獣医学における痛みのコントロールと動物福祉
動物が怪我や病気などで痛みを感じている時、効果的に痛みをコントロールして楽な状態にしてあげることは獣医学の大切な役割のひとつです。動物福祉の面からも「痛みや苦痛からの解放」は重要なことです。
動物は言葉でどのくらい痛いのかを説明することができないので、体温や心拍数などの生理的な指標や、動物の行動から痛みの度合いをできるだけ正確に読み取らなくてはいけません。
先ごろ、イギリスのハートプリー大学の研究チームが犬が痛みを感じている時の反応や行動と、それぞれの犬の性格には関連があるのだろうか?というテーマの予備調査を行いました。どのような結果が出たかをご紹介します。
なぜ「性格」と「痛み」の関連を知ることが必要なのか?
性格や痛みという目に見えないものを測定する場合、過去の研究によって作成されたスケールを使って数値化します。
今回の調査では、犬の性格を測定するのにはモナッシュ大学ケーナインパーソナリティー問診票というスケールが用いられました。細かく設定された質問に飼い主が答えていき、犬の性格が測定されます。
そして痛みの測定にはグラスゴー大学複合測定疼痛スケールが用いられました。
犬が痛みを感じている状況で
「発声」
「傷に対する注意度」
「可動性」
「触れられた時の反応」
「ものごし/姿勢/活動」
の5項目に段階をつけた基準を作り、犬が当てはまる段階のスコアを合計したもので数値化します。
このように犬の行動を基にして痛みという目に見えないものを客観的に測定するわけですが、犬の行動には性格によって個体差があります。
つまり性格を考慮にいれないと痛みの測定に混乱が起きてしまうということです。より正確な痛みの測定のために必要な調査なんですね。
手術後の傷の痛みに犬たちがどう反応したかを観察
今回の調査では去勢手術を受けた20匹の犬が観察の対象になりました。
健康な犬が去勢手術を受けた場合、術後の傷や痛みの具合はほぼ似たような条件になるので調査に最適です。
今回の調査では特に「外交的」および「神経質」と分類された性格が痛みへの反応にどのように影響したかが観察されました。
生理的な反応の観察として、手術後の犬は赤外線サーモグラフィーを使って体温と眼球の温度が30分ごとに測定されました。
犬の行動は前述したグラスゴー疼痛スケールによって判定され、出たスコアが痛みの指標になりました。
さらに、犬の飼い主たちには「あなたの犬は痛みにどのくらい耐性があるか」という5段階評価の問診票にも回答してもらっています。
さて、痛みと性格の関連はどんな結果が?
疼痛スケールによって出されたそれぞれの犬の痛みスコアと体温や眼球温度との関連は見られませんでした。つまり体温などで、犬がどのくらいの痛みを感じているかという予測はできないということです。
パーソナリティー問診で「外交的」という傾向が高かった犬ほど、痛みスコアも高い数値を出していました。外交的な性格の犬は痛みを強く感じやすいという傾向が見て取れます。
一方「神経質」という性格と痛みスコアには目立った関連は見られませんでした。
外交的な性格と神経質な性格、痛みとの関連はちょっと意外な感じですね。
また飼い主に回答してもらった自分の犬の痛みへの耐性評価は、残念ながら犬たちの痛みスコアと一致していませんでした。
これらのことから、犬の性格は痛みに対する反応の個体差を測定するのに有効な判断材料として使える可能性が伺えます。
そして飼い主が愛犬の痛みへの耐性に下す判断はあまり頼りにならないということも言えます。ちょっと残念ですね。
まとめ
犬の性格と痛みへの反応には関連があることがわかったという調査結果を紹介しました。
今回の調査は予備調査で、今後同じテーマでさらに調査研究が行われると思われます。
外交的な犬はより強く痛みを感じる傾向というのは、ちょっと意外な感じもしますが非常に興味深い研究ですね。
愛犬の痛みは飼い主にとっても大きな関心事の一つです。今後の研究にますます期待したいものです。
《参考》
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S155878781730165X#!