ペット業界の厳しい現実
写真:Adobe Stock
僕はペット業界側の人間なのでこのテーマを書こうかどうか悩みました。
近年動物愛護法の改正や保護犬を迎え入れる愛犬家が増えているなど、ペットに対する意識が高まっており、まだペット後進国の日本が少しでも先進国に近付いて欲しい、犬の地位が向上して欲しいという願いを込めて書こうと決めました。
(使用した写真は本編とは全く関係ございません)
1日に350匹!
上の数字は何だと思いますか?日本で殺処分されている犬や猫の数なんです。
年間にして12万8241匹(※2013年環境省動物愛護管理室調べ)法律では野良化、捨てられた犬や猫に飼い主が見つからなければ殺処分の対象になるのです。
引取り数約17万6000匹の内、信じられない事に約3万7000匹(※)は飼い主の持ち込みなのです。
ここに業界側の数字は入っていません。
今現在は規制が強化され、なかなか持ち込めない様になりましたが…。
嫌な予感が的中した!
僕がレスキューに出向いたのは今から10年以上前の事なのですが、当時はまだ動物愛護法も緩く、儲け主義の「にわかブリーダー」がどんどん「出荷」していた時代です。
知人でブリーダーを始めたA氏という人物が居て、最初は確か4匹ぐらいの少数でアットホームな感じで順調に運営されていたのです。
僕もアドバイザーとして携わっていました。
しかしいつの頃からか母犬、父犬の数が増え始めていきました。
僕は、
「止めた方がいいよ。このままだと世話しきれないよ」
と注意した事もありましたが、
「大丈夫大丈夫♪そんなむちゃはしないから」
と軽くあしらわれていました。
その後、あまり連絡も無くなり、たまに足を運ぶたびに犬が増えて居ました。
「なんか増えていない?家が犬舎で人が居候してるみたいだよ」
「いやいやおかげさまで最近取引先が増えてさぁ♪世話係のアルバイトも来てもらっているんだよ♪」
「それならいいけど…」
僕はそんなA氏との会話から、言い知れぬ違和感を覚えました。(大変な事にならなきゃいいけどなぁ…)
一抹の不安を覚えながらも月日は過ぎて行きました。
そして突然その日が訪れたのです。
目を背けたくなる現場
ある日の早朝、当時お世話になっていた保護犬シェルターの所長から着信がありました。
「A氏が居なくなったって!妹さんから連絡があった」
「え~~‼︎」
「もう一週間ほど連絡が取れないって」
「犬達は?」
「判らん…。妹さんがA氏宅に来てるそうなので今から行ってみるぞ!」
「はい!すぐ行きます!」
所長と合流しA氏の家に向かいました。
道中、行政と警察に連絡を入れ、到着すると妹さんが家の前で立ち尽くしておられました。
家の中から犬の弱々しい吠えは聞こえますが、人の気配はありません。
「お留守ですね…。鍵を開けてください!」
「はい。お願いします」
妹さん立会いのもとドアを開けます。
モワ~とした悪臭が立ち込める薄暗い家の中。
吠え声のする奥のリビングに進んでいくと、ズラ~とケージが何段にも積み上げられています。
電気を付けて全貌が見えた瞬間「えっ⁉︎」所長と顔を見合わせました。
餌も水も与えられていなかったのでしょう。
数匹の犬達が既に息絶えていました。
その中にパピーも含まれています。
ガリガリに痩せ細った子、皮膚病や疥癬ダニや感染症に侵された子。
数匹の子は何とか生命を維持してくれていました。
「ひどい…。何て劣悪な状態だ。なんてことを…」
言葉を失い身を背けたくなる光景でした。
その後行政の方が到着され、対策会議が始まりました。
所長が、
「とにかく息のある子はうちで連れて帰ります。亡くなった子はそちらでお願いします」
と言うと、行政の担当者は、
「分かりました」
と応え、そこから誰も口を開くことなく黙々と救出作業が始まりました。
僕は所長と1匹1匹抱きかかえ車のケージに運びました。
「お前らよく頑張ったな…帰ったら腹一杯食べろよ」
犬達も中には気が立った子もいて、攻撃的に噛んでくる子もいました。
そりゃこんな目に遭わされたら人間不信になりますよね。
総数40匹。内死亡26匹(パピー10匹)。
生還14匹(患犬8匹)。
帰りの車の中、当然許せないという怒りも込み上げてきましたが、『何でもっと早く気付かなかったんだ』という自分への怒り、切なさと虚しさがより大きくてやりきれない気持ちだったのを覚えています。
シェルターに連れ帰った子達を洗って上げて餌を与え獣医さんにメディカルチェックして頂き、出来るだけのことはやりました。
しかし患犬の内6匹は、看病の甲斐もなく虹の橋を渡りました。
残りの8匹は数ヶ月後、順次元気になり里親さんの元にお渡しすることが出来ました。
原因を考えました。
何故A氏はこんなことになったのか?後で聞いた話ですが犬が増えすぎて衛生面が疎かになった。
不衛生なので感染症が出てしまった。それが他の犬に広がったにも関わらず病院代をケチって見て見ぬふりをしたのだそうです。
すると手に負えない状態に陥り、犬は売れない、しかし良心から処分する訳にもいかず飼育し続ける。
売上は上がらないのに餌代や病院代は掛かってしまい自分の生活自体が困窮しままならなくなる。
当時ブリーダーは簡単に始められたのですが、素人が利益優先でやると、こういう末路を辿ることになるのです。
今もパピーミルが蔓延(はびこ)る部分もある、この業界の暗部であることは言うまでもありません。
現在でも国内で推定年間60万匹とも70万匹言われるパピー達が流通しているそうです。
しかし飼われるパピーは30万匹から40万匹という噂も。
この話を聞くだけで何で差があるの?
