犬の社会化とは何か
犬の社会化とは、犬が生活する環境に慣れることを言います。犬が直面することになる状況も含み、家の中での出来事や、外で遭遇する全ての人や、犬や物に慣れておくことで、その対象を怖がらずにすみます。
例えとして、家の中での例を挙げてみます。掃除機、近所から聞こえる騒音、家族の人々などは、家の中で慣れておく必要があるでしょう。一方の屋外では、道路を走る車やバイク、通行人、走り回り大きな声を出す子供達、他人、他の犬、他の飼い主などがこれに当たるかと思います。生活環境によっては、違う項目にも慣れる必要があります。
こうした家の中や外で遭遇することは、犬にとって不自然なものばかりです。自然界には車やバイク、人間の子供、掃除機などはありません。特にこれらの対象物は、大きな音や振動を伴います。一般的に動物はこのような刺激に恐怖感を抱きます。社会化が成功し、慣れておけば、怖がる心配はありません。
社会化をしっかりと行っておくことで、犬は生きる環境に慣れることができます。慣れていれば、いちいち不安や恐怖心に駆り立てられることもなく、安心して暮らすことができるようになります。外で会う犬や人は、皆友達であり、仲間であるという認識を持たせることで、多くの問題行動を予防できます。
犬の社会化不足と攻撃性
攻撃性の7割は不安や恐怖からくると言われています。社会化が不足していると、慣れていないものに嫌悪感や不安、恐怖を抱きます。最初のうちは、少し怖がっている程度の仕草を見せるのみですが、これは多くの場合で飼い主は気づけません。飼い主が気づく頃には、かなり怖がっていて、それはすぐに攻撃性となり、吠え掛かる、噛み付くなどの行動に発展します。
社会化不足が全ての攻撃性の原因ではありませんが、性別を問わない他の犬への攻撃性、飼い主以外への攻撃性、車やバイクへの攻撃性、外の子供達などへの攻撃性の多くは、社会化が不足することで発生します。
攻撃性が同性の犬や、特定の犬種タイプに限定されている、飼い主や家族への攻撃性の場合は、育て方や、今までの経験、遺伝的要因が疑われます。この場合は、社会化を適切に行っていても発生します。
犬の社会化不足と分離不安
社会化不足が分離不安と関連すると聞くとピンとこない人もいるかと思います。しかし、分離不安などの種となる不安傾向は、社会化が不足すると加速されてしまいます。この場合も社会化不足だけが原因ではありませんが、要因の一つとなってしまいます。また、社会化不足の場合、外の世界や、他者は敵と捉えることもあります。
こういう個体の場合、唯一安全で安心できるのは、飼い主と家だけということになります。ここで、飼い主が家から離れると、犬は強烈な不安に駆られ、分離不安が発症します。分離不安には適切な行動療法がありますが、治療を完全に終わらせるには、行動療法の後の社会化が有効となります。
犬の社会化不足と鋭敏化
犬にとって怖いものが多い状態にあると、犬はあらゆる刺激に敏感になっていきます。これも徐々に進行することが多いため、飼い主が気づく頃には怖いものだらけのストレスフルな状態になってしまいます。こうして神経がどんどんと鋭くなっていくことを「鋭敏化」と言います。些細な音にもビクッと反応することや、インターフォンに吠えて制御不能になるのも社会化不足による鋭敏化と言えるでしょう。
鋭敏化は、我々も体験したことがあります。それが“お化け屋敷”です。お化け屋敷に入り進んでいくに連れ、どんどん神経過敏になり、アトラクションのお化けのいないところでも驚いたり、怯えたりします。平常に見ればなんてこともないお人形でも、血相を変えて逃げだしたりもします。人を含む多くの動物は、こうした命に関わるような環境に置かれると直ちに鋭敏化が起こります。この能力のお陰で、危険を一早く察し、危険から回避することができます。しかし、この鋭敏化が度を超え、慢性的になると、ストレスフルな生活になってしまうでしょう。
まとめ
社会化が不足すると、犬はストレスフルな生活を送ることになります。怖がる物や生き物が多いため、散歩をしていても気が張りつめていて落ち着けません。外は怖いものだらけでリラックスすることができません。そしてこれらの不安が不安行動となり、場合によっては分離不安へも発展してしまうかもしれません。不安や恐怖が強ければ、攻撃性へも発展してしまいます。このために犬の社会化が重要だとされています。社会化は、犬にとって生きる環境が安全だという認識を持たせることにあります。社会化がされた犬は、怖がることも減り、不安や恐怖に晒されずにすみます。これは多くの問題行動の予防になります。
次回からの記事では2回に分けて、社会化の仕組みと実践の方法をご紹介いたします。