保護施設の犬の行動を改善し、殺処分を減少させるための研究
アメリカはテキサス州にあるオースティン・アニマル・センターというアメリカでも屈指の規模の保護施設がユニークなリサーチを行っています。
施設に保護されている犬に、ほんの数時間の「遠足」や「日帰り旅行」の経験を与えることで、犬たちの行動にポジティブな影響が出るだろうか?というもので、先ごろその中間報告が届けられました。
犬の行動が改善するということは、犬の福祉はもちろんのこと、保護施設の犬に新しい引き取り手が見つかりやすくなることにつながり、施設で働く人たちの負担も軽減します。譲渡率が上がれば殺処分の減少にもつながるため、このような研究はとても大切なものです。
預かりボランティアによる遠足プログラム
調査チームがデータの収集のためのプログラム実施を依頼している施設のひとつルイヴィルのシェルターがプログラムを完了し、データが届けられました。
遠足プラグラムの対象となったのは、引き取り希望者が現れず長期間に渡ってシェルターで飼育されている犬たちです。犬たちの多くはストレスから来る問題行動のため、殺処分の候補になるリスクの高いグループに属します。
犬たちをシェルターから遠足に連れ出すのは遠足ボランティアとして登録している人たちです。1回につき3時間程度〜終日の外出が許可されています。
遠足に出かける前には、犬たちの行動についてシェルター職員が定型の項目で5段階評価を付けます。そして全く同じ項目で、遠足ボランティアも外出中の犬の行動を5段階評価します。
評価項目の内容は「リラックスしている」「震えが見られる」「人間に対して友好的だった」などです。
51例の遠足についての評価データが集められ、分析されました。
犬たちとシェルターにもたらされた変化
遠足に出かける前と遠足中の犬の行動評価を比べると、21項目中15項目で良い方向に変化していました。
震え、吠え行動、絶え間ないジャンプや犬舎内のぐるぐる歩きなどの反復行動が減少しました。また、犬の行動はリラックスしながらもハッピーで、不安や恐怖は少なくなっていました。
退屈で変化に乏しいシェルターでの生活から、新しい世界に触れることでストレスが解消され、経験を通じて自信を得た結果だと言えるでしょう。
このルイヴィルのシェルターで遠足プログラムが開始されてから、1年も経たないうちに犬を遠足に連れ出すボランティアの数は3倍に増え、殺処分数は半分に減少しました。
70匹以上の犬が遠足に参加してから問題行動が無くなり、新しい家族のもとに引き取られました。
人間の方にも変化があった!
遠足プラグラムのためのボランティア希望者は前述したように人数も増えたのですが、顔ぶれにも変化がありました。希望者のうち8割以上の人たちが、以前は保護シェルターに足を向けたことのない人々なのだそうです。
犬と触れ合ったり出かけたりしたいけれど、普通に犬を飼育したり従来の預かりボランティアのような長期間の世話は無理という人たちが多数を占めていたそうです。
このような短期間ボランティアというアイデアは、保護シェルターに来てくれる人の総数を増やし、職員の負担を減らすことにつながります。それは犬たちのケアの質の向上となり、譲渡率の増加という良い循環を作り出します。
またシェルターの犬たちが遠足という形で地域の人々の目に触れることで、保護犬への関心が高まり保護施設と地域のつながりが強くなることも指摘されています。
まとめ
保護施設で長期間飼育されてストレスの溜まっている犬たちを、ボランティアが遠足に連れ出すことで、問題行動の減少〜譲渡率の増加〜殺処分の減少という良循環が報告されたという嬉しいリサーチをご紹介しました。
このリサーチは今も進行中で、他の地域でも同様のプログラムが実行されています。アメリカでの話とは言え、犬が幸せになる実例は嬉しいものですね。
日本での犬の保護活動にも応用されると良いなあと思いますが、犬へのエンリッチメントの大切さが証明されている点で、一般の家庭犬にとっても参考になる内容かと思います。
犬に普段と違う体験をさせてあげることで、心と体への刺激が自信や幸せにつながることを忘れずにいたいと思います。
《参考》
http://chewonthis.maddiesfund.org/2018/05/study-can-foster-field-trips-improve-welfare-in-dogs/