イヌノオモイ?
「誰?誰?何?何?助けて~!」
ーーあなたは気が付けば薄暗く狭い檻の中に居ました。
あなたは子供の頃、リビングで一家団欒の最中、テレビを見ていると突然誰かが入ってきてあなたは目隠しをされた。
そして何かの乗り物に乗せられ、そのまま檻の様なものに押し込まれた。
連れ去った張本人は、あなたより遥かに身体が大きく、あなたより遥かに知性や文明を持ったバウワウ星人。
あなたをペットとして飼うために自分の星に連れ去ったのだ。
惑星に到着し、バウワウ星人の家らしき所に入ると、あなたの部屋らしきものが用意されていた。
フカフカのカーペットに床暖房、クッションのいいベッド。色とりどりのオシャレな服、オヤツまで置いてある。そして見慣れぬ壺のような物。
時間が来れば食事も食べさせてくれる。外の空気を吸いに散歩に連れ出してくれる。
まるで至れり尽くせりである。
「良い暮らしだなぁ♪悪くない♪」
そして何よりあなたに対し、いつも低姿勢であなたのご機嫌を取ってくる。
「家族と引き裂かれ寂しいなぁ。でもここは気持ちを切り替えて様子を観察しよう。ジタバタ抵抗しても仕方ないしなぁ。それに美味しい物が食べれて待遇もはいいじゃないか。こいつら案外いい奴等かもなぁ♪」
しかし、残念ながら致命的な事がある。
あなたの言語やジェスチャーが全くバウワウ星人に伝わらないのだ。
そのバウワウ星人達はテレパシーやボディーランゲージでお互いにコミニケーションをとっているらしく、時折甲高い音や低い音などを発する。あなたは何が何やら全く理解不能で、どう接したら良いのか全く分からない。
唯一、顔らしきものの表情?でたまに危険は感じるがあなたに敵意が無い事だけは理解できる。
時折窓の外から「おーい!誰かいないか~!」と聞きなれた言語が聞こえる。
どうやらこの星にはあなたと同じ様に連れ去られたあなたの仲間が既に居るみたいだ。
そしてこの星にはあなた達が守るべきルールがあるらしく、あなた達はそれを絶対に守らなければならないらしい。そのルールをバウワウ星人は何とかしてあなた達に伝えようと必死である。しかしあなたはどうして良いか、まるで理解出来ない。
「こりゃ困った事になったなぁ…」
あなたはこの理解不能の状況の中で、そのルールを理解しなければならないらしい。
バウワウ星人が伝えようと発している音やボディランゲージの解釈が正しいか否かは、色んな行動を試し、やってみるしかない。
出たとこ勝負の当てずっぽうな部分が殆どだ。
しかしあなたにはちょっとしたラッキーなことが一つ♪
バウワウ星人の家の中で一緒に快適に暮らせることだ。
お隣の仲間は外で鎖の様なもので繋がれていて、いつも「誰かー?誰か居ないのー?」とか「お前は誰だ⁉︎こっちに来るな!」と叫んでいるのがいつも聞こえる。
あなたはバウワウ星人が帰って来ると「やぁ!お帰りなさ~い!」と元気よく話しかける。最初の頃、それを見たバウワウ星人は優しい表情らしき顔、笑顔らしき顔であなたの頭や肩をポンポンと叩いてくれたものだった。
だからそれが良い事だ!喜ばれる行動だ!と思ったあなたは、バウワウ星人を喜ばそうと徐々に大げさに元気よくジェスチャーを付けて、やがて足にハグして迎えるように頑張ってみた。
するとある日、いつも低姿勢で機嫌を取ってきたバウワウ星人が急に強張った様な表情をして甲高い大きな音を出し、あなたを持ち上げあなたの部屋に閉じ込め外からカギを掛けてしまった。
「えっ!なんで?」
あなたは状況が飲み込めない。何も悪い事はしていないのに…。
バウワウ星人はこう思う。
「我々が近づく度にこんなに興奮し続けるのだからこの人間は室内で飼うのは無理かもなぁ。」
さて主であるバウワウ星人に家には壺がたくさん置いてある。壺には液体が入っていて、その液体が自動で流れるようになっている。そこであなたがその壺で用を足そうとすると、必ず近くにいるバウワウ星人が飛んできて甲高い大きな音を出し、邪魔をする。
