保護犬
動物看護師の仕事をしていると、保護犬によく出会います。
つらい過去を乗り越え、幸せな顔をしている犬をみると心から嬉しくなります。
私が出会った保護犬の中で忘れられない子が何頭かいますが、そのうちの1頭について書きたいと思います。
山の中を彷徨うゴールデン
私が動物看護師として働いていた病院でのお話です。
患者さんの中に動物の保護に力を入れている飼い主さんがいました。「1頭大型犬を保護したけど、状態が悪いからみてほしい」と病院に連絡がありました。
連れてきてもらい、その犬を見た瞬間言葉を失いました。
おそらくゴールデン・レトリーバーだと思いましたが、ゴールデンの見る影もありません。真っ黒で葉っぱや木の枝がついて汚れ、毛玉だらけの状態でした。それに全身にノミとダニがビッシリとついてガリガリにやせ細っていました。
ひどい貧血と脱水で、すぐに治療を始めそのまま入院となりました。入院室にいたその子は、ぐったりとして目に力もなくいつ亡くなってもおかしくない状態でした。
数日の治療で命の危険からは脱しましたが、目は虚ろなままでまるで生きる気力がないように見えました。保護した人の話だと、山の中の人が入るのもやっとの所で彷徨っていたそうです。
確かなことは解りませんが、長い時間ずっと独りで暗い山の中を走り回っていたんだろうな、と思うと心が痛みました。
迷い犬の可能性もあったので、警察や保健所、インターネットで探してみましたが、この子の飼い主として名乗りでる人はいませんでした。考えたくはありませんが、恐らく誰かが飼いきれなくなり山に捨てたんだと思います。
迎えに来ることのない飼い主を探して、必死で山の中を走り回り、何日も何日もずっと独りぼっちでどんなに不安だったんだろうなと、そう考えるだけで涙が出ました。
数日の治療で、体は回復しましたが心に受けた傷は回復しません。頭を撫でても、声をかけても、体を綺麗に拭いてトリミングしてあげても尻尾を振ることもなく、全くの「無」の状態で何の感情も感じられませんでした。
犬にも感情があります。長い時間絶望を感じると、感情がなくなり「無」の状態になります。一番犬にとって悲しいことです。
3ヶ月後、新しい飼い主さんが見つかり退院して行きました。あの状態で新しいお家でやっていけるのかと不安でした。新しい飼い主さんは、私が働いていた病院からかなり離れた所に住んでいたので、もうあの子に会えないと思うと余計心配になりました。
1年後の再会
あの子のことも記憶から薄れていた頃、新しい飼い主さんがたまたま近くに来たからと病院に遊びに来てくれました。
始め目を疑いました。あの時のゴールデンとは思えないほど毛の艶も良くなり、ガリガリでやせ細っていた体もしっかりとした体型となり、どちらかというとポッチャリしていました。
一番驚いたのは、表情です。何をしても感情が無かった子が、嬉しそうに飼い主さんに全身で甘えています。痛いぐらい尻尾を振って甘える姿が、この1年の間どれだけ愛情を注いでくれたかが解りました。
名前がなかったあの子は、新しい名前をもらいました。
新しい名前は「ラッキーちゃん」
新しい飼い主さん曰く、「こんないい子を家に迎えることが出来て、幸運を運んできたからラッキーにしました!」とラッキーの頭を愛おしそうに撫でながら教えてくれました。
その姿を見ているだけで私は幸せな気持ちになりました。今でも思い出すと温かい気持ちになります。
最後に
私が出会ったラッキーは、辛い過去を乗り越え幸せをつかみました。
もし、前の飼い主がその姿をみたらどう思うんだろうと思います。自分が捨てた犬が幸せを掴んだ姿をみて、後悔するんだろうかと考えたりします。また新しい犬を飼って同じことを繰り返しているのかもしれません。
法律では、動物をみだりに殺し又は傷つけた場合は2年以下の懲役又は200万円以下の罰金に処されます。また、愛護動物に対し、みだりに、給餌若しくは給水をやめ、酷使し、又はその健康及び安全を保持することが困難な場所に拘束することにより衰弱させること、遺棄した者も、100万円以下の罰金に処されます。
とあります。でも誰が捨てたか判らなければ、法律は役にたちません。
いつになったらラッキーのような悲しい過去を背負った子がいなくなる日が来るのか・・・私に何ができるのか。いつも考えていますが、私が出来るのはこういった記事を書くことぐらいしか出来ません。
もし記事を読んで、今自分の横にいる愛犬のことをより大切に感じてくれたらと思いこの記事を書きました。
ユーザーのコメント
30代 女性 ハイフン
お父さんは、お留守番で、母と弟と行きました!
風邪を引いたら動物病院に来てもらい、過保護なんだと思います!父が亡くなり二年、3年の法事過ぎに、急に立てなくなりました!ご飯もたくさん食べて、まだまだ元気ですが、最後まで責任持って母と観ようと思います
女性 Ludy
たとえ相手がワンコでも、信頼し慕ってくれる心を裏切る醜い人間にはなりたくないですね。
我が家もワンコと一緒に生活しています。旦那が仕事に行けば帰宅する時間の頃、何かを感じ取って玄関でおとなしく寝ころび待ってます。そんな慕ってくれるワンコを捨てるなんて心無い人がいるのが悲しいです。そして我が家のワンコを迷子にはさせないと、散歩の準備はリードを付けるまで玄関のドアは開けない。お出かけした時は車内でリードを付けるまでドアは開けない。絶対ノーリードで外には出ないってこと肝に銘じています。たとえ「うっかりでも迷子にさせたらこの子の命が無くなる」、いつもそんなことを思っています。
この子の身も、心も迷子にさせたくない。ましてや捨てるなんて・・・・・あり得ない。
信頼してくれている相手には、それに応えてあげなくてはいけませんよね。応えてあげてるから、もっと信頼してくれて慕ってくれる、その当たり前のことが理解できない人たちにワンコなど動物と生活してほしくないですね。