療です。
骨髄から採取するのに比べ、安全かつ容易に、大量の細胞が得られます。
研究は2014年から2017年までの間に、ヨーロッパの7つの獣医学病院で、変形性関節症の治療を受けた130匹の家庭犬が対象となりました。
それぞれの犬から、自己の脂肪組織を採取して、間葉系幹細胞を取り出し、関節炎の患部に注射するというシンプルな手順の治療法です。
入院などの必要がないため、犬への負担も最小限に抑えられます。
幹細胞治療の効果は?
犬たちの臨床結果は、治療後の整形外科検査と飼い主からの査定で検証されました。
78%の犬が、治療の1か月後から整形外科検査の数値が改善を見せ始め、6か月後には88%の犬の検査結果が改善していました。11%の犬で変化が見られず、1%は悪化していましたが、重大な悪影響はありませんでした。
飼い主からの査定では、92%が大幅に改善、6%がわずかに改善、2%が悪化したという結果でした。ここでも重大な悪影響は認められませんでした。
研究者はこれらの結果から、犬の変形性関節症の治療として、脂肪組織由来の幹細胞注射が安全で有効であると結論付けました。
従来の幹細胞治療に比べて、複雑で時間のかかる細胞培養処理を省くことができるので、時間、費用ともに効率が良く、治療の手順も簡便です。
この犬の治療研究が、人間の変形性関節症にも利用されることが、期待されているとのことです。
まとめ
再生医療の一種である、幹細胞治療の簡便な方法が研究開発され、犬の関節炎治療に効果があったという結果をご紹介しました。
犬の関節炎というと、「年齢的に仕方がない」と考える飼い主さんも多く、それ自体が命に関わる病気ではないので、あまり重大視されない傾向があるように思います。
また、「再生医療」とか「幹細胞治療」と聞くと、大仰な治療や高額な費用が連想されて、尻込みしてしまうこともあるかと思います。
注射一本という、犬に負担のかからない治療法が、従来よりもずっと安価に提供されるなら、犬にも飼い主さんにも嬉しいことですね。
痛みがなくなり、若い頃のように運動ができるようになれば、犬のQOLが上がることはもちろん、体全体の健康レベルが改善することも期待できます。
「脂肪由来の幹細胞治療」このキーワードを、ぜひ覚えておいてくださいね。
《参考》
https://stemcellsjournals.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/sctm.18-0020