犬は『飼い主の顔』を認識しているの?
犬は飼い主の顔を認識できる
犬は飼い主の顔を認識できるのでしょうか。結論を先にいいますと、ちゃんと飼い主の顔を認識していると考えられています。犬が何をどのように認識しているかを調べる研究は困難なことも多いそうですが、犬の目の動きを調べることによって、飼い主と知らない人を区別していると考えられる実験結果がいくつか出されています。最初に、イタリアの大学が行った実験をご紹介します。
その実験の方法はでは、犬が待機している部屋に飼い主と見知らぬ人を別々のドアから同時に登場させて、飼い主と見知らぬ人が行き違うように、そして犬を見ないで部屋の中を歩いた後に別々のドアから部屋を出て行ってもらい、その間の犬の目の動きを調べる、というシンプルなもの。その実験では、見知らぬ人よりも犬が飼い主を見つめている時間の方が長いという結果で出ました。また、実験終了後には飼い主が出て行った方のドアに近づいて飼い主を待つような行動を見せた犬も多くいたそうです。
この実験だけだと、見知らぬ人と飼い主の区別ができていることは分かりますが、顔で飼い主を認識しているかどうかは分かりませんよね。そこでこの実験は、人間の顔を隠して状態でも行われました。
実験方法は先ほどと同じですが、飼い主と見知らぬ人の両方に、首から上をすっぽりと覆って顔を隠すマスクを着用してもらいました。マスクを着用した人は外を見ることができますが、外からはマスクを着用した人の目を見ることはできません。
その結果、犬はマスクをつけていない時と同様に見知らぬ人よりも飼い主を見る時間の方が長くはありましたが、マスクをつけていない時よりも飼い主を見つめる時間が少なくなり、見知らぬ人を見つめていた時間が長くなりました。また、飼い主が出て行ったドアに近づいた犬も少し減ったそうです。顔が見えていなくても、犬が飼い主を見る時間は見知らぬ人を見る時間よりも長かったことから、犬が飼い主と他人を区別するには顔以外の要素も関係していると言えますが、顔を隠すと飼い主を見る時間が少なくなったことから、飼い主の顔も犬が人を区別するための要素となっていると言えるでしょう。なお、この実験は、視覚ではなくにおいで飼い主と見知らぬ人を区別している可能性を排除できるように行われたそうです。
Paolo Mongillo, Gabriele Bono, Lucia Regolin, Lieta Marinelli. Selective attention to humans in companion dogs, Canis familiaris. Animal Behaviour. Volume 80. Issue 6. 2010. Pages 1057-1063.
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2010.09.014.
この論文は「犬が何に注意を向けるかは、犬とその人との関係性によって異なる」と結論しているものであり、犬が飼い主の顔を認識しているのかを検証したものではありません。しかし、「顔が見えているか隠れているかで、犬が人の顔にどのくらい注意を向けるか、それも飼い主なのか見知らぬ人なのかによっても異なった」ということはできるでしょう。また近年は、犬の認知機能に関する研究が増えていて、他の様々な研究から、犬は人の手の動きや顔の表情、歩き方などの体の動かし方などもよく見ていて、その違いや意味も分かっている可能性が示されています。
画像でも飼い主の顔を認識できる
次に紹介する実験は、フィンランドのヘルシンキ大学の研究チームはがコンピューター上に映した画像を使って、犬は人間の顔を見分けられるのかどうかを調べた実験です。実験の内容は『犬に画像を複数見せて、犬がどこをどれくらい見ているかを調べる』というとてもシンプルなもの。犬に見せる画像は、犬がよく知っている人の顔、全く知らない人の顔、全く知らない人の逆さまの顔、犬がよく知っている別の犬の顔、全く知らない犬の顔、全く知らない犬の逆さまの顔の6種類です。この実験でも犬の目の動きを記録して、犬が何をどのくらいの時間見つめていたかを分析しました。
その結果、犬は見知らぬ人よりもよく知っている人の顔、見知らぬ犬よりもよく知っている犬の顔を見つめる時間が長かったそうですよ。犬は飼い主の顔をちゃんと認識しているのではないかと考えられますね。
Somppi, S., Törnqvist, H., Hänninen, L., Krause, C. M., & Vainio, O. (2014). How dogs scan familiar and inverted faces: an eye movement study. Animal cognition, 17(3), 793–803.
