犬の歯槽膿漏とは?症状や原因、治療についてや予防法まで

犬の歯槽膿漏とは?症状や原因、治療についてや予防法まで

歯槽膿漏(歯周病)というと、人間の歯磨き粉のCMなどでお馴染みのフレーズですよね。でも実は犬の歯槽膿漏って、とっても多いんです。そんな犬の歯槽膿漏について、症状から治療、予防などを分かりやすく説明してみようと思います。犬の歯槽膿漏をしっかり知って、愛犬のお口の健康度をアップしていきましょう。

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記事の監修

  • 獣医師
  • 平松育子
  • (AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター )

獣医師・AEAJ認定アロマテラピーインストラクター・ペットライター
山口大学農学部獣医学科(現:共同獣医学部)卒業。2006年3月~2023年3月 有限会社ふくふく動物病院 取締役・院長。ジェネラリストですが、得意分野は皮膚疾患です。
獣医師歴26年(2023年4月現在)の経験を活かし、ペットの病気やペットと楽しむアロマに関する情報をお届けします。

犬の歯槽膿漏とは?原因について

虫眼鏡で犬の歯をチェックしている人

歯槽膿漏(歯周病)という病気は、犬だけではなく歯をもつ動物すべてにおこります。歯には、外から見えている部分だけでなく歯茎~顎の骨にまで至る歯根を支える部分があります。その部分が細菌感染による炎症により膿が溜まって起こるのが歯槽膿漏という病気です。

歯槽膿漏は歯周病の中でも最も進行した病気

実は歯槽膿漏について、いろいろな病気のもとになることが分かってきています。犬の歯茎から顎の骨の中には歯に栄養を送るための血管がたくさん通っています。

犬が歯槽膿漏になってしまうと、その血管を通してバイキンが体中に巡ってしまいます。バイキンの出す毒素によって心臓や腎臓に負担をかけ、犬が体調を崩すことも多いんですよ。

もちろん、歯を支える部分が傷んでしまうことで犬が食事をする時のトラブルや、口臭など困った現象も起こってしまいます。こんな犬の歯槽膿漏をどうやって治療するのか、しっかり知っておいていただきたいと思います。

犬の歯槽膿漏の症状

犬の口の中

獣医師として仕事をしていて、飼い主さんが気づくことの多い症状について簡単にまとめてみましょう。

口の中がとても臭くなる

愛犬とのスキンシップ、犬と顔を近づけると「くさっ」と顔を背けたくなるような匂いが・・・。高齢の犬の飼い主さんからこのようなお話を聞くケースはほとんど歯槽膿漏の悪化が原因です。

歯石がひどく、歯茎が後退している

最近は、愛犬のお口のチェックをされる飼い主さんも多く歯石の増加で来院されるケースも増えています。この場合は軽度~中程度の歯槽膿漏のことが多く、早期治療ができますね。

老犬が頻繁にくしゃみをして鼻水が出る

飼い主さんが気づかない歯槽膿漏の症状の一つが「くしゃみ」です。犬の上あごの骨はその上にある鼻の穴と非常に近いので上あごの歯の歯槽膿漏が悪化すると鼻のほうまで炎症がおきて膿や鼻水の原因になります。

さらに悪化すると、目ヤニがふえたり、目の下の部分が腫れたりすることもあります。超重度にあたる症状ですが、意外と気づかず放置しているケースも多いですね。

犬の歯槽膿漏の治療について

犬の歯槽膿漏の治療は体に負担がかかる

犬の口の中を診察

犬の場合、人間とは違い歯の治療に口をあけてじっとしてもらうのは絶対に不可能ですよね。当然といえばそうなのですが、全身麻酔でしっかり眠ってもらって治療することになります。

