「犬の人見知り」とは?症状と見分け方
犬の人見知りとは、見知らぬ人や慣れていない人に対して恐怖や警戒心を示す行動のことです。犬によって表現方法は異なりますが、一般的な症状はいくつかのパターンに分けられます。
犬の人見知りのパターンと見分け方
まず、警戒心からの吠え行動と恐怖からの逃避行動の違いを理解することが大切です。
警戒心からの吠えは、縄張り意識や飼い主を守ろうとする気持ちから生じることが多く、姿勢は前傾で耳は立っています。一方、恐怖からの逃避行動は、体を低くしたり、後ずさりしたり、尻尾を下げたりと、緊張感が見られます。
犬種によって人見知りの傾向も異なります。日本で人気の柴犬は警戒心が強い傾向があり、初対面の人に対して距離を取りたがることがあります。また小型犬のチワワやトイプードルは、体が小さいために周囲の環境を脅威に感じやすく、防衛的な吠え行動を示すことがあります。
人見知りと攻撃性は混同されがちですが、明確な違いがあります。人見知りは基本的に恐怖や不安から生じる行動で、攻撃的行動を伴うこともありますが、本質的には自己防衛のためのものです。一方、攻撃性は支配欲や縄張り意識など別の要因から生じることが多いです。
犬の人見知りの症状・初期サイン
飼い主が気づきにくい初期サインとしては、以下のようなものがあります
- 見知らぬ人が近づくと耳を後ろに倒す
- 体を硬直させる
- 過度に舐める行動や欠伸を繰り返す
- 視線をそらす
- 食べ物への関心が急に薄れる
これらのサインに早めに気づくことで、状況が悪化する前に適切な対応ができます。
犬が人見知りになってしまう原因
犬が人見知りになる原因はさまざまですが、主に以下のような要素が関わっています。
「社会化」が不足している
生後3週間から12週間までの「社会化期」は、犬の性格形成において非常に重要な時期です。この期間にさまざまな人や環境、音、場所などに慣れさせることで、成犬になってからの適応能力が大きく変わります。この時期に十分な社会経験を積めなかった犬は、新しい状況や人に対して警戒心を持ちやすくなります。
過去の「トラウマ体験」
過去に怖い思いをした経験は、犬の行動に長期的な影響を与えることがあります。例えば、見知らぬ人に乱暴に扱われた経験や、大きな音と人の存在が同時に起きた場合など、犬は「人=怖いもの」という連想を作ってしまうことがあります。
生まれ持った「その犬の性格」
気質には遺伝的な要素も関係します。警戒心の強さや神経質さなどは、犬種や個体によって先天的に備わっている傾向があります。特に警戒犬として改良されてきた犬種(シェパードや柴犬など)は、本能的に警戒心が強い傾向があります。
「飼い主の気持ち」が伝染している
犬は飼い主の気持ちを読み取るのがとても上手です。例えば、飼い主さんが「この人は怖いかも」と感じて緊張すると、その緊張が犬にも伝染してしまいます。犬は「飼い主が不安がっているということは、何か危険があるんだ!」と考えるのです。
特に散歩中に見知らぬ人が近づいてくると、無意識にリードを強く握りしめたり引っ張ったりすることがあります。犬はこの小さな変化も見逃しません。リードが引っ張られると「危険が近づいているから用心するように」という合図だと犬は理解してしまうのです。そして実際に犬が警戒して吠えると、「やっぱり危険だったんだ」と飼い主も緊張し、さらに犬の不安も強まる…という悪循環が生まれます。
病気や怪我など「健康状態」が影響している場合も…
痛みやホルモンバランスの乱れなど、身体的な不調も犬の行動に影響します。特に甲状腺機能低下症などの病気は、性格の変化や不安行動を引き起こすことがあります。突然人見知りが始まった場合は、健康上の問題がないか獣医師に相談することも重要です。
犬の人見知りを改善するトレーニング方法
人見知りの犬のトレーニングには忍耐と一貫性が必要ですが、適切な方法で取り組めば必ず改善が見られます。
「脱感作法」で段階的に慣らす
脱感作法は、犬が怖いと感じる対象に少しずつ慣れさせていく方法です。具体的なステップは次の通りです。
- まず犬が恐怖を感じない距離を見つける(閾値を知る)
- その距離から徐々に近づける訓練を行う
- 常に犬がリラックスしている状態を保つ
- 一度に進めすぎず、犬のペースに合わせる
例えば、犬が見知らぬ人に5メートル以内に近づくと緊張するなら、6メートルの距離から始めて、少しずつ距離を縮めていきます。無理に近づけようとせず、犬がリラックスしている状態を維持することが重要です。
「ご褒美」を使って人に慣れさせる
ポジティブな経験を積み重ねることで、犬は「人=良いもの」という新しい連想を作り始めます。
- 見知らぬ人からおやつをもらう経験を作る
- 無理に触れ合わせず、同じ空間にいることから始める
- 犬が自分から興味を示したときにご褒美を与える
- 犬のボディランゲージに注意し、ストレスサインが出たらすぐに距離を取る
怖い気持ちを「楽しい気持ち」に変える
