犬のMRI検査の費用
犬がMRI検査を受けることになった時、健康状態など、とても心配な上に、医療費の心配も重なります。犬のMRI検査はすべての動物病院に備わっている設備ではないため、多くの場合、犬のホームドクターからの紹介で、設備の整った病院での検査になります。初めての病院、初対面の獣医師は、犬の体調への不安や費用面の不安と、飼い主さんの精神的な負担が大きくならないよう、おおよその医療費が把握できると安心です。
MRI検査費用
まず犬のMRI検査を受けるためには、事前検査が必要になります。MRI検査には犬の「全身麻酔」が必要になるため、血液検査で体が麻酔の影響を受けて、犬が不調にならないかをチェックします。また、疑われる病気や、その原因によって検査項目が追加されることもあります。
MRI検査に伴う検査項目と検査費用
- 初診料(紹介):1,500~2,000円(大きさ問わず)
- 再診料:1,500~2,000円(大きさ問わず)
- 画像診断料:4,500~8,000円
- MRI検査:35,000~120,000円
- MRI造影検査:10,000~15,000円(MRI検査代に+)
- 静脈留置:1,500~3,000円
- 全身麻酔
- 小型犬:10,000円
- 中型犬:15,000円
- 大型犬:30,000円
- 投与薬剤
- 小型犬:4,000円
- 中型犬:7,000円
- 大型犬:15,000円
※地域差がありますので金額は参考値をご紹介しています。
MRI検査は、疑わしい病気の特定や否定、適切な治療のために犬の体内の状態を詳細に把握するために行われます。そのため、MRI検査の前にも様々な検査を行います。
MRI検査が必要な時に行われることが多い検査項目
傷病によって検査項目は異なります。
- エコー検査
- レントゲン検査
- 心電図
- 生化学検査
- 血液化学検査
- 神経学的検査
- 電解質検査
- 血球数検査
- 生検検査 など
犬のホームドクターのもとで病気の特定のために、まずはレントゲン検査や血液検査などが行われます。実際にMRI検査を含む費用合計の平均は、
- 小型犬:70,000~100,000円
- 中型犬:90,000~150,000円
- 大型犬:150,000~200,000円
※地域差がありますので、金額は参考値をご紹介しています。
治療に入るまでの検査で、高額医療費がかかります。MRI検査の結果をもとにその後の治療内容や方針を獣医師と相談し、手術や高度先進治療を選択した場合には、さらに医療費負担は大きくなります。
MRI検査は飼い主さんの希望が無ければ行われない
犬のホームドクターのもと、疑いのある病気を特定のため、まずはレントゲン検査や血液検査、生検検査などが行われます。それらの結果をみて、確実な病名の特定に至らない場合、または特定した病気を治療するために、MRI検査を受けるかどうかの選択ができます。
MRI検査を勧められる場合は、「一般的な検査では原因が特定できない場合」や「動可能性までは確認できているが確定が必要な場合」「手術のためにMRI検査が必要な場合などです。
犬のMRI検査は高額で、全ての飼い主さんが選択できる検査ではないのが現実です。迅速、的確、効率的に治療を行うために犬の原因を特定することはとても重要なことです。
ですが「積極的に犬のMRI検査を受けましょう。」という提案ではなく、「犬のMRI検査をすれば、その後の治療に役立ちますがどうしたいですか?」と問われます。血液検査の結果や犬の年齢、考えられる病気の状態によってはMRI検査が受けられないこともあります。
MRI検査を受ける価値
- 完治が望める可能性が高いと思われる、病気への積極的な治療のため
- 病巣や状態の把握のために最も有効である場合
- リスクを負っても治療のために受けた方が良いと判断できる
- MRI検査リスクに耐えられる体の状態である
- 十分な説明を受け、飼い主さんがMRI検査を望み依頼する
- MRI検査を含む高額医療費の負担ができる
