犬の運動能力を左右する遺伝子
犬という生き物は犬種によって、サイズや姿形に大きな違いがありますが、それに伴って運動能力にもたいへん大きな違いがあります。
このたび、アメリカのナショナル・ヒューマンゲノム研究所の研究チームによって、犬の運動能力に関連した59の遺伝子が明らかになりました。
人間の運動能力の研究の理解にも役立つと考えられる、この興味深い研究をご紹介します。
研究のきっかけは研究者自身の運動能力への疑問
この研究は従来の犬の遺伝子の研究に比べるとずっと複雑なものです。そもそも研究者が犬の運動能力に関する遺伝子をリサーチしようと考えたきっかけは、自分自身がパスケットボールがあまり得意でないことに対する疑問だったのだそうです。
犬種ごとの遺伝子を比較するという研究は、450犬種722匹の犬の全ゲノム配列を解析したデータベースを利用して始められました。
運動能力の高い犬種の遺伝子を調査するということで、スポーティンググループの犬種であるポインター、セッター、レトリーバーの10犬種21匹が対象に選ばれました。比較の対象としてはテリアグループの9犬種27匹が選ばれました。
スポーティンググループの犬に際立っていた59種類の遺伝子
上記の犬の遺伝子配列を比較した結果、スポーティンググループの犬では共通して、ある59種類の遺伝子が際立っていました。
これら59の遺伝子が直接運動能力の高さにつながるという証明はできないのですが、ほとんどが血流、心拍数、筋力、痛みに対する感受性といった特徴に関連する遺伝子でした。
確かにこれらの身体機能は運動能力に大きな影響を与えるものですね。
なかには犬が銃声を聞いた時に平静を保つことに関連する遺伝子も含まれていました。これはスポーティンググループの猟犬という役割として重要な要素です。ちなみにこの分野はテリア種では神経症的傾向が見られる部分だそうです。
他の犬種、他の運動ではどうだろう?
研究チームは、他の犬種の一般的な運動能力を比較する手段として、全米アジリティ協会の過去のデータを分析する方法を取りました。
アジリティの障害コースを完走した際の成績から、最も点数の高かった犬種と、点数の低かった犬種の59種類の遺伝子を比較するというものです。
点数の高かった犬種はボーダーコリーとシェトランドシープドッグ、低かった犬種はニューファンドランド、ブルドッグ、マスティフでした。
興味深いことに、この2つのグループの59種の遺伝子を比較したところ、はっきりした違いが見られたのはただ1つだったのだそうです。それは学習能力に関連する遺伝子でした。
このことから研究者は
と述べています。
研究チームでは今後違うタイプの運動能力としてハーディング(家畜を集める作業)をする牧畜犬種の遺伝子を調査する予定だそうです。
アジリティで好成績を出している2犬種はどちらも牧畜犬種なので、よく似た結果になるような気がしますね。
今後、走る能力の高いハウンドグループなどの調査も進められるといいなと期待しています。
まとめ
犬の運動能力に関連すると考えられる59種類の遺伝子が明らかになったという研究結果をご紹介しました。
将来的にはこの犬の遺伝子研究が、人間の運動能力の遺伝的要素を解明する助けになるかもしれないと研究者は考えています。
犬と人間の健康上の問題や疾病には共通する部分が多く、このような研究が人間の医療の向上に寄与することも考えられます。
でもそういう大切な研究としてだけでなく、犬の運動能力という身近でいながら未知の部分が明らかになっていくことには胸がワクワクしますね。今後のさらなる研究に期待したいと思います。
《参考》
http://www.sciencemag.org/news/2018/05/these-59-genes-may-make-your-dog-more-athletic