分子標的療法の1つである抗体医薬
前回の記事で書きましたように、分子標的療法とはある特定の分子を標的とした治療法です。その分子を狙い撃ちする方法の1つが低分子化合物とよばれる薬であることを前回お話しましたが、今回紹介する抗体医薬も分子標的療法の1つです。
ただし低分子化合物とは異なり、その分子の大きさが大きく、一般的には生物学的製剤というカテゴリーに分類されます。よく新聞やメディアでは、この低分子化合物のような薬も、抗体医薬も、すべて同じように抗がん剤という風に書かれたりしますが、これらは明確に異なるカテゴリーの薬であり、一緒のグループとして考えるべきではありません。
なぜなら前回にも書きましたとおり、分子標的療法は分子を狙い撃ちするのが目的ですので、作用機序も異なりますし、一般的には抗がん剤と比較して副作用などが少ないからです。
抗体医薬はどの程度成功しているのか
医療では抗体医薬が使われるようになってすでに20年が経過しようとしています。その間にそれによって多くの命が救われるようになったり、多くの人において以前の薬では得られなかったような生活の質の向上が得られるようになりました。
抗体医薬は、がんの治療の分野だけではなく、自己免疫疾患をはじめ多くの病気に使われています。ここではがんの治療に限って抗体医薬についてもう少しお話しします。
がんの治療で古くから使われている抗体医薬は、乳がんの治療に使われているハーセプチン®と、悪性リンパ腫の治療に使われているリツキサン®です。これらを患者さんに投与することで直接がん細胞を攻撃できるため、他の抗がん剤などをも併用できますし、既存の治療とも組み合わせて使われてきました。
一方、最近になって開発された新しいカテゴリーの抗体医薬として免疫チェックポイント分子とよばれる分子群に対する抗体医薬があります。オプジーボ®とかキイトルーダ®という商品が日本では発売されていますが、これらはがん細胞を直接攻撃する抗体医薬ではなく、患者さんの免疫力をあげるために投与される抗体医薬です。
したがって免疫療法の1つとしても考えられています。これらの抗体医薬は、その作用が非常に強力であり、これまでの既存の治療法とは一線を画す方法であるため、既存の治療で治らないような患者さんにおいても効果がみられるなど、効く患者さんにおいてはその有効性がとても高い抗体医薬です。
このように抗体医薬はとても有効性の高い治療薬となっているわけですが、その一つの問題点は、生物学的製剤というカテゴリーに属するように、それらは蛋白分子であるため製造コストが他の薬よりも高く、その分薬価が高いことにあります。先のオプジーボ®とかキイトルーダ®もその費用の高さでも話題になりました。
犬での抗体医薬
残念ながら犬では抗体医薬はまだ普及しておりません。というより、犬の抗体医薬で販売されているのは、犬のアトピー性皮膚炎の治療薬として販売されているサイトポイント®とよばれる薬のみです(日本未発売)。
しかし我々の研究室も含め多くの製薬企業などが、犬のがんの治療に使うことができる抗体医薬開発するために日々努力し、それを一刻も早く犬のがんの治療に使うことができるようにすることを目指しています。
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実施期間
- 2018年4月18日(木)〜2018年6月28日(木)
目標金額
- 200万円 (内訳)研究費の一部