シェルターに収容された犬のストレス軽減のために抗不安薬
アメリカのニューヨーク市にある公営のアニマルシェルター。民間の保護団体が寄付金で運営するシェルターと違って持ち込まれた動物は全て受け入れなくてはならず、犬たちの心身のケアや譲渡率を上げることはスムーズな運営のための重大な問題です。
そこで、新しく収容された犬たち全員にストレスを緩和するための抗不安薬を投与しようと言うプランが上がっており、賛否両論を巻き起こしています。
どのような意見があるのか、ご紹介します。
薬の投与推進派の意見
施設に保護されたばかりの動物は以前がどんな風に暮らしていたにしろ、大幅な環境の変化で不安になっています。
それは犬にとってもたいへんストレスの高い状態で、ストレス値の基準となる唾液中のコルチゾールのレベルが通常の約3倍にもなると言われています。
ストレスが高い状態は体の免疫力の低下も招き、病気にかかりやすくなってしまいます。
また不安の強い状態でいると、周囲の人間や他の犬への恐怖感も強くなります。恐怖の感情は攻撃につながりやすくもなります。
もしも攻撃的な行動を見せたり、もっと悪いことに人や犬を咬んでしまったりすれば、譲渡の道は絶たれ殺処分になってしまいます。
抗不安薬でストレスを和らげ、シェルターの環境でも落ち着いて過ごせる精神状態にすることで犬自身も楽になり、病気や攻撃行動のリスクも低くすることができます。
また不安や恐怖で落ち着かなくなっている様子はその犬本来の姿ではないので、薬を使って落ち着かせることで、犬の本来の姿を訪問者に見てもらうことができるので、譲渡につながりやすくなります。
これらが、施設の獣医師をはじめ推進派の意見です。
使用される薬はトラゾドンというもので、雷などを恐れてストレスを感じる動物のために使用されるものです。保護施設内での薬の投与は基本は2回と定めることになっています。
薬の投与反対派の意見
推進派の意見を見ると「なるほど」という気もしますが、薬の投与に対して「あまり賢明とは言えない」と反対している人々もいます。
施設に入って来たばかりの犬はそれまでの病歴やアレルギーの有無などがわかりません。そういう状態で一律に薬を投与することに不安があるとしています。
また、トラゾドンという薬は空腹時に摂取すると気分が悪くなることがあります。施設に連れて来られた犬は不安やストレスからフードを与えられても食べていない場合も多く、そういう状態で薬を飲ませるのは危険だという声もあります。
犬が抗不安薬の影響を受けた状態は、保護施設のスタッフが犬本来の姿を見誤ることにつながり、正しい査定ができないのでは?ということも懸念されています。正しい査定ができなくては適切なケアも難しくなってしまいます。
施設の来訪者に対しても、抗不安薬で落ち着いた状態を見せることは、犬本来の姿を見せることとは違うのでは?という声も上がっています。
もしもそういう状態で譲渡をすると、犬を引き取った人が後で薬の投与の件を知ったら「騙された」と感じるのではないかという懸念もあります。
保護犬の譲渡にそのようなネガティブなイメージを持つ人が増えてしまうと、その時だけの問題でなく将来的に保護施設から犬や猫を引き取ろうという人が減ってしまうことにもなりかねない重大な問題です。
このような反対派の意見もたいへん納得のいくもので「確かに」と思わされます。
まとめ
ニューヨークの公営動物保護施設で、入って来た犬に抗不安薬を与えることが検討されていることへの推進派と反対派の意見をご紹介しました。
どちらの意見も「なるほど」という点がありますが、そもそも「全ての犬に薬を投与」という点に無理があるのではないか?と私は思います。
全ての犬はそれぞれに違うので、観察をした結果によって投薬が必要なら投薬を実行、経過を観察してその事例をまた次の犬にも生かすというシステムを作ることが回り道のように見えて、近道なのではないかと思います。
皆さんはどう思われたでしょうか?
《参考》
https://www.amny.com/news/animal-shelters-nyc-1.19190949