全身麻酔とは、麻酔のなかでも深い麻酔ですから、当然犬の体への負担も大きいです。年齢や持病によっては、麻酔をかけることで命の危険があることも予想されます。

ですから、愛犬の生涯のなかで何回も歯槽膿漏の治療をすることのないようにしたいものですね。

犬の歯槽膿漏の治療の緊急性

歯の治療中の犬

犬の歯槽膿漏にもいろいろな段階があります。いくつかの段階について簡単に説明しますね。

軽度の症状

歯石が溜まって歯茎を圧迫し歯周ポケット(歯の根っこと歯茎の間)が深くなって炎症を起こしている。

中程度の症状

歯周ポケット~歯茎の炎症が強く、歯がぐらつくことはないが歯茎の弱った状態。

重度の症状

歯槽膿漏の状態が長期にわたり続くことで、歯根(歯茎~顎の骨の中で歯を支える部分)まで炎症が起きている状態。この状態になると歯がぐらついたりすることが多い。

超重度の症状

重度の状態のまま放置することで、炎症が顎の骨まで到達し顎の骨が炎症により溶けて折れやすくなっている状態。

犬の歯槽膿漏の緊急性に応じた治療法

基本的に軽度の状態で治療するのが好ましいです。軽度の状態であれば、麻酔や処置の時間も短時間で済みますので、犬の体の負担も少なくてすみます。

中程度の歯槽膿漏であれば、麻酔に耐えうる体調かどうかを判断しなるべく早い治療を行うのが良いでしょう。

重度~超重度になると、歯槽膿漏の治療を行うことで顎の骨の骨折が起きてしまう可能性もでてきます。ですが、通常の犬の口の中ではいろいろな程度の歯槽膿漏が同時進行で悪化していっているケースがほとんど。

そのため獣医師は、犬の体調・心機能・腎機能・肝機能などを総合的に判断して治療するかどうか判断します。治療に際して、その部分の歯槽膿漏の程度にあわせて臨機応変に対応せねばならないということですね。

犬の歯槽膿漏の治療で起こりやすい問題点

犬の口の中に指を入れている獣医

犬に対する全身麻酔は非常に注意を要する処置ですが、それ以外でも、飼い主さんと獣医師の間でおきやすいトラブルがあります。事前の問診や視診・レントゲン撮影などで「抜歯」処置が必要(歯根~顎の骨まで感染が広がり歯を残せない状態)と判断、事前説明を行って処置をするのが普通です。

しかし、実際に麻酔をかけて犬の口の中を詳細に調べていくと、事前の診断より悪化した状態の歯が見つかるケースが非常に多いです。なるべく歯を残してあげたい(とくに犬歯の場合)のに、なかなかそうできないというのが現実です。

処置が終わって「この歯を抜くなんて聞いていなかった」というケースも非常に多いです。しかし、実際に犬の歯を見て、抜歯が必要と判断しなければ不要な抜歯は絶対にしません。

事前に犬に麻酔をかけた後に抜歯する必要があれば処置することについて承諾しておくか、処置しなければいけない事柄、もしくはしたほうが良いと思われる事柄が起きた場合には、連絡をしてもらうことを伝えておきましょう。

飼い主様と獣医師の間で必要と思うことの違いなどもあると思いますので、可能性のあることはできるだけ事前に話し合いをしておくことをお勧めします。

近年進んでいる抗生物質による治療

近年、犬の歯槽膿漏の原因菌に効果の高い抗生物質が増えてきました。歯石除去、抜歯に加えて、抗生物質の投与で犬の歯槽膿漏が安全に治療できる可能性も増えています。

犬の口の中は、細菌の非常に多い環境ですから、抗生物質による内科治療は長期にわたる場合が多いのですが、全身麻酔のできない犬の場合は有効ですね。

犬の歯槽膿漏の治療費

犬の歯槽膿漏の治療費は、病状の進行度合いや動物病院によって左右されます。目安としては5万円前後、症状が進行し抜歯手術や全身麻酔なども必要な場合トータルで10万円前後は見積もっておくことを推奨します。

犬は人間のように大人しく口を開いた状態を保つのが困難です。治療中に暴れてしまわないよう麻酔を施す必要があるため人間の治療よりも高額になりやすいです。

また、重度な歯槽膿漏によって抜歯を伴う手術が必要になったとき、ペット保険が適応になるかは、保険会社やプランによって異なります。気になる方は、あらかじめ契約しているペット保険会社に適応範囲内か問い合わせておきましょう。

犬の歯槽膿漏の予防法

犬の歯茎

犬の歯槽膿漏、できれば予防したいというのは飼い主さんも獣医師も同じ気持ちです。この項では、歯槽膿漏の予防についてお話しておきます。

歯石をためないのがベスト

人間でも犬でも同じなのですが、歯石というのは歯垢の固まったものです。歯垢は食べかすと細菌の塊・・・それを歯茎につけておけば当然歯槽膿漏が進行しますよね。

歯石は、歯茎と歯の境目にたまりやすく増えていくと歯茎を押し上げて歯根を痛めてしまいます。歯石を貯めない、ということが歯槽膿漏の予防につながるということですね。

歯石をためないデンタルケア

まず、歯石を溜めないようにするには歯磨きが一番です。犬の歯磨きについては、最近は行っている飼い主さんも多くなってきていますね。「うちの子は嫌がるから、無理だわ・・・」という飼い主さんもすこしずつ始めて少しでもケアすることで歯槽膿漏の悪化を防ぐことができます。