だからあなたはバウワウ星人が居ない時にしかその壺を使わない様になった。
バウワウ星人が帰宅すると、あなたは時々甲高い大きな音を出しながらそこに引きずって行かれ頭を突っ込まれてしまう。
「えっ!なんで?」
あなたは状況が飲み込めない。何も悪気はないのに…。
何はともあれ、そんなことをされるのが嫌なあなたはバウワウ星人が帰って来た時、出来るだけ機嫌を取るようになっている。
しかしその態度を見たバウワウ星人はこう思う。
「何か悪い事をしたのか?罪悪感を感じているようだなぁ。」
当然あなたには悪意も罪悪感もあるはずがない。
それだけではない。
外に出ている時、仲間とすれ違う時「よう。元気か?そっちはどうだい?」と言っただけでバウワウ星人に抱えられ大きな音を出される。
本を読んでも、ゲームをしても、ピザやチーズケーキを食べても、文章を書いても、歯を磨いても、宇宙人にことごとく甲高い音や耳触りの悪い音を出されてしまう。
そう、このバウワウ星人にとってはあなたの常識が全て「問題行動」だったのだ。
あなたはドンドン溜まるストレスを跳ね除け何とか正気を保とうと、バウワウ星人が居ない時には好きな事をやり、宇宙人が周りに居る時は、ジッと静かに横になったり座っていることにした。
するとバウワウ星人はこう思い結論付けた。
「やろうと思えばお行儀良く出来るのに、留守をすると悪さばかりするのは絶対に悪意があるからだ。きっと独りになるのが嫌なので嫌がらせをしているのだろう」と…。
お互いに理解し合えないあなたとバウワウ星人。しかし、あなたの命運も全ての主導権もバウワウ星人が握っている。
ある結論を出したバウワウ星人はこう思った。
「もっと外に連れ出し気分転換させよう。そして独りで留守番させる時は退屈しのぎに将棋の本でも置いておけばお行儀よくするんじゃないか」
だが、あなたは大の将棋嫌い。苦手で興味も無いし、一度も本を開こうともしない。
その様子を見たバウワウ星人はこう思う。
「何が気に入らないんだ?腹いせか!せっかくの私の好意を無視しやがって」
しかしここで一番厄介なことはあなたがバウワウ星人を嫌いではないという事、気に入られたいと思っていることだ。
バウワウ星人も、普段はあなたの事を可愛がってくれるし、大切にしてくれる。いつも低姿勢であなたのご機嫌を取ってくれる。ところがあなたが良かれと挨拶し微笑むと甲高い大きな音で返される。握手もいけない。謝るとまた嫌な甲高い大きな音で返される。
あなたはもうどうしたらいいのか分からず、パニック状態になってしまう。
「なんでだよ…?」
あなたは連れて来られた子供の頃からずっと外の仲間と接する事も、遊ぶ事もなく育ってきた為、外で仲間を見かけるとつい興味に駆られ、興奮し、反応してしまう。時には相手によって恐怖心に駆られる時もある。
どのように振る舞えば全く教えてもらっていないから、なす術が分からないのだ。
その様子を見たバウワウ星人は、あなたを仲間に近づけまいとする。近付ければ何か良からぬ事が起こると思い込んでいるのだろうか。いつまで経ってもどうすればよいか分からない。
とうとうバウワウ星人も困り果てて自分にはあなたにルールを伝えるのは無理だと感じ、あなたを「学校」の様な所に連れて行く事にした。
そこの授業らしきものは酷いもので、首に鎖を付けられ間違えればグイグイ引っ張られる。仲間も居るのだが同じ扱いだ。
痛いし、息は詰まるし大変な苦痛である。
バウワウ星人は、あなたが彼らの出す甲高い音やテレパシーの意味を先生らしきバウワウ星人が教えているので一語一句、理解していると信じ込んでしまっている。これはあなたが時々先生の音やテレパシーに正しく反応するからかもしれない。(ただの当てずっぽうなのに)
あなたはそんな授業が大嫌いになり、大きなストレスを感じている。
ある日、学校でバウワウ星人先生が首輪らしきものを持って近づいてきた!
