犬の叱り方には注意が必要!
人間は犬がいけないことをしたときに叱ることで、それがいけないことだと教えようとします。しかし、人間と脳の構造が違う犬には、そもそも善悪という概念がなく、言葉で説明してもその意味を理解することもできません。
そのため、犬には「いけない行いをやめさせる」よりも「良い行いをさせる」ようにしつけることが必要になります。たとえば、子犬にトイレのしつけをする場合、粗相をしたことをいけないと叱るより、決まった場所で排泄することが良い行いであることを教え、それを習慣にしてしまえば、トイレ以外の場所で排泄することはなくなります。
また、無駄吠えなら吠えることがいけないと叱るより、吠える必要がないことを教え、それを習慣にしてしまうなど。それならば「犬を叱る必要はないのか」と考えてしまう人もいるでしょう。しかし、ことはそう単純ではありません。
どんなに賢くても「一生の間に一度も叱られたことがない」という犬は、ほとんどと断言して良いほどいないでしょう。犬や人間に危険が及ぶような場合や、周囲の迷惑になるようなことをした場合には、その場で正しく叱って注意を促し、2度と同じ間違いを犯さないようにしつけることは大変重要なことです。
では、どのような叱り方が、正しい犬への叱り方だといえるのでしょうか。
犬を叱るときに、1番犯しやすい間違いは「怒る」になってしまうこと。普段は優しい飼い主さんもついつい感情的になって怒ってしまうこともあることでしょう。しかし、「叱る」と「怒る」とでは、大きく違います。「叱る」は、相手のために取る行動ですが、「怒る」は、自分の怒りの感情を発散させるための行動です。
叱るときは、左脳を使うため理性的に振る舞いますが、怒るときは、感情を司る右脳を使うため感情が全面に出ています。自分の感情を思いに任せてぶつけるだけでは、たとえ相手が人間であっても、本当に伝えたいことが伝わるはずがありません。
相手が言葉を理解しない犬なら、なおさらです。犬のいけない行動を改善するどころか、返って逆効果になることさえあるのです。
監修ドッグトレーナーによる補足
怒るとは、感情を直接ぶつけることです。忙しい時などにいたずらや粗相されてしまえば、イライラすることもあるかもしれません。そんな時はまず深呼吸しましょう。
怒ることは感情を発散させるだけの自己満足、叱るのは愛犬の幸せに繋がることだと考えてみましょう。
犬の叱り方を間違えたときに考えられるリスク
間違った叱り方をしてしまうと、犬は理解できない上に嫌な思いと戸惑いをもたらすだけで終わってしまいます。そうなると、叱ったことが無駄になるだけでなく、犬に様々な悪影響を及ぼしてしまう可能性があります。
犬のトラウマになる
飼い主さんがつい感情的になって怒っているときは、犬にとっては苦痛でしかなく、そのときの非常に辛く嫌な感情だけが残ってしまいます。
楽天的な性格の犬なら、そのような経験をしても忘れてしまうことも多いかもしれませんが、臆病で神経質な犬ならそれが心の傷としてトラウマとなってしまうことも少なくありません。
犬は、人間が考えるよりずっと感受性が豊かで繊細な動物なのです。
監修ドッグトレーナーによる補足
人や動物は、なぜ罰されるのか分からない刺激が与えられる環境によって、「何をやっても無駄だ」と感じた時に無力感が生じ、諦めてしまう現象を「学習性無力感」といいます。
無力感を生じさせないようにするために、努力するのは無駄ではない、良いことがあると、しつけなどの方法を変えることがとても重要になります。
悪いことを繰り返す
飼い主さんが冷静さを失い、感情的になっている様子を犬が勘違いしてしまう場合もあります。感情的に騒ぐ飼い主さんの姿を見て、自分に構ってくれていると思ってしまうのです。
その結果、また飼い主さんに構ってほしくて、わざといたずらをするようになります。犬は叱られていることを理解できずに同じことを何度も繰り返してしまい、それが問題行動にまで発展してしまうこともあります。
犬を叱る時は、平常心で冷静に振る舞うことを心がけることが何より大切です。
飼い主さんを怖がる
飼い主さんがあまりに強く叱ってしまうと、犬が恐怖で怯えてしまうことがあります。何に対して叱られているのかその理由も分からないまま、ただ飼い主さんの態度に恐怖を感じてしまいお互いの信頼関係を崩してしまうことにもなりかねません。
強く叱ることで、恐怖のあまり一時的に悪いことをしなくなることもありますが、叱られている理由を理解していませんので後々同じことを繰り返してしまうことになります。
攻撃的になる
