犬ができないのは、教えていないから!
「うちの犬は、トイレを覚えてくれない」「いたずらをする」「ついて歩いてくれない」「甘咬みがキツくて困る」「逃げて捕まえられない」「じっと待てない」「ハウスに入らない」など、愛犬に対して悩みがある家庭も多いもの。
でも、あなたのやってほしい行動を犬にちゃんと教えていますか?
犬の本能的な行動は、教えなくてもできるのがほとんどですが、人間家庭での生活では、犬は人間の都合に合わせる必要があり、それはちゃんと飼い主が教えてあげないとできません。
「犬に教えるってどうしたらいいの?」と思う人も多いですよね。人間の言葉で「それはダメでしょ」「これをやって!」と言ったとしても、犬にはその言葉が示す内容がわからないことが多いのです。
では、どうやって教えるのかというと、行動分析学の「条件づけ」を利用します。条件づけとは、人や動物に対して、教えた合図などの刺激に反応し、行動を起こすように学習させることです。
ちなみに行動分析学は、心理学のひとつで、「人間をはじめ、犬などの動物全般を対象として、行動の原理が実際にどう働くかを研究する学問」で、ドッグトレーニングのベースとしても使用されているんですよ。
犬に教えるなら、条件づけしよう!
犬は、経験を通じて学習していきます。学習させる内容をあらかじめ設定して、繰り返し経験させることで「条件づけ」が成立して、こちらの望む行動をしてくれるようになってきます。
そんな条件づけには「レスポンデント」と「オペラント」の2種類があります。
直前の出来事と関連づけて学習する「レスポンデント条件づけ」
古典的条件づけや、パブロフ型条件づけとも呼ばれている「レスポンデント条件づけ」は、経験や学習によって、得た条件反応になります。
パブロフ博士が犬に対して、いつも犬に餌を与える前にメトロノームの音を聞かせていたところ、餌がなくてもメトロノームの音に反応して犬が唾液を出すようになったことから、研究がはじまり、体系づけられました。
これにより、動物は「直前の出来事と関連づけて学習する」ことがわかりました。
つまり、「お散歩」と言った後に散歩に出かける、「ごはんよ」の後に食事を与えるというような日常があれば、犬は「お散歩」の音声と散歩に出る行動、「ごはんよ」の音声とフードの出現を関連づけて覚えるようになります。
行動した後の出来事と関連づけて学習する「オペラント条件づけ」
オペラントとは操作(オペレーション)からきた造語で、自分が操作(行動)することで結果が変わることを学習し、動物に考えて行動させる条件づけになります。
この条件づけは、スキナー博士が体系づけたもので、自分の行動で結果が変わることを学習させることによって、身につく条件づけになります。
主に行動した結果が、自分にとって都合のよいこと・うれしいことがあると、その行動が増え、自分にとって都合の悪いこと・イヤなことはその行動が減ってくるというものです。
例えば、「オイデ」と呼ばれた犬が飼い主のそばに行ったところ、おもちゃが出てきて楽しい遊びが始まった。
それを何度か経験すると、「オイデ」の音声で飼い主のそばに行くと楽しいと条件づけされ、飼い主のそばに行くことが増加します。
しかし、「オイデ」と呼ばれた犬が飼い主のそばに行ったところ、捕まえられ自由が奪われるなど、その犬にとって嫌なことが繰り返しあったとします。すると、その犬は「オイデ」の音声を聞くと、飼い主のそばに行くことが減ってきます。
増やしたい行動にご褒美を増やし、減らしたい行動はご褒美をなくす
オペラント条件づけには、増やしたい行動と、減らしたい行動に対して、ご褒美や罰を与えたり、なくしたりする4つ方法があります。
行動分析学では、行動を増やすことを「強化」と呼び、減らすことを「弱化」と呼んでいます。
提示型強化法
犬のほめるしつけに代表されるトレーニング方法が、オペラント条件づけの提示型強化法です。強化法というのは、行動を増やす方法で、犬がその行動をした時に犬が喜ぶモノやコトをプラスするスタイルが提示型になります。
正の強化法、陽性強化とも呼ばれている方法です。例えば、犬に「伏せ」を指示して、犬がその声に反応して伏せた時にほめてフードを与えることを経験させます。
これを繰り返すうちに、フードがほしい犬は「伏せ」の声がかかると自ら「伏せる」ことが増えてきます。これが提示型強化法での教え方です。
除去型強化法
