オーバーウェイトや肥満の犬に見られる傾向に注目した研究
先進国の多くでは、人間とペットの体重超過や肥満は健康を脅かす大きな問題となっています。ある統計によると、ヨーロッパ、オーストラリア、アメリカでは40〜60%の犬が適正体重をオーバーしているとも言われています。
そのため多くの科学者が人間と動物の体重の問題について様々な側面から研究を重ねています。
このたびハンガリーのエトベシュ・ロラーンド大学の研究チームが、オーバーウェイトの犬が見せる行動や性格の傾向には同じタイプの人間との共通点があるということを発表しました。
オーバーウェイトの犬の行動の傾向を観察する実験
実験に参加したのは健康な家庭犬で、ビーグル21匹、ゴールデンレトリーバー8匹、ラブラドール14匹。これらは肥満の傾向があるとされている犬種です。そして非肥満傾向の犬種としてボーダーコリー24匹、ムーディ(ハンガリーの牧羊犬)24匹が参加しました。
犬たちは所定のスコアにしたがって肥満度が測定されました。
ビーグルのうち6匹、レトリーバー2犬種のうち8匹、ボーダーコリー0匹、ムーディ2匹が太りすぎと判定されました。
本実験のための準備として犬たちのトリーツの好みが予め調査されたのですが、太りすぎと判定された犬たちは高カロリーのトリーツを好む傾向が観察されました。
実験は中身の見えないボウル2つに、1つはニンジンなど犬にとってあまり魅力的ではない食べ物、もう1つには高カロリーのトリーツを入れ、犬から少し離れた場所に置きます。
ボウルのそばに立った人間が常にニンジンの入ったボウルを指差してここに来るように指示を出します。
ボウルに近づくことを許された犬が指示通りにニンジンの方に行くか、指示を無視してでも高カロリートリーツの所に行くかが観察されます。
また別の実験では、ニンジンの入った中身の見えないボウルと、もう1つ空っぽのボウルが置かれ、同様に犬の反応を観察するというものです。
さて犬たちの反応の結果は?
犬の反応の結果ははっきりとした傾向が表れていました。
太りすぎと判定された犬たちは、人間の指示を無視して高カロリートリーツの入ったボウルに近づいていく率が高かったのです。
肥満と診断された人々が砂糖や脂肪の多い食べ物に強く魅了される傾向は科学的に認知されていますが、犬の場合にも同じ傾向が認められました。
また太りすぎの犬たちはボウルに入ったトリーツの魅力度に対しての反応が早くこだわりが強い傾向も観察されました。
対照的に空っぽのボウルへの反応は、普通体型の犬たちに比べて弱いものでした。
これは言い換えれば、太りすぎの犬は摂取するエネルギーと消費するエネルギーの調節のシステムが高度であるという可能性もあります。
魅力的なエネルギー源がそこにあるとわかっている時には、自分のエネルギーを消費して積極的に活動する価値があるが、報酬となるものがあるかどうか不明なのに自分のエネルギーを消費する価値がないと判断しているのかもしれません。
過体重の犬と理想体重の犬が食べ物を前にした時に違う行動を示したというのは、肥満の心理学的な側面の研究にとって有用なことでもあります。
このように肥満のメカニズムがまた一つ明らかになれば、体重超過や肥満から発生する病気の予防につながります。
また、犬の肥満の仕組みに人間と共通する点が見つかれば人間の医療への応用が期待されます。
まとめ
オーバーウェイトの犬と理想体重の犬の行動を比較した時、太っている犬は報酬(食べ物)へのこだわりが強く、高カロリーの食べ物を好む傾向がはっきりと観察されたという研究の結果をご紹介しました。
人間との共通点も確認され、今後の医療への応用も期待されます。人間の肥満についての心理面での研究はとても難しいものです。犬と違って人間は「これは肥満の研究のための実験です」と言われれば、どうしても行動を変えてしまいます。また目的を偽って実験をすることは倫理的に許されません。
そのような点からも、犬と人間の共通点が認められたことは今後の研究にとって大いに意義があることだということです。
犬と人間、両方の健康のために期待したいですね。
《参考》
http://rsos.royalsocietypublishing.org/content/5/6/172398