このように、MRI検査を受ける価値が大きいことと、検査を受けられる環境が整わなければ受けることができません。
ですからどうしてもMRI検査を、犬が受けなければならない、というわけではありません。犬のホームドクターからMRI検査について提案を受けた飼い主さんのうち、実際にMRI検査を受ける飼い主さんは少数です。
犬のMRI検査のリスク
犬の治療のためにMRI検査を受ける時、リスクについても獣医師から詳細な説明があります。疑問や不安は残したままにせず、納得できるまでしっかりと説明を受けましょう。
そのためには、どのようなリスクがあるのか?あらかじめ予備知識があると獣医師からの説明も理解しやすくなりますので参考にしてみてください。
- 全身麻酔は犬に負担がかかる
- 望まない結果や選択の幅が限定される結果
- 無麻酔で行う犬のMRI検査の場合
麻酔による内臓への負担がある
犬のMRI検査では、全身麻酔は「必要」です。MRI検査は犬が同じ体制で、30分から1時間ほど機械の中に体を通して検査を行います。そのため、ずっと同じ体制で長時間いなければいけません。
また、MRI検査中は一定のリズムで大きな音が続きます。犬の意識がある状態で、大きな音が響く中狭い空間で同じ姿勢をとらせることはほぼ不可能です。パニックになって正しい検査ができなくなります。そのため基本的に犬には全身麻酔下で検査をするのが、安全面、精神的負担の軽減を考えても最善です。
ですが犬が健康な体であっても、MRI検査の全身麻酔はリスクが高いと言われる理由は、「犬の体が麻酔薬を分解排除できるかどうか?」に大きくかかわってきます。肝臓、腎臓の機能が低下している状態で全身麻酔をかけてしまうと、犬の臓器が麻酔薬を、分解、排泄することができません。
肝臓腎臓は、体へ有害となる成分を、分解、ろ過、排泄してくれるとても重要な臓器です。これらが正常に機能できなければ、体内に麻酔成分が残ってしまい覚めが悪くなり回復にも時間がかかります。
そして、麻酔薬が体内にとどまってしまうと、臓器への負担だけでなく心肺機能、呼吸機能への影響も大きく、術後目を覚ますことなく亡くなってしまったという例もあります。また、術後麻酔の影響による急性肝炎を引き起こすこともあります。そのため、麻酔前の血液検査は必要です。
望まない結果や選択の幅が限定される結果
MRI検査をふくむ精密検査は、犬の治療を始めるスタートラインに立つための準備です。精密検査で犬の体の状態を正しく把握し、その後、有効な治療をするために必要な検査です。
ですがMRI検査の結果、残された治療方法や快復の可能性も特定され、厳しい現実を目の当たりにすることにもなります。病気の正確な宣告を受け、その後の治療にふみ切れるか、犬の体力的な問題や、経済的な理由で、治療を諦めるという選択をしなくてはならないことも、少ない例ではありません。
犬のMRI検査を受ける前に、ホームドクターのもとで出された診断と同じ診断結果だった、ということもあり、「犬に負担をかけて検査する必要があったのだろうか?」と後悔されるかたも少なくありません。しかし、これもMRI検査を受けなくてはわからなかったことにありますので、実際に検査を受ける前にメリットもデメリットもよく考えたうえで検査を受ける必要があると言えます。
- MRIを受ける犬の体の負担と精神的負担
- MRI検査の費用の負担と効果
- MRI検査後の治療への望みや可能性
これらの全てを総合的に判断し、犬にMRI検査をするのかを獣医師と十分に納得がいくまで話す必要があります。
※MRI検査自体には痛みはありません。
無麻酔で行う犬のMRI検査の場合
近年犬の脳の動きや反応、感情の変化などの研究が進んでいます。麻酔で眠らせた状態ではなく、意識がある状態で脳のMRI検査がすすめられ、犬に関する様々なことが解明されつつあります。
ですが先ほどご紹介したように、MRI検査で犬は、長時間同じ姿勢で動かずに検査を受けることは変わりません。ではどのように無麻酔下でMRI検査を行うのでしょうか?