次の項目では、簡単にできる歯磨きケアについて説明していきますね。

犬の歯磨き習慣をスタートしよう

犬の歯みがきをはじめよう

歯磨き、というと歯ブラシでシュッシュ・・・を想像しますよね。でも犬にとって歯ブラシは「よくわからない器具」でしかありません。大事な口の中に妙な器具を入れられて喜ぶ子は少ないのは当たり前ですね。

なので、ステップを踏んで歯磨きに慣れてもらう方法をおすすめします。

1. くち~マズルに触れる練習

犬にとって、口は攻撃もできる食事もとれる大事な場所です。さらに匂いを嗅ぐための鼻も近くにあり、非常に敏感にできています。いきなり歯磨き、ではなくスキンシップの一貫として口に触れてからご褒美をあげるという習慣をつけてみましょう。

ご褒美に関しては、デンタルケアのできるおやつも販売されているので上手に活用しましょう。

2. 口に触れたら歯磨きの第一歩

マズルに触れても、怖がることがなくなったら歯磨きをスタートしましょう。

もちろんいきなり歯ブラシはつかいません。用意するのは、軍手や手袋です。手袋をつけてマズルに触れられるようならそっと犬歯を外側からこすってみましょう。これだけでも歯磨き効果はしっかりあります。

犬の歯石は内側より外側につきやすい傾向があります。ですから、外側をこすってあげるだけでもデンタルケアになるんですよ。犬歯になれたら、つぎは奥歯ですね。唇をめくる必要はありません。指をそっと差し込むように奥歯と唇の間にいれてみましょう。

強くこする必要はありません。褒めながらそっとなでるようにケアできれば充分です。

3. デンタルペーストを使う

上記のケアがしっかりできるようであれば、デンタルペーストを試してみましょう。動物病院だけでなくペットショップでも、犬用の歯磨きペーストが販売されています。歯石の再付着を防ぐ効果や、歯垢を分解する成分が配合されているものをおすすめします。

もちろん、嫌がったらすぐに使うのをやめて大好きなオヤツに歯磨きペーストをつけてなれてもらうようにしましょう。犬用の歯磨きペーストは、飲み込んでも安全な成分で作られているので、味や匂いに慣れてもらうのにおやつを使うのが良いですね。

4. 歯ブラシをつかってみたい

毎日、たのしくデンタルケアできる犬であれば歯ブラシを使うのはおすすめですね。犬用の歯ブラシも販売されていますし、人間用でも柔らかい毛足の歯ブラシであれば問題ありません。

ただし、決して強い力でゴシゴシしないでください。歯茎を傷めることで、炎症を起こしたり痛みを感じてしまうケースもありますので、あくまでも優しくなでるようにブラッシングが重要です。

犬の歯石を完全に除去する必要があるのか?

歯磨きを一生懸命しているのに歯石がついているんです・・・。飼い主さんが悲しそうにそうおっしゃることがよくあります。

たしかに一生懸命歯磨きしているつもりなのに、歯石がついてしまうと悲しいですね。ですが、だからといって歯磨きをしなければどれだけ歯石がついて歯槽膿漏をおこしていたかを考えてみましょう。

うっすらと歯の表面についた歯石は、歯槽膿漏になる可能性は低いです。おやつの中に、硬いものを加えてみる・歯石対策のフードを試してみることで軽減する場合もあります。ドッグフードや、おやつなど歯につきやすい食事をする現代の犬にはある程度の歯石はあるものと考えて良いでしょう。

ただし、歯茎を圧迫している・歯石が触れている歯茎が赤くなっている場合は歯周病の可能性があるので獣医師と相談の上処置を行うべきですね。

まとめ

犬の歯を磨いている人

犬の歯槽膿漏、近年の研究発表によると小型老犬の心臓病の原因になっている可能性が高いそうです。

普段の歯磨きやおやつのセレクト、早めの治療などでしっかりケアしていきましょう。人間と違って、入れ歯のない犬たちに、年をとってもしっかり自分の歯で噛める毎日をケアで作ってあげてくださいね。

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ユーザーのコメント

  • 投稿者

    30代 女性 須永智尋

    デンタルケア指導に力を入れてくれる動物病院も多くあります。デンタルケアグッズもたくさんあり、キャッチコピーを聞くと「それ、本当?!」「歯磨き不要なの?!」「めちゃくちゃ楽になる!」と思ってしまうものもあります。ですが、やっぱり基本は歯磨きですよね。子犬の頃からしっかりしつけて歯槽膿漏予防をしたいですね。
  • 投稿者