https://doi.org/10.1007/s10071-013-0713-0
この実験では、上記で紹介されている結果以外にも、
という結果が示されました。このことから犬は、画像でも犬の顔も人間の顔も区別できる、認識していると考えられ、さらに、顔をパーツごとや画像の特徴としてとらえるのではなく、顔を意味のある一つの全体像としてとらえることができると分かりました。顔を逆さまにすると顔や表情を見分けにくくなる現象は「倒立顔効果」によるもので、サッチャー錯視がよく知られています。これは、顔を認識する機能は物体を認識する機能とは別にあることが一因で、犬にも人間と同様の顔認識機能がある可能性が示されました。
犬は顔以外でも飼い主を認識している
においで飼い主を認識する?
犬が飼い主を認識する時は、顔によっても認識している可能性があると分かりましたが、実は犬は視力があまりよくないのです。人間と同じ視力検査をしたとすると、視力が0.3程しかないといわれています。ですので、犬は飼い主の顔を他の人の顔と区別はしていても、見え方は人間とは異なっているかもしれません。輪郭や顔の細かな部位はぼやけているかもしれません。しかし、犬は視力だけではなく、他の様々な方法を用いて飼い主を認識しているとも考えられています。
その1つとなるのが『におい』です。犬はとても嗅覚が優れているので、においを嗅ぐことで、その対象となるものの情報を詳しく知ることができます。もちろん、大好きな飼い主のにおいには凄く敏感で、かすかなにおいでも飼い主かどうかを確かめることができるのではないでしょうか。
やはりマスクをすると飼い主が分からない?
しかし、面白いことに飼い主の顔をマスクなどで隠しながら、犬に飼い主のにおいを嗅がせると「ん?たしかに飼い主のにおいがするんだけどなぁ。顔は飼い主じゃないから別人?」と、曖昧な態度をとることが多かったりします。
このような実験は割とテレビで見かけることもあるので、見たことのある飼い主はたくさんいるのではないでしょうか?おそらく、犬は「においは飼い主なんだけどなぁ。でもこの怪しいマスクは何?」などと戸惑っているのでしょう。
マスクをしたくらいでは何の迷いもなく飼い主だと判断する犬もいますし、顔の一部を隠すだけのマスクではなくコスチュームなどで全身を隠した飼い主を最初は警戒していても、そのうち飼い主だと認識することができる場合もあります。そのような場合にも、においも判断材料の一つとなっていると考えられます。
声や音で飼い主かどうか見分ける
また、犬は耳もとても良い上にささいな違いにも気付けるので、声や足跡を聞くだけで飼い主だと認識できるそうで、と考えられています。実際に、犬は声だけで飼い主を認識できることが示されたという実験結果もあります。
また、科学的な実験結果ではなくても、犬が遠くから聞こえる飼い主の微かな足音や、いつも移動手段として使っている飼い主の車やバイクの音を聞いて「飼い主が帰ってきたー!」と気づき、玄関やドアの前で尻尾を振りながら待機しているのを経験したことのある飼い主さんは多いのではないでしょうか。
犬って本当に飼い主が大好きな生き物なんだと、感じずにはいられませんよね。
Gábor, A., Kaszás, N., Miklósi, Á., Faragó, T., & Andics, A. (2019). Interspecific voice discrimination in dogs. Biologia futura, 70(2), 121–127.
https://doi.org/10.1556/019.70.2019.15
まとめ
犬はいつも大切にしてくれる飼い主の顔を、ちゃんと分かっています。愛犬が自分の顔やにおいをちゃんと覚えてくれているって、なんだかとても嬉しくて愛しく感じてしまいますよね。
愛犬と信頼関係が築け、しっかりとあなたのことを理解したり認識したりしてくれていると分かると、もっともっと可愛がってあげたくなりますね。
ユーザーのコメント
40代 男性 まるの叔父さん
20代 男性 匿名
30代 女性 すみれ
人間と同じ。
何だかおもしろい。