その日あなたは体調が悪く、体の節々が痛かったので帰りたかった。
授業が始まった。今日はいつに無くグイグイ引っ張られる。「く、苦しい!」
あなたはこれまでに無い強い調子で
「もう、やめてくれ!一人にしておいてくれ!あっちに行け~!!!」
と大声で叫び、取り乱し、バウワウ星人先生に殴りかかり暴れてしまった。
バウワウ星人はあなたが急に訳も無く凶暴性を見せ、攻撃的な態度を取った事に大きなショックを受けてしまった。これまであなたは穏やかな性格だと思い込まれていたからである。
その後も、全く歯車がかみ合わない生活が何年続いただろう。
あなたはもう慢性ストレス症になっていた。無気力になり、自暴自棄になり、イライラする。そんな事とは全く気付いていないバウワウ星人がいつものように低姿勢であなたのご機嫌を取ってきてもどう対処すれば良いか分からない。
たまに急な物音や外で仲間に会った時、感情が爆発して大声を出してしまう。
「お前は誰なんだ!こっちに来るな!」
そんなあなたを見てバウワウ星人はこう思う。
「最近、家の中ではお行儀良く、普段は大人しくなったがこの凶暴な攻撃性のある性格は治らないな。何か事故が起こる前に何とかしなければ。」
あなたは全く言う事を聞かない頭の悪いダメなペットと決め付けられてしまったらしい。
それからしばらくしたある日、バウワウ星人の家族はあなたを車らしきものに乗せドライブに連れ出した。あなたは窓の風景が綺麗で、眺めていいるだけでなんだかホッとする。
「どこへ行くのかな?買い物かな♪」
やがて車らしきものが止まり、あなたは建物の中に連れて行かれた。
そこは息が出来ないほど酷い臭いがした。見渡すと仲間があちらこちらの小さい檻に入れられて呆然とし、抜け殻のようになって座っている。そしてあなたを見ている。虚ろな視線である。
これまであなたが長年一緒に暮らしてきたバウワウ星人は、あなたを見知らぬバウワウ星人に引き渡し、あなたも小さい檻に入れられてしまった。
あなたは何が起こっているのか理解できない。
しかし何とも言えぬ恐怖と凄まじい不安に駆られ大声で叫んだ!
「ねぇ!どこいくの~?一緒に連れて行ってよ~!」
しかしバウワウ星人はあなたに背中を向けたまま建物を出て行ってしまった…。
「…どうして…」
あなたは今、薄暗く狭い檻の中に居る…。
何も分からないままに…
おわり
さいごに
お判りの通り、あなたとは「犬」で、バウワウ星人が「飼い主さん」ですね。
現実問題として、飼い主と円滑に幸せに暮らしている家庭犬もたくさん居ますが、こうした信頼関係も意思疎通も出来ない悪夢のような環境で過ごしている家庭犬も多いのです。
噛む、吠える、野性的になる、動くものに反応し追いかける、見る物をことごとく口にする、挨拶をする時飛び上がったり前足で引っ掻く、争いを避けるため威嚇する、初対面の犬に興味を示す、オモチャを咬んで離さない、リードを引っ張る、床に排泄する、警戒心や恐怖心から自ら身を守ろうとする等の行動は、犬にとっては正常な行動なんです。犬の本質なのです。
それなのに我々人間は、これらをことごとく「問題行動」だと決めつけています。
人間界のルールは犬からすると全くの異次元の世界なんですね。犬の思考や概念が人間と同じだと思うのも大きな間違いです。
人間だって仕事も含め日常の習慣や行動が罰の対象になるのなら誰だって避けたいし、どうやったら罰を受けずにやり過ごせるのか誰でも考えるでしょう。またこのような罰を与える者、楽しみを取り上げる者を果たして信頼できるでしょうか。
人が人として存在しているのと同じ様に、犬にとっては目に入るほとんどの物、家具、衣類等は皆、噛むために存在しているのです。歯磨きをして怒られるなら、怒る者が居ない時に歯磨きするようになるのは当然の事ですよね。犬より発達した頭脳と判断力を持った我々人間でもそう考えるでしょう。
僕がこの物語を書こうと思ったのは、知識不足で犬の本質を知ろうとせず「思い込んでいる飼い主さん」に気付いてほしい、意識を変えてほしいからです。幸せなドッグライフを過ごされている方にも再認識して頂きたいからです。犬にも飼い主さんにも幸せになってほしいからです。
何かを感じ、今一度お考え頂ければ幸いです。
どうか、犬の本質を理解し、人間の概念ではなく犬の目線で接してあげる努力をしてください。その為に知識を吸収して下さい。決して難しい事ではありません。
飼う側の意識改革があの忌まわしい「殺処分」を無くす大きな力になります。
必ず『あなた』は理解し、『バウワウ星人』の最高のパートナーになってくれます。
どうぞ!幸せなドッグライフをお過ごし下さいね!
えっ!この物語の続きって…?
わんぱぱ《今日の格言》
犬と対峙するのではなく並んで同じ景色を眺めてあげましょう。(正面から向き合うのも大切ですが横に寄り添って犬と同じ高さの目線で同じ景色を見る事で安心感を与えますよ♪)
ユーザーのコメント
30代 女性 身に染みました
犬からしたら誘拐みたいなものなのに今では家族のように懐いてくれて感謝してます^^
言うこと聞かないからと愛護センターに持ち込む人に読んでもらい記事です