カウンターコンディショニングは、怖いと感じる状況を好ましい感情に置き換える方法です。
<カウンターコンディショニングの例>
- 犬が警戒する人が現れたら、特別においしいおやつを与える
- その人がいなくなったら、おやつも終わり
- これを繰り返すことで「見知らぬ人=特別なおやつ」という連想を作る
このトレーニングは継続的に行うことが大切で、徐々に犬の反応が変わってくるのを待ちましょう。
散歩中の「飼い主の振る舞い」も重要
散歩中の人見知りには、リードの使い方が重要です。
- リードを常に緩めに保ち、犬に安心感を与える
- 見知らぬ人とすれ違うときは自然に振る舞い、不安を犬に伝えない
- 必要に応じて人との距離を取りながら通り過ぎる
- 犬が落ち着いて人を見られたときにはすぐに褒める
「来客時」の人見知り対策
来客時は多くの犬が人見知りを示す典型的な場面です。以下のような対策が効果的です。
- 来客前に十分な運動をさせて余分なエネルギーを発散させる
- 安全な場所(別室やケージ)を用意し、そこで落ち着かせる
- 来客には犬を無視してもらい、犬から近づいてきたときだけ穏やかに対応してもらう
- 犬が落ち着いているときだけおやつを与える(興奮状態での報酬は避ける)
愛犬の人見知りを和らげる環境づくり
トレーニングと並行して、犬が安心して過ごせる環境を整えることも重要です。
安全な避難場所(セーフスペース)を確保する
犬には自分で選んで入れる安全な場所が必要です。次のような環境を整えてあげましょう。
- ケージやクレートにクッションやブランケットを敷き、快適にする
- その場所では犬を邪魔しないというルールを家族全員で守る
- 人が来たときに無理に出てこさせず、自分の意思で出てこられるようにする
- セーフスペースは罰としてではなく、犬の聖域として扱うことが大切です。
ストレスサインを事前に読み取る
犬のストレスに早く気づくことで、状況が悪化する前に対処できます。主なストレスサインには以下があります。
- 唇を舐める
- あくびが多い
- 体を震わせる
- パンティング(過度の呼吸)
- 視線を合わせない
これらのサインが見られたら、犬を刺激の少ない場所に移動させたり、状況から離れたりすることが効果的です。犬のサインを見逃さないよう、普段から観察する習慣をつけましょう。
ボディランゲージと声かけで犬に「安心感」を与える
犬は私たちの体の動きや声のトーンに敏感です。不安な状況では、下記の方法で飼い主が「安全」という事を伝えるのが重要です。
- 大きな身振り手振りや急な動きを避ける
- 低く穏やかな声で話しかける
- しゃがんで犬と同じ目線になる
- 直接見つめすぎない(犬にとって凝視は威嚇)
- 横向きになって威圧感を減らす
犬を落ち着かせる効果のあるアイテムを活用する
不安を軽減するための補助アイテムもあります。
- 【サンダーシャツ(圧迫感のあるウェア)】
圧迫感のある服を着ると安心感を与える事ができます。ただし、犬の性格で効果が変わるため試して嫌がるようであれば中止して下さい。 - 【フェロモン製剤(DAP)】
落ち着かせる効果があります。 - 【ハーブティーを少量混ぜた水(カモミール、バレリアンなど)】
気持ちを落ち着かせる効果があります。ただし、獣医師に相談の上行ってください。 - 【不安軽減効果のあるサプリメント(L-テアニンなど)】
リラックス効果があるサプリメントを使用する方法もあります。こちらも獣医師に相談の上行ってください。
ただし、これらは補助的なものであり、トレーニングと環境調整の代わりにはなりません。
専門家に相談すべきケース
以下のような場合は、獣医行動学専門医や認定トレーナーへの相談を検討しましょう。
- 人見知りが徐々に悪化している
- 攻撃行動を伴うようになった
- 日常生活に支障が出ている
- 半年以上の取り組みで改善が見られない
専門家を選ぶ際は、ポジティブなトレーニング方法を採用しているトレーナーを選ぶことが重要です。
体罰や犬の嫌がる事を使ったトレーニングは、人見知りをさらに悪化させることがあるので注意しましょう。
まとめ
犬の人見知りは、適切な理解と対応によって必ず改善が見込めます。重要なのは、一度や二度の取り組みではなく、継続的なサポートが重要です。一日で成果が出るものではありませんが、小さな進歩を見逃さず、愛犬の頑張りを認めていきましょう。
人見知り改善の取り組みは、単に問題行動を減らすだけでなく、飼い主と犬の信頼関係を深める貴重な機会でもあります。犬の気持ちに寄り添いながらトレーニングを進めることで、お互いの理解が深まる良い機会になるでしょう。
人見知りが改善すれば、友人を気軽に家に招けるようになったり、ドッグカフェやドッグランなどのお出かけスポットを楽しめるようになったりと、愛犬との生活はより自由で楽しいものになります。
また、定期的に愛犬の状態を振り返り、トレーニング方法を見直すことも大切です。犬の成長や環境の変化に合わせて、対応方法も調整していきましょう。