残った子達は?
と思いますよね。
お金のために犬を『家電の様に生産する』感覚を何とかしない限り、ブリーダー崩壊は無くならないんでしょうかね。
そりゃ生きていく上でお金は必要ですが『命を売り買い』している事を肝に銘じないといけません。
犬は物じゃないんですから。
私たちにできること
僕は今もたくさんのブリーダーさんとお付き合いさせて頂いています。
皆さん堅実に愛情たっぷりで営んでおられますよ。
これは僕個人の意見ですが、ブリーダー崩壊は明らかに利益主義で需要と供給のバランスが取れない業界側の責任です。
先ず蛇口を閉めて、今、家族を待つ犬達の行き先を探す。
パピーは「完全予約オーダー制」にするとか、本当に犬が欲しいなら待てるでしょう。
世界のパピー事情を見てみると日本ほどパピーを欲しがる国は少ないのです。
欧米諸国は比較的成犬が求められるのです。
そしてもう一つ、日本はパピーの月齢が若いほど高く売れるという常識。
これがパピーミルが減らない一番の原因なのです。
「保護犬を迎える」という選択肢がもっともっと浸透してくれれば、少なくても今の現状はちょっとは脱出できると考えます。
『供給する側の意識改革!』
『飼う側の意識改革!』
『子犬の社会化期義務教育化!』
僕はこの三つの指針をここ10年間訴え続けています。
僕はドッグトレーナーとして普段から、
「飼う側の意識改革!」
と散々言っていますが、業界側の人間として襟を正しブリーダー崩壊や殺処分という現実問題に立ち向かう必要があると思うのです。
喜ばしい事に、業界の中にもそういう意識を持って犬のために必死で取り組んでおられる団体が全国でどんどん増えています。
僕もこれからもっと声高に叫びます!
悪徳ブリーダー撲滅運動や保護活動も始めたいと考えています。
ユーザーのコメント
30代 女性 さえこ
愛犬のグッスリ眠っている横でこの記事を読み、私は愛犬を抱きしめました。あまりに悲しい現実に怒りも哀しみも寂しさも感じ、こんなひどいことできる人の気持ちが理解できません。
利益のためにパピーを増やす…たしかに日本では赤ちゃんであればあるほど可愛いと思ってしまう人が多いかもしれません。そこにつけこんで高値で売れるからまた増やす…一向に減りませんよね。
しかし、そんな悪徳ブリーダーを撲滅しようと活動されている方も増えているということに、とても安心しました。
この今の現状が良くなることを祈っています。
30代 女性 もこじ
当時、私は子供でありながら生き物を飼うと言うことが、どんなに大変で責任重大なことなのかを知りました。
日本ではテレビ番組やテレビCMでペットを利用してはペットブームが起こり、飼いたがる人が増え、売る人間、繁殖させる人間も増えて、結果幸せになる犬と同じかそれ以上に不幸になる犬が増える。
日本は生き物を簡単に扱いすぎです。
お金があれば簡単に手に入ります。
お金と愛情がなくなればすぐ手放すこともできます。
ペットを扱うお仕事の方以外にも、ペットを飼いたい!と言う方も資格、試験、面接、審査等、厳しくしてもいいと思います。それが嫌だ!めんどくさい!と言う人はペットを飼う資格もないと思うし、飼ってからも同じ事を言うと思います。
人間も犬も同じ生き物です。
みんなが幸せになってほしいと、本当に思いました。
40代 女性 TIKI
30代 女性 patata
30代 女性 ミニー
40代 女性 匿名
女性 たなか
需要と供給がおかしすぎます。動物が飼われるのを待つのではなく。人がお迎えできるのを待つ時代がきますように
40代 女性 匿名
最近 子犬をもらってきて飼い始めたのですが、まだ本当に小さい子犬を「犬は外で飼うもんや!」と 過去に病死した犬の小屋に繋いで飼ってるらしく、毎晩 凄く鳴いてるらしいです。 もちろん 犬小屋は病死した犬が入っていたにも関わらず 消毒してない。
