犬の食糞行動を科学の面から読み解く研究
犬がウンチを食べてしまうことは、多くの飼い主さんにとって悩みの種です。
犬によって、それが自分で排泄したものだったり、他の犬のものだったりと違いはありますが、人間にとっては、どちらも困った行動であることに変わりはありません。
この食糞行動について、そもそもなぜそんなことをするのだろうか?という研究が、アメリカのカリフォルニア大学デイビス校の研究チームによって、発表されました。
この研究では、猫や草食動物のフンを食べてしまう犬の行動は除外されており、犬のフンを食べてしまう犬だけが研究対象になっています。
以前からよく言われている栄養不足や、心理的なトラウマが原因という説とは、全く違う角度からの興味深い研究内容です。
統計から見た食糞行動をする犬の特徴とは?
研究のための調査は、ウェブを利用した広範囲なアンケートと、愛犬が食糞行動をすると答えた飼い主への直接の聞き取り調査によって行われました。
アンケート調査の結果では、16%の犬がこれまでに食糞行動をしたことがあるとのことでした。さらに、そのうちの76%が10回以上の行動が観察されていました。
研究者はこの76%の飼い主への聞き取り調査を行い、食糞行動をする犬の特徴を洗い出そうとしました。意外なことに、これらの犬の年齢や食事の内容、母犬から離乳したときの月齢には、共通点や類似点はありませんでした。
この調査では、食糞行動をした犬の75%は4歳以上、聞き取りの結果から分析される日頃の行動から、強迫障害的なものや、心理的なトラウマが関連しているとは思われませんでした。
また、食糞行動を見せる犬たちも基本的なトイレトレーニングなどはできており、訓練が特に困難だったということもなかったそうです。
では共通していたことは何だったのでしょうか?それは食糞行動を見せた犬たちが皆、「食べることにとても貪欲であること」でした。多頭飼いの犬が多く、土や猫のフンを食べるという例も報告されました。犬種ではテリアと猟犬系の犬種が多いという特徴もありました。また、犬たちが圧倒的に好むのは排泄されてから2日以内の新鮮な便であることもわかりました。
飼い主がとった「対策」は有効ではなかったのか?
聞き取り調査では、犬たちの食糞行動を止めさせるためにどのような対策をしたかも質問されました。
トレーニングなどの行動療法で成功したという人は4%でした。「それだけ!?」という数字ですが、実はこれが一番高い成功率でした。
フードにプラスして食べさせるサプリメントや、食糞防止の薬では、挙げられた11種の製品のうち、1つだけが2%の成功率、3つが1%で残りは全く効果がなかったとのことでした。あくまでもこの調査の中での数字とはいえ、なかなか絶望的な数字ですね。
しかし、この研究の目的は食糞行動を止めさせる方法を探すのではなく、どうしてこのような行動が起きるのかを明らかにするためなので、これらのアンケートや聞き取り調査の結果から仮説が導き出されました。
食糞行動はイヌ科の祖先から引き継いできた行動?
研究者たちが導き出した仮説は、「犬の食糞行動はイヌ科の祖先であるオオカミから引き継いだ適応行動のひとつではないか」というものです。
オオカミは群れで行動し、生き残るための戦略は常に群れ単位であることが、行動のベースになっています。群れのメンバーが怪我や病気のために巣の中で待機するようなことが起こったときには、その個体が排泄した便は、他のオオカミがすぐに食べてしまうのだそうです。
便を放置しておくと、時間の経過とともに寄生虫や細菌が増殖して、巣の環境を汚染してしまうため、それを予防するための行動だと考えられます。寄生虫や細菌は2日目以降、大幅に増殖します。
食糞行動をする犬の共通点「食べることに貪欲であること」は、オオカミの特徴と一致しています。また、犬たちが2日以内の新鮮な便を食べていることもオオカミの行動と一致します。行動療法のトレーニングやサプリメントなど食餌療法的なものでも、行動が容易に変更されないことからも、祖先から引き継いだ適応行動の可能性が示唆されます。
まとめ
アメリカの研究者が発表した、犬の食糞行動についての調査と考察をご紹介しました。意外なところに、イエイヌがイヌ科の祖先から引き継いだ行動が残されていたのかもしれません。
この研究では、「食糞行動は犬にとって医学的には無害である」とも述べています。しかし多くの飼い主にとって受け入れがたい行動であるのもまた事実ですので、頭の痛い問題ですね。
この研究は、行動の修正を目的としたものではないので、どのような対策をとったかについての聞き取り調査はあまり深い部分まで踏み込んだものではなかったようですが、行動療法の中でも効果のあった方法をしっかりと洗い出して、確実に実行することで成功率の改善は期待できると言われています。
今後の行動療法の研究にも期待したいですね。
《参考》
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/vms3.92