    40代 女性 TIKI

    「歯槽膿漏」というと人間の悩みのような気がしますが、歯を持つ動物(犬も)特有の症状なんですね。記事を読んで、軽度の段階で治療しないとバイ菌が体中にまわってしまう事もあると知り怖いと思いました。まず、愛犬の歯石ケアを習慣化していこうと思いました。
  • 投稿者

    40代 女性 Haru

    うちのポメミックス、6ヶ月で我が家に迎えた時、すでに歯茎のふちが赤くなっていました。小型犬は歯周病になりやすいというし、2、3日ほうっておいただけで歯石が付着するというし。歯磨きガムなども試してみましたが、やはりブラシを使った歯磨きは欠かせません。
    ついつい忙しくて歯磨きをサボったりすればテキメン、口臭が強くなります。
    歯磨きの大切さを痛感します。

    以前は子供用歯ブラシをもっと小さくしたような犬用を使用していましたが、もっと良い物はないかと探して、先端がコップブラシのようになっている物を使い始めました。ペーストもより効果の高いと言われるゼオライト入りの物に変えた結果、なかなか調子がいい! 心なし歯の着色が薄くなりました。それだけ歯の表面の汚れが取れているのだと思います。

    また、疲れていてどうしても余裕のない時には、口内環境を良くするというジェルを使用法どおりに歯茎に塗り付けておしまい。これだけでも違うようです。

    ちなみに愛犬は歯磨きはキライ。夜の歯磨きタイムになると姿を消します。毎回ワンパターンなことに、クレートの中で息をひそめているので簡単に捕獲。なかなか頑固な性格で、おやつを使っても歯磨きは好きにはなれないようで。
    とりあえずは大人しくさせるので、イタイ思いだけはさせないよう気をつけてます。
  • 投稿者

    20代 女性 らずべり

    ここ最近では、わんちゃんの口内ケアも習慣化されてきましたよね〜!年齢とともに歯槽膿漏や何かとお口のトラブルは多かったりします。
    わんちゃんの場合歯槽膿漏の治療や抜歯や歯石とりなどは麻酔をかえて行うので頻繁には出来ませんし、少ないとはいえリスクを伴います。麻酔が出来ない子は治療が難しいですし、歯石とりもスケーラーで削るため生涯何度も何度も行える物ではないそうです。なので日々のケアが大切になってくるんですね!
    重度や超重度になると、あごの骨が溶けるなどかなり深刻になってくるので、絶対ケアして予防してあげようと思っています。
    我が家のわんこは、歯ブラシは苦手で使用してませんが、歯磨きシートと歯磨きジェルのこの2つを使ってケアしています。シートの場合は、指に巻きつけ歯を磨いてあげるだけで簡単ですし、歯磨きジェルも好きなようで喜んで舐めて歯磨きをさせてからます。歯磨きジェルに関しては基本的には好きなようですがミントなどのものは嫌がっていたので、好みがあるようです。小さいめのを試しに買って見ると良いと思います。
    ジェルが苦手やそのジェルが合わない場合は、使い続けると歯磨きそのものが嫌になってしまうかもしれないので使用をやめた方がいいかもしれません。
    噛んで食べる歯磨きサプリや歯磨きガムやスプレーなど、口内ケア商品は現在かなりの種類があるのであうものがあると思います。
    歯と歯茎の間に関しては歯磨きなどのブラシを使わないと中々磨く事が出来ないため、私も歯ブラシを練習しなくちゃなーと思っています。
    手軽に出来る、飲み水に入れて使うマウスウォーターと言う物もあります。マウスウォーターだけでも効果はあるようですが、歯磨きと併用して使うとさらに効果アップだそうです。(ショップのお姉さんが言ってました)
    我が家のわんこも最近お口が匂うので、もう少し気を引き締めてケアしてあげたいと思います♩
  • 投稿者

    女性 もふころ

    歯槽膿漏の症状を見て、老犬のくしゃみとありドキッとしました。愛犬は高齢の域なのですが、確かにくしゃみが多くなってきた気がします。目ヤニも目立ってきました。
    ご飯も食べたいけど、どうしようと悩むことが多くなり、もしかして歯石かな?と思っていたのですが、歯槽膿漏の可能性もありますね。次回の検診の時に診てもらおうと思います。
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