犬はおだやかで、オオカミは凶暴?
犬の先祖はオオカミであるという前提で、オオカミの行動を犬の行動の参照として引き合いに出すことは度々行われてきました。けれど近年の研究では、オオカミと犬がいかに違うかという点が多く取り上げられています。
また一般的に犬はおだやかで寛容、オオカミは攻撃的で凶暴だというイメージが先行している傾向もあります。しかし2015年に発表された研究では、群れの中の下位の個体に対してエサの分配などでオオカミの方が犬よりも寛容な態度を示すことが報告されています。
そして今回、2015年の研究と同じオーストリアのウィーン獣医科大学の研究チームが科学誌に興味深い発見を発表しました。その内容をご紹介します。
群れで生きるためのルール、争いの後の和解
オオカミが群れで暮らしていることはよく知られています。群れのメンバーが確実に生き残るために、オオカミの群れには行動に関するルールが存在することが以前の研究でわかっています。
この度の研究では、群れのメンバー内で身体的な争いが起こった場合に、オオカミは争いの直後に和解し合う行動規則が見られるのに対し、犬の場合はそのような争いの解決能力が失われているように見えると報告されています。
この傾向をさらに確認するために、研究者はオオカミと犬のパックを形成して改めて行動を観察しました。
オオカミと犬のパックの比較観察
比較観察のために研究者が作ったパックは、オオカミも犬も4匹の個体で構成されています。
オオカミのパックは、捕獲された野生の個体4匹で、元々はそれぞれ全く違う群れに属していた者たちです。
オオカミたちはお互いに面識がないため、顔を合わせた直後は個体間で多くの紛争が起きたことが観察されています。その頻度は平均して1時間に1回程度でした。しかし、オオカミ同士の紛争は短時間で収束し、争いの後はほとんど直ちに和解する傾向があることが観察されました。争いの後、10分もすればオオカミたちは一緒に遊ぶ姿が見られたということです。
犬のパックは、保護施設から連れてきた4匹で構成されました。オオカミの場合と同じように、犬たちもお互いに面識がないため、最初のうち犬同士の紛争が起こりました。
紛争の回数はオオカミに比べて少なかったのですが、1つ1つの争いがオオカミよりも激しく、争いの後もオオカミのように和解するのではなく、お互いを回避する傾向が見られました。
オオカミと犬の行動の違い
研究者は、オオカミ同士の争いの時間が短く、争い後すぐにお互いの関係を修復することは、争っている最中に外部からさらなる危険がやって来るリスクを抑え、群れのメンバーが協力し合うことで生き残る可能性を高める戦略であるとしています。
この4匹のオオカミの即席パックの行動も、以前に行われた様々な条件下のオオカミの群れに関する研究結果と一致するものだそうです。
犬の場合は、人間の飼育下で何千年も暮らしてきた結果、犬同士の協力よりも人間社会への順応性が優先され、犬同士の社会で和解の重要性が低くなったのではないかと考えられます。
しかし他の研究では犬同士の間の和解行動も報告されており、犬は争いの後の和解に関して、狼よりも環境的な条件の影響を大きく受ける可能性も示唆されています。
どのような要因が犬の和解行動を促すのか、今後さらに調査研究が必要であるとされています。
まとめ
オオカミと犬のパックを観察した結果、オオカミに見られる争いの後に和解を示す行動が、犬では観察されなかったという研究結果をご紹介しました。
ちょっと意外な気もしますが、長い年月の間に犬は同胞たちとの協力関係よりも人間との関係を強くすることで生きてきたのだと思うと、人間は犬の命に対して責任を持たなくてはいけないということを、より一層強く感じさせられる気がします。
研究者が、犬の和解行動についてさらに研究を進めると述べているように、パックでソリを引いているようなハスキーやアラスカンマラミュートのような犬たちと、単独で飼育されている小型犬とではずいぶんと違って来ると思われますし、保護施設など面識のない犬たちが集まる場所でのストレス回避の方法なども関連して来ると思われ、今後の研究がさらに楽しみです。
それにしてもオオカミたち、姿形だけでなく行動まで本当にかっこいいですね。
《参考》
https://phys.org/news/2018-07-dogs-lost-ability-violent-conflicts.html
https://phys.org/news/2015-04-myth-tolerant-dogs-aggressive-wolves.html