飼い主さんへの恐怖心が強くなると、犬は本能的に自分を守ろうとして唸ったり噛むなど攻撃的な態度に出ることがあります。特に、体の小さい犬種には憶病な傾向があるためそのような態度を示すことが多いようです。
このような状態が長く続くと、人間を信頼できなくなり、噛み癖のある犬に育ってしまう可能性がありますので注意が必要です。
犬の正しい叱り方
「正しい叱り方」を調べてみると、「相手に、いかに自分の間違いに気付かせ、改善しようという気持ちにさせるか」という意味になるそうですが、これはあくまでも相手が人間の場合に有効なようで、相手が犬の場合は少し工夫をする必要がありそうです。
短く叱る
犬は、人間の言葉の意味を理解できないため、長々と言葉を並べて叱っても意味がありません。犬を叱るときは「だめ」「ノー」「いけない」などの短い言葉を犬の唸り声のような低いトーンで、はっきり大きな声で伝えるのがポイントです。
そうすることで飼い主さんが叱っていることを犬が理解しやすくなります。このとき、飼い主さんが立ったまま犬を見下ろして声をかけると、プレッシャーを感じるのでより効果的です。
また、犬を叱るときの言葉は、家庭内で統一しておきましょう。人によってそれぞれ違う言葉で叱ってしまうと犬が混乱して理解できなくなります。
監修ドッグトレーナーによる補足
短い言葉で叱っても言うことを聞かないからと、叱る声を大きくしていくのはNGです。
同じ方法でただ声を強くするのは怒りに変わるだけで逆効果になることも。指示に従わないのであればしつけ方を見直すことが大切ですよ。
無視をする
犬が叱られる原因のひとつに「いたずら」があります。退屈している、嫌がらせなど、いたずらの理由はさまざまですが、多くは飼い主さんに構ってもらいたくて気を引こうとしていたずらしているようです。
この場合は、叱ってしまうと犬が構ってもらえたと勘違いすることがありますので、無視をするのが効果的です。犬と目を合わせない、話しかけない、触らない、を徹底することがポイントですが、これには家族全員の協力が必要です。
1人に無視されても他の人が構ってしまうと効果がありません。犬は、飼い主さんのことをよく観察していますので、異変を敏感に感じ取り甘えてみたりすり寄ってきたりして、ご機嫌を取りにくるかもしれません。
しかし、その愛らしい態度に心を許してはいけません。無視をする時間は15~30分程度を目安とし、その間はどんなに犬が可哀想に思えても、心を鬼にして頑張りましょう。
そして、無視する時間が過ぎた後は簡単な指示を出し、うまくできたらたくさん褒めて終わりましょう。叱りすぎた後も簡単な指示を与えてから褒めるようにしましょう。
犬を叱るときは「叱られる=嫌な気持ち」で終わらせず、「褒められる=嬉しい気持ち」で終わらせる方が犬の理解が深まりやすく効果的と言われています。
体罰を与えない
犬のしつけにおいて、体罰は悪影響を及ぼすことはあっても効果をあげることはありません。
直接体に触れることがなくても、手を振り上げて脅すなど犬を怖がらせるような態度はとらないように気をつけましょう。犬に恐怖心を与え、飼い主さんに不信感を抱かせてしまうだけです。
また、首にショックを与えるなどのしつけ用グッズが色々と販売されていますが、一般の飼い主さんには扱いが難しいので、どうしても利用したい場合は専門のドッグトレーナーに相談することをおすすめします。
言うことを聞いたら褒める
犬も人間と同様、叱られてばかりいると心が傷付き萎縮してしまいます。叱ってしまった後でも、犬が飼い主さんの指示に従って上手にできたらたくさん褒めてあげましょう。
このとき、できるだけ大袈裟に褒めるのがポイント。褒められて嫌な気持ちになる人がいないように、犬も大好きな飼い主さんに褒めてもらうととても嬉しいはずです。その嬉しい気持ちが犬の学習のモチベーションとなるのです。
子供の教育は「褒めて伸ばす」といわれるように、犬をしつけるときにも褒めて伸ばす方が効果も高く、飼い主さんとの信頼関係も良好に保つことができます。また、褒められると、犬が、叱られた後の嫌な気持ちを切り換えることができて飼い主さんとの仲直りにも繋がります。
監修ドッグトレーナーによる補足
犬のしつけを学習する際に、8割褒めて2割叱るのを基本としています。
褒めるだけではしつけにならない場面も当然ありますが、しつけは人も犬も楽しくを前提に、褒める量が多くなるようにしてあげましょう。
犬を叱るときの注意点
先述しましたが「叱る」と「怒る」はまったく違います。犬を叱るときには、飼い主さんが感情的にならずに冷静でいることが大前提です。そのうえで犬にも分かるように適確に「叱る」ことが大切です。
そのためには、どのようなことに注意したらよいのでしょうか?
