犬の問題解決能力に人間が与える影響
犬が何かを探したりパズルを解いたりと言った問題を解決する仕事を与えられた時に、犬の訓練歴や経験、遺伝的な要素がその能力に影響を与えることは過去の研究からわかっています。
今回、アメリカのオレゴン州立大学の研究チームが、犬の側に立ち会う人間の存在が問題解決能力にどのように影響するかという実験と研究を発表しました。
犬は何か問題解決の作業をしている時に、そばで応援されたり見守られたりすると、どのような影響を受けるのか、興味深いですね。
災害救助犬と家庭犬で問題解決作業を比較
実験に参加したのは地元で募集された31匹の家庭犬と、地元自治体で働く災害救助犬28匹でした。
災害救助犬は通常は飼い主から離れて単独で作業をするように訓練されているので、人間の存在の影響を受けにくいと予想され、比較のために採用されました。どちらのグループの犬たちも犬種は様々でした。
犬たちにはコンテナ容器の中に入れたトリーツを2分以内に取り出すことという問題解決の作業が与えられました。
その作業は3つの異なる条件の下で行われます。
- 【単独バージョン】犬は人間の付き添いなしで単独で作業をします。
- 【中立バージョン】飼い主が犬の側にいますが、一切のコミュニケーション無しで作業をします。
- 【応援バージョン】飼い主が犬の側に立ち、褒め言葉やジェスチャーで犬を応援する中で作業をします。犬に触れることは禁止です。
犬たちの問題解決作業の結果は?
実験の結果は、当初に予想されていたものとはかなり違うものでした。
研究者たちは、災害救助犬はペット犬よりもずっと良い結果を出すだろうと予想していたのですが、実際には一言でそうとは言えないものでした。
単独バージョンでは、災害救助犬の多くは作業に取り掛かることすらしませんでした。このバージョンでは2匹の家庭犬のみが作業を完了することができました。
中立バージョンでは、2匹の災害救助犬と3匹の家庭犬が作業を完了しました。ここでも家庭犬の方が良い結果を出しています。
応援バージョンでは、9匹の災害救助犬と2匹の家庭犬が作業を完了。災害救助犬が一気に逆転しています。
最も予想外だったのは単独バージョンの結果だったそうです。災害救助犬は単独で仕事をするよう訓練されているので、このバージョンは当然良い結果が出ると予想されていたのです。
なぜ予想外の結果が?
この予想外の結果に対して研究者が出した考察は次のようなものでした。
人間から応援を受けるという状態は、この中では一番指示を受ける形に近いため家庭犬よりもずっと良い結果が出たのでは?ということです。
一方、家庭犬はトリーツの入ったコンテナに対しておもちゃのような感覚を持ち、飼い主から応援を受けると作業そのものよりも、おもちゃで遊ぶことに意識が向いたのではないか?とのことでした。
災害救助犬のように高度な訓練を受けた犬は応援ではなく指示を受ければ、この作業も任務として完了したかもしれないが、これらのことについては今後も引き続き研究が必要だとしています。
まとめ
犬が与えられた作業を解決する時に、その場に人間がいることや犬に対して働きかけることが問題解決能力に影響するかどうかという研究の結果をご紹介しました。
今回の結果から言えば、災害救助犬のような訓練を受けた犬の場合は人間の応援が問題解決に役立ったように見えました。けれども、もしかしたら応援よりも的確な指示の方がより効果的かもしれないとも思われます。
一般の家庭犬では、人間の応援は遊び心を刺激してしまうようでした。
単純に「能力がアップするか?」ということでは一言では言えない結果でしたが「影響を受けるか」という点では、人間の存在は確実に犬の問題解決能力に影響を与えることがわかりました。
災害救助犬など人間のために働いてくれる犬のトレーニング方法などに関してはもちろんのこと、このような研究が進むことで、家庭犬への良い接し方もクリアになっていくと思われます。今後の研究も期待されます。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0168159118301795?via%3Dihub