犬のトレーニング『Do As I Do』とは?
『Do As I Do』とはその名の通り「私の真似をしてごらん」という意味を持つトレーニング技術で、まさに人の行動を見せて真似をさせることで新たな行動を犬に教えるというものです。2016年にCurrent Biology誌で発表された犬の記憶能力や社会的学習に関する論文に基づいた行動を教えるためのトレーニング手法となります。
犬は個人的な経験や体験を通して物事を覚える「エピソード記憶」を持たず、過去を振り返り行動するということはむずかしいと考えられてきました。しかしこの論文で発表されたハンガリーでの研究では『Do as I Do(私の真似をしてごらん)』という訓練技術を開発し、犬が「エピソード記憶」を持ち、必要がない場面でも人間の行動を記憶することができるとを証明したのです。
『Do As I Do』のメソッド
『Do As I Do』は犬に人間の行動を観察、真似させるトレーニング手法。クリッカーやシェーピングによるトレーニングにも似ていますが、より細かな行動を教えやすいとされているため、正確で緻密な動きが必要とされる介助犬のトレーニングなどにも有効だと考えられます。
具体的なトレーニング方法は非常に簡単で、まず人が犬の目の前で見本となる動きを見せます。その後「Do it!」という合図を出して犬に同じことをさせます。
こうして言葉にするととても簡単なように見えますが、犬にこの方法を理解させるのは意外とむずかしいのです。犬に行動を教えることはむずかしいことではありませんが、「見たものを真似をする」という抽象的とも言える指示、概念を教えることがむずかしいのです。まずは「Do it!」の指示が「真似をする」という意味であることを教えることが『Do As I Do』のスタートとなります。
『Do As I Do』の前にごほうびトレーニングの経験が必要
『Do As I Do』は基本的に単純な方法で行うものなので実践できるようになると犬も人もとても楽しく、さまざまなことが教えられる非常に有用なトレーニング方法です。
しかし過去にトレーニングを全くやったことのない犬の場合には、最初に犬が「真似をする」ということに気がつくまでに少し時間がかかるかもしれません。なぜなら、ごほうびを用いた陽性強化などのトレーニングなどを行った経験がない犬は「自分が何か行動を起こすことでいいことが起こる」などという思考になかなか行き着かないからです。飼い主から指示を与えられたり、時間を与えられた時に犬自身が考え、自発的に行動するということは『Do As I Do』においても非常に重要な要素です。
そのため、トレーニングなどで自発的に行動を起こしたことでごほうびをもらったりほめてもらったりした経験のある犬ほど「人の真似をする」という“正解”によりたどり着くのが早いと考えられています。そのため『Do As I Do』の前に、簡単なことでもいいのでごほうびトレーニングを行って、犬自身が行動を起こすことでほめられるという経験をさせて自信をつけておくといいとされています。
まとめ
『Do As I Do』は最新のトレーニング方法のため、まだ実践したことのない人も多いと思いますが、実際にやってみると犬も人もとても楽しみながら行うことのできるトレーニングだと思います。動画サイトなどでは『Do As I Do』を実践している犬と飼い主の動画などもあるので、ぜひ一度見てみてください。それらを見ると『Do As I Do』がしつけや訓練、トレーニングという意味だけでなく、愛犬との楽しいコミュニケーションにもなるものだということがよくわかります。
また、『Do As I Do』の基となった犬の記憶能力に関する研究によって、ある程度過去のできごとを記憶することができるということや経験を振り返ることができるということなどが解明されてきています。これまで犬は「極めて短い時間の記憶しか持てない」「トレーニングには報酬と反復訓練が必須」などと言われてきましたが、それらが覆る可能性すらある貴重な研究です。もしかしたら犬は人間に近い記憶や思考を持っているのかもしれないという期待すら持たせてくれたこの研究に今後も注目していきたいですね。