そして、「今は柴犬が流行っている」と 柴犬成犬2匹も新たに買い始め 「増やして売る!」とか言うているらしいです。
もちろん、ブリーダーなんてした事ない。
私は何度も止めたのですが、「旦那には逆らえない」と……
犬は病院で検査もしていない、ワクチン接種していない状態。
そこで飼われていた歴代の犬は、長くて1年半しか生きなかったらしく
どうすれば良いのか 分からない状態です。
こんな人が現実にいてるのも確かです。
40代 女性 匿名
40代 女性 匿名
私は、初めて里親になろうと思い、色々な情報をみて、憤りを感じてます。特に悪い状態で保護されているのはブリーダーによる子達が多い気がします。みんな糞尿まみれで白内障。
ブリーダーは簡単に始められてしまうのですか?免許はないのですか?悪質な人の名前を公表する制度にはできないのですか?
それよりも海外みたいに、日本もペットショップは無くせないのでしょうか?消費者は簡単に手にすることができないように資格制度にはならないのですか?あまりにも簡単すぎる。
門戸が緩いなら社会的に厳しく制裁することが必要だと思います。
業界の人の雇用や生活の心配をして緩いならば、それなりの政策をしてほしい。命を預かるのだから。これじゃボランティアの人は都合良く使われてる感じがして、怒りがこみ上げます。
里親を考えてる私達は、こんなブリーダーらの受け皿じゃないです。
ぬるま湯のブリーダー社会の撲滅は具体的にどのようにしたら良いのですか?
50代以上 男性 匿名
犬はほんとに賢くて従順で、人の気持ちを理解してくれる動物なだけに、悲惨な目にあっているわんちゃんが、可哀想で胸が締め付けられます。
保護団体のボランティアに行きたいのですが、自分の気持ちが入り込んでしまって気持ちを保つことができなくて鬱になりそうで、、物資やお金での援助しか出来ません、、ごめんなさい、、
ひどいブリーダーがなくなって、生体販売がなくなってほしいです。
わたしも、そのために何かしたいのですが、具体的に何をすれば良いのでしょうか。悪徳ブリーダーをなくすために協力できることがあれば
微力でも力になれればと思っています。
男性 匿名
20代 男性 ベル
需要側(飼い主)をもっと切り込んで行く必要がある。
車と同じ様に市町村登録制度にして
ブリーダー、ペットショップは減税や行政登録されている施設から保護されたのを里親として飼った場合は生涯減税
障害のある場合は生涯免税と医療費無料などの弱者に優しい
ペット取得税(国税)、1年1回必須の健康診断税(県税)、各種ワクチン税(市税)、ペットフード税(国税)を徴収してそこから市町村、県、国の各個別の殺処分、動物保護等の対策費や動物と人間が共存できる街作り、手厚い医療保険制度等を確立し
種類や大きさ、飼い主の収入に応じた保険料のペット保険強制加入させたらペットショップなどで安易に飼えてしまって簡単に捨ててしまう様な事が少なくなり、繁殖業者も繁殖させても儲からないという構図が出来上がると思う。
少子高齢化社会にいよいよペット税も必要になると思う。
50代以上 女性 匿名
40代 男性 ペロミツ
悪性乳腺種で、残りの命の時間が3〜4ヶ月と判明しました。
産まれてから3年、身体の痛みに耐え、ずっと我慢をして来たからか、我慢強く、わがままを言わないいい子ですが、左前脚も悪く、元気に走ったりも出来ません。
僕の所で10年生きてくれたら今までの辛い環境を忘れるかなと思っていた矢先の余命宣告。
夫婦で泣きました。
こんな不憫なわんこ達が少しでも減る様に、行動を起こしていかないといけませんね。