犬にとって嫌なことがなくなることで、行動が増えるようにする教え方が、除去型強化法です。
例えば、苦手なカミナリ音か鳴っていたところ、指示されてクレートに入ったら、カミナリの音が聞こえなくなった。それから、指示があると自らクレート入るようになったなら、
苦手なカミナリの音が除去されることによって、クレートに入る行動が強化される「除去型強化」の教え方になります。
除去型弱化法
犬にやめてほしい行動がある場合、その行動を減らすように教えるのが弱化法です。例えば、吠えを減らしたいと思っているのなら、おやつを持っている時に犬が吠えたら、与えるのをやめる。
遊んでいる時に、犬が吠えたら、遊びを中断するという方法です。おやつや遊びといった、犬にとってうれしいこと・楽しいことを一時的に除去することで、自分が吠えると結果的にどうなるかを経験させます。
これを繰り返すことで、自分が望むおやつがもらえる・遊びが続くという結果になるには、吠えないでおこうと思うようになり、徐々に吠える行動が減るという教え方です。
ただし、犬は興奮しすぎると、学習ができないので、興奮させすぎないようにして経験を重ねましょう。
提示型弱化法
犬にやめてほしい行動がある場合、犬にとって嫌なことを与えることでその行動を減らすように教える方法です。
怒鳴る、叩く、蹴る、リードをひっぱりあげるなど、罰になることを提示して、やめてほしい行動を減らすようにしますが、この方法は危険を伴うので、一般の飼い主さんには、オススメできません。
犬は、嫌なことをする人を信頼しません。また、犬は恐怖を感じると正しい学習ができないだけでなく、恐怖を与える人に対して反撃をする場合もあり、咬傷事故を引き起こすきっかけにもなるからです。
上記の4つの教え方がありますが、ペットの犬に教える場合は、罰などの嫌なことを与えたり、なくしたりする提示型弱化法・除去型強化法よりも、ご褒美となることを与えたり、一時的にやめる提示型強化法・除去型弱化法がオススメです。
やめさせたい行動は、やってほしい行動にチェンジ
生活をスムーズにするヒントは「やめさせたい行動」ではなく、「やってほしい行動」をみつけて、それを強化することです。
犬の困った行動があった時だけ、注目して大騒ぎする人は、その困った犬の行動を知らないうちに強化している可能性があります。やってほしい行動をしている時に、しっかり褒めて、うれしいことをプラスしてあげましょう。
ドックトレーニングで教える基本的な犬の行動に、オスワリや伏せ、待って、オイデなどがあります。
それらをしっかりと家庭の中で強化していけば、困った行動が出た時も、やってほしい行動を指示したり、教えることで問題が減るはずです。
例えば、飼い主の大事なものにイタズラをしようとしていたなら、「オイデ」で呼んでもいいし、「待って」と指示しても防げます。「チョウダイ」で飼い主に渡すことを教えていれば、それを指示してもいいですね。
ここで書いている教えるということは、その指示されたことをやると、犬にとってご褒美となることが与えられるという経験を積ませることです。
困った行動が減らないのは、何か強化している原因がある
もしも、愛犬の困った行動が減らないのなら、何かその行動をすることによって、楽しいこと、うれしいことなどの結果が与えられている可能性があります。
困った行動をなくすには、叱るよりも、その強化につながっているポイントを見つけて、なくすことが重要です。
例えば、たまたま退屈で家具をかじっていたら、慌てて飼い主さんが駆け寄ってきた。それがうれしくて、飼い主さんにかまってほしい時は、家具をかじればいいと学習すると、犬はどんどん家具をかじるようになります。
この場合は、家具をかじられないようにカバーする物理的な方法も有効ですが、犬が家具をかじりそうになっていたら、駆け寄るのではなく、犬が噛んでいいおもちゃを持って、犬を呼んで楽しく遊んであげるといいですね。
犬が家具よりも、飼い主さんとおもちゃで遊ぶ方が楽しいと思えば、家具をかじることも減るはずです。
ただ忙しくて、かまってあげられない場合は、あらかじめ噛んでもいいおもちゃや、噛み応えのあるガムなどを用意して、クレートなどで待機してもらう方法がオススメです。
行動分析学の条件づけで、犬に指示の言葉や行動を教えるコツがわかったら、犬にこちらのやってほしいことが伝わるので生活がとってもスムーズになりますよ。