従来の考察とは違う、犬の埋葬の意味
犬が人間とともに暮らすようになって1万年以上と言われていますが、古代の人々が犬を大切に埋葬した遺跡は世界の各地で発見され研究が続けられています。
この記事でご紹介するのは中東のレヴァント地方(現在のヨルダン、イスラエル、レバノン、シリア)の紀元前6世紀頃から600年以上にわたって続いていたと思われる犬の埋葬に関する研究です。
この時代のこの地域の遺跡からは何千箇所もの犬の埋葬地が発見されており、従来の考察ではこれらの埋葬地は宗教的な儀式の跡であるとか、犬を神聖なものとして崇めていた証拠ではないかと言われていました。
しかし、この度の研究分析では従来とは違う新しい解釈が挙げられました。
人間の家族と同じ方法で犬を埋葬
犬の埋葬の意味について従来とは違う分析を発表したのは、アメリカの中東〜西アジアの歴史や文化を研究するNPO団体の研究者です。
研究者はこの地域の犬の埋葬地を宗教的なものや神聖なものではないと結論付けています。
その理由のひとつとして挙げられているのが、この地域の犬の埋葬方法と人間の埋葬方法がとてもよく似ているというものです。特に社会の下層の貧しい人々の埋葬方法とよく似た、シンプルなやり方で埋葬されているのだそうです。
貧しい人々が人間の家族と同じ方法で犬を埋葬したというのは、犬と人間の社会的なつながりの親密さを示していると考えられます。
また犬以外の動物で、このように葬られている例が見つからないことからも、犬という動物が特別であったことが伺えます。
また様々な違う場所で発見された埋葬地が、同一の文化の人々によるものだけでなく、異なる文化の人々の手で行われたものが同じような方法で犬を埋葬していたことも理由として挙げられています。
もし宗教的な儀式に関するものであれば、違う文化のもとでは違う方法になったはずだからです。
さらに、この地では犬の形を写した彫刻や神殿のようなものは一切発見されていないことからも、犬が神聖なものと考えられていた根拠がないとされています。
犬への愛情が感じられる埋葬
従来の考察の中には「宗教上の理由で神聖なものと考えられていたのでは?」というのとは、全く逆の方向で「市場で取引されていた犬が死んだ時に単純に疫病や悪臭を防止するためではないか」という説もありました。
しかし今回の研究者は、そのような理由なら埋葬地は大きな一箇所の墓地にまとまった大量の埋葬が行われた形跡があるはずだが、実際には犬は一匹ずつ別の場所で丁寧に葬られていたので、その説は無理があるとしています。
犬の埋葬地は何千という規模で発見されているのですが、研究者はそれらが皆みごとに同じ方法で行われていたことに驚いています。
犬たちは、墓石や墓標のない埋葬地に、眠っている時のように足や尻尾を体の下に折りたたんだ姿勢で丁寧に置かれていたのだそうです。
シンプルで簡単な方法ながら、人々が亡くなった犬を丁寧に愛情込めて扱っていたことが感じられますね。
過去の研究の再検証と埋葬地の分析から、研究者はこの地の犬の埋葬について「宗教的なものでも、衛生上の解決策でもなく、犬と人間の社会的なつながりの強さや親密さを表すものである」と結論を出しています。
まとめ
紀元前6世紀〜約600年くらいの期間の、中東地域で発見された犬の埋葬方法の研究分析から新しい説が発表されたことをご紹介しました。
研究者自身が
と述べている通り、同様の事例は世界各地のまったく異なる文化圏で発見されています。それはつまり、犬と人間のつながりは時間も文化も超えて共通するということですね。
また、歴史の中での犬の埋葬方法の変化は、人間と犬の関係を反映する重要な証拠なのだそうです。
こんな歴史のことを考えると、今自分の隣にいる愛犬にとてつもないロマンを感じる気がしませんか?
《参考》
https://www.jstor.org/stable/pdf/10.5615/bullamerschoorie.379.0019.pdf