名前を呼んで叱らない
犬は、言葉の意味を理解することはできませんが、自身の体験と言葉を結び付けて理解しています。
そのため、犬の名前を呼びながら叱ると「名前を呼ばれた後には、嫌なことが待っている」と学習してしまう可能性があります。
褒める時やおやつの時間、お散歩など、犬が喜ぶ楽しいことや嬉しいことと結び付けて名前を呼ぶようにしましょう。「名前を呼ばれる=嬉しいことが起きる」と学習させることで、呼び戻しなどのトレーニングにも役に立ちます。
叱り過ぎない
強く叱り過ぎる、しつこく叱り過ぎるなども、犬を叱るときにしてはいけないことです。
あまりに強く叱り過ぎると、トラウマとなって心に残り叱られている理由を理解することもできなくなってしまいますし、長時間しつこく叱られていると、犬は何に対して叱られているのか分からなくなってしまいます。
犬を叱る時は、タイミングと強弱が大切です。気の弱い神経質な犬に強く叱り過ぎれば恐怖で萎縮してしまい、楽天的な犬に優しい叱り方では、叱られていることを理解できません。
また、時間が経過してから叱られてると、叱られている理由を理解することができません。叱るのは現行犯、短い言葉で端的に伝えることが大切です。
犬の体に触れない
犬を叱るときには、絶対に体に触れてはいけません。体罰はもちろんのこと、仰向けにして犬にマウンティングをする、マズルを掴むなどの行為も絶対にやめましょう。
かつては、犬と人間の上下関係を保つためにこのような方法が有効であると考えられていましたが、現在では犬の行動学など色々な研究が進み、身体的苦痛を伴う方法は推奨されていません。
身体的な苦痛を与えられると、犬に恐怖心や嫌悪感が残るだけで、問題を改善するどころか、かえって悪化させることが分かってきたからです。犬や人間に危険が及ぶ緊急の場合や、周囲が迷惑するような場合を除いては、犬を叱るときに体には極力触れないように注意しましょう。
まとめ
犬が人間と共に暮らすには、最低限のルールを教えることが大切。そのためにしつけをする必要があります。しつけは褒めるのが基本ですが、叱らなければならない状況の時は、正しい方法でしかることが大切です。
間違った叱り方では、犬をしつけることができないうえに、犬に悪影響を及ぼしてしまうことがあることをしっかりと心に留めておきましょう。犬に叱られていることを理解させ、飼い主さんとの信頼関係を崩さないためにも、叱った後は、簡単な指示に従わせ褒めてあげることを忘れないようにします。
いけないことをして叱られても、最後は飼い主さんに「褒められる=嬉しい気持ち」で終わらせてあげることで、犬の理解もより深まりますし、お互いの信頼関係を良好に保つことになります。
「叱る時は短く端的に、褒める時はできるだけ大袈裟に」このことを忘れずに、上手に犬に学習させましょう。