介助犬がADHDの児童の症状を軽減するという研究結果

介助犬がADHDの児童の症状を軽減するという研究結果

ADHD児童へのサポート方法の1つとして介助犬の参加が研究されています。介助犬の存在が症状の軽減に効果があるという新しい研究結果をご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

ADHDの児童をサポートする介助犬の研究

ベンチで休む介助犬とオーナー

私たち人間の介助をしてくれる介助犬。日本ではまだ、盲導犬や聴導犬など、身体的なハンディキャップをサポートしてくれる介助犬のみが一般的ですが、アメリカではメンタルヘルスに対する介助犬もたくさん活躍しています。

そして現在、カリフォルニア大学アーバイン大学医学部では、ADHDの児童の治療をサポートするための介助犬の研究が進められています。どのような研究なのかをご紹介したいと思います。

ADHDの従来の療法と、介助犬が入った療法の比較

ラブラドールに抱きつく女の子

ADHD(注意欠陥多動性障害)の治療には薬物療法と、心理教育や認知行動療法などを含む「心理社会的な介入」と呼ばれるものがあります。

今回の研究では、この「心理的社会的な介入」に介助犬をプラスした方法と、従来通りの心理的社会的介入の方法を受けた結果を比較しています。

研究に参加したのはADHDと診断された7歳から9歳の子供88名です。この子供たちは、薬物療法を受けたことはありません。88名のうち、80名が最後の調査まで完了することができました。

犬とそのハンドラーは、認定介助犬の団体から来ており、医療現場や学校での経験もある3ペアのハンドラーと犬たちです。子供たちは無作為にグループに分けられ1つのグループは従来の心理社会的療法を12週間に渡って受けました。

そして、もう一つのグループは全く同じカリキュラムに介助犬が参加した療法を、同じく12週間受けました。介助犬が参加しない療法を受けたグループでは、生きている犬の代わりにぬいぐるみなどの犬のおもちゃが使われました。

どちらのグループも療法開始前、療法終了直後、終了から6週間後、終了から12週間後に同じテストや親がアンケートを受けて、その結果を比較しました。

介助犬が療法に加わったことの効果

犬と寄り添う男の子の後ろ姿

テストの結果の比較は、療法終了後にはどちらのグループもADHDの症状が軽減していました。さらに、介助犬を導入したグループの方は、8週目にして注意力やソーシャルスキルの改善が見られ、問題行動も少なくなっていました。衝動性や多動性については、2つのグループ間に有意な差は見られませんでした。

犬の存在によって治療の効果が早く出ることは、大きな注目点です。さらには、介助犬が参加した療法を受けた子供たちの親が、「療法を受けて時間が経過した後も、問題行動が少なくなったままである」ということを報告しています。

このことは、介助犬は常に治療の対象になる人のそばにいる必要はないということを現しています。認知行動療法など、心理社会的療法を受ける際に介助犬が参加することで、治療の効果は早く現れ、さらに長く持続するというのは、ADHDの児童と家族にとって大きな希望です。

まとめ

伏せているラブラドールレトリバー

カリフォルニア大学アーバイン大学医学部の研究者が行っている、ADHDのための介助犬の研究をご紹介しました。

介助犬が参加した療法を受けた子供たちで、「不注意の減少」「ソーシャルスキルの向上」「問題行動の減少」が報告されました。
この結果は薬物療法に代わるもの、または薬物療法と併用することで、さらに高い効果を期待できるものとして注目を集めています。

今後ADHDに対する介助犬の研究はさらに進められていく予定ですので、さらに多くの子供たちがその恩恵を受けられるようになるといいですね。

それにしても、犬が私たち人間を助けサポートしてくれる力の大きさには改めて感嘆せずにはいられません。
犬って本当にすごい生き物ですね。

《参考》
http://som.uci.edu/news_releases/UCI-led-study-finds-therapy-dogs-effective-in-reducing-symptoms-of-ADHD.asp

《原著論文》
Schuck SEB, Johnson HL, Abdullah MM, Stehli A, Fine AH and Lakes KD (2018) The Role of Animal Assisted Intervention on Improving Self-Esteem in Children With Attention Deficit/Hyperactivity Disorder. Front. Pediatr. 6:300. doi: 10.3389/fped.2018.00300

監修獣医師による補足

【補足】

これまでも自己肯定感の改善などに動物介在活動が有効であると示唆する論文はありましたが、その効果に否定的な論文もありました。異なった結論の論文がある理由は、過去の研究における実験デザインにあると本論文の筆者らは考えています。

本論文は、この分野における初めての「無作為化比較試験」であり、特定の操作(この研究においては、介助犬が参加するかしないか)以外は全て公平になるようにグループ分けをし、その操作の効果を比較検討しています。

今回の研究にはポシティブイリュージョン(肯定的にかたよった認知)によるバイアス(かたより)や効果判定の指標として自己肯定感を用いることなどに課題はありますが、無作為化比較試験によって介助犬の有効性が示された点で大きな価値のある研究だと研究者らは考えているようです。

アメリカにおけるADHDの治療として薬物療法が現在も第一選択ではありますが、ADHDの児童を持つ親の中には代替療法を望む声も多く、今回の研究結果と今後のさらなる研究によって薬物療法以外の治療法を望む人たちの選択肢が増えることが期待されています。

獣医師:木下明紀子
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