これまで犬の主従関係に関する考え方
1970年代から欧米で急速に広まったパックリーダーという概念が、今のしつけやトレーニングにおける主従関係の考え方につながっていると考えられています。パックリーダーとはオオカミの群れとそのリーダーにならった指導をすることで、犬との上下関係をはっきりさせて従わせるというものです。当時はほめるよりも体罰を含めた強制訓練が中心でしたが、1980年代に入るとパックリーダー概念の考え方をもとに陽性強化、つまりほめるしつけが多く提唱されるようになりました。日本でもなじみ深いテリー・ライアンやイアン・ダンバーなどアメリカの獣医師や動物行動学者を中心にポジティブ訓練ブームが訪れ、中でも数々の犬の問題行動を解決してきたシーザー・ミランは絶大な人気を誇り世界中から注目を集めました。
ほめるしつけと言っても毅然としたリーダーとして犬に接することが大切であるという考えは変わらず、しかしながら身体的な罰や強制訓練を和らげたこともあってこれらのトレーニング手法は一般家庭にも受け入れられるようになりました。
家族・主従関係に関する考え方の変化とは
飼い主は犬にとってリーダーであるべきで、リーダーらしい振る舞いをすることで指示に従わせるという考えの元で行われるトレーニングは、多くの成功をもたらすことで盤石な基盤を築きさらに発展してきました。しかし2000年代に入ってからさまざまな動物行動学者や研究者がそのリーダー論に疑問を呈し始めました。もちろん犬のリーダーになることでトレーニングを行うこと自体は間違いではなく、結果が出ていることは認めながらも「犬は本当にオオカミと同じ動物として考えていいのか」「オオカミは本当に階級社会の中で生きているのか」などということに疑問が投げかけられたのです。
これらの疑問に関しては、さまざまな見解がありますがオオカミそのものが犬に変化していったわけではなく、その祖先は共通するものの別の種族であるとの説が現在の主流となっています。また、オオカミはリーダーの元である程度階級を持っているもののそれは完全な縦社会ではなく“家族”に近い形であるという考えが広まってきています。
犬は上下関係よりも「損得」が大切!?
犬のリーダー論に関しては以前に比べるとやや緩やかな階級、順位制を持つという説が主流になりつつあります。そこで新たに注目されているのが犬が気にしているのは主従関係だけでなく犬自身に降りかかる「損得」ではないかということです。自分よりも下の立場として見ている人の言うことをきかないなど徹底した上下関係を意識しているのではなく、言うことをきくことで自分にとっていいことがあるかどうかを意識しているというのです。
指示に従わなくても結局おやつをくれるお父さんの言うことはきかない、従わないと絶対くれないお母さんの言うことはきく、など主従関係ということではなく自分にとっての損得を計算して行動している面も犬は持っているようです。
愛犬と飼い主に主従関係は必要ないのか?
近年では犬のリーダー論にやや疑問が投げかけられるようになってきたこともあり、強固な主従関係や上下関係を築くよりも信頼関係を結び柔軟なやり取りができる関係性を築くことが大切だと考えられてきています。「飼い主の前を犬に歩かせてはいけない」「ドアの出入りは飼い主の後にさせる」「食事の順番は飼い主が先」など、これまで提唱されてきた上下関係の築き方にも多少の行き過ぎがあると考えられるようになってきています。そもそも犬のトレーニングにおけるリーダー論の元となったオオカミの群れにおいても、リーダーよりも元気な若い犬が先を行ってしまう場合などもありますし、一部の行動を徹底したところでリーダーシップが取れるというものではないのです。
犬のトレーニングにおいてリーダー論はとても役立つものですが、あまりにも凝り固まった考えを持つのではなく愛犬とのコミュニケーションを大切に柔軟にやり取りを交わし信頼関係を築いていくことが大切だと思います。
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30代 男性 菊地