MRI検査へ向けたトレーニング
MRI検査と同じ環境で、同じ体制で犬に、「待て」ができるトレーニングを重ねていきます。伏せた状態で頭を同じ位置に置かせて、体を動かさない練習をします。犬がリラックスした精神状態で検査を受けるために、何度も練習を重ねて環境に慣らせる必要があります。
MRI検査の音の遮断
ドッグショーなどに出場する犬が、トリミングテーブルの上で微動だにせず立ったまま同じ姿勢をキープしているのを見たことがあるでしょうか?日頃の練習や、継続される習慣に、犬は高い適応力があるので指示が無ければ動かずに耐えることができます。
ですが、大きな音は慣れている犬にとっても不快になります。MRI検査中、不快感を与えずリラックスした状態で脳の動きを観察するために、犬用のヘッドホンを装着し不快な音を遮断します。
犬の医療行為と研究のためのMRI検査では目的が異なりますが、MRI検査機器も短時間で解析度が高い機器がどんどん導入されています。無麻酔で行える犬のMRI検査も、これからさらに進歩していけば、リスクを伴わずに、より精密な検査ができるようになるかもしれません。
診断のためのMRI検査はCT検査よりも時間がかかりますので、長時間全く動かないことができない限りは実現が難しいと思います。CTはX線撮影なので、比較的短時間で撮影可能ですのでCTの場合は無麻酔の状態でも訓練された犬の場合は撮影可能かもしれません。
また麻酔のリスクが無くなれば、犬の健康診断により、精密な検査を導入できる可能性も広がります。これから、さらに動物への負担が排除された検査や治療が進んでほしいものですね。
犬のMRI検査の結果からわかること
犬のMRI検査はどのような時に行われるのか、MRI検査が有効な傷病についてご紹介します。MRI検査とは超強力な磁場と電波の力で体内の構造を読み取り画像化する検査です。放射線を使用しないため、被ばくの心配もありません。痛みもなく、体への影響が少ない優れた検査といえます。
MRI検査では、骨に囲まれている臓器の内部までも描出に優れています。細かい臓器の曲線までも正確に描出できるので、犬の脳や骨髄の疾患の特定診断には、とても有効な検査です。
MRI検査はどんな病気に有益か
- 脳腫瘍
- 脳梗塞
- 血管内異常
- てんかん
- 髄膜炎
- 骨髄梗塞
- 眼球腫瘍
- 子宮体癌や卵巣腫瘍
- 腰椎ヘルニア
- 骨髄奇形
- 骨肉腫
- 内臓の腫瘍性疾患
- 尿管、膀胱異常
- 神経疾患(外傷、奇形、変性含む) など
MRI検査のほかに、CT、超音波、レントゲンなど、体内の状態を画像や映像で映し出す検査はたくさんあります。犬のMRI検査は、体を輪切りにしたように描出されるのが特徴なので、犬の脳内や骨に囲まれた分かりづらい位置にある病巣の大きさや正確な場所の特定にはとても有効な検査です。
犬のMRI検査は保険対象になるか
多くの動物専用医療保険が販売されていますが、犬のMRI検査は保険対象になることが多いようです。犬のMRI検査の条件としては、以下の3つです。
- 犬の病気の治療にかんする検査であること
- 犬の通院による検査も支払対象になっていること
- 犬の先天性の病気による治療が支払い対象外になっていないこと
保険加入の時に先天性の疾患があり、告知して保険に加入している場合は、「加入前に発症していた病気」、または「先天性疾患による治療」は支払の対象外という契約特記事項がないか、確認しましょう。
また、加入時には判明していなかった先天性疾患に対しても、「発症前に先天性の病気であると診断された」場合には、支払の対象とならない保険もあります。
MRI検査を含む、犬の病気の疑いや治療に関する検査は、多くの保険で支払の対象になります。ですが犬の「入院のみ」、「怪我のみ」と支払対象を限定している保険契約だと、支払い対象からもれる可能性があります。
また、健康診断による検査には保険の支払は行われません。ワクチン接種や予防医療に保険を使えないように、健康診断で精密検査をしても保険の対象とはならないのです。
先にご紹介したように、犬のMRI検査にはリスクも伴うので、定期健診でMRI検査を受ける飼い主さんは極まれだと思います。もし、定期健診でMRI検査を受けた時、万が一、犬に病気の発見などがあれば、保険支払の対象になる場合もありますが、基本的に「ドッグドック(人間ドックと同じ)」は保険支払対象外です。
まとめ
犬のMRI検査は体への負担も少なく、体内を正確に描出できる優れた検査といえます。ですが、やはり「全身麻酔を必要とする」ため、MRI検査自体には内臓ダメージリスクはありませんが、いざ、検査を受けるとなると、慎重な判断、選択が求められます。
犬の全快復させてあげられる病気だと分かっていれば、検査や手術を受けるリスクよりも快復への望みを選ぶと思います。ですが、何事にも「絶対はない」ので、犬が病気になってしまった時には大きな不安に押しつぶされそうになります。
犬のMRI検査を受けるべきか、他の選択をするべきか、悩まれる飼い主さんに少しでもお役に立てれば幸いです。
また、リスクが高いMRI検査や治療になればなるほど獣医師とのコミュニケーションが重要です。インターネットの情報による知識と、かかりつけの獣医師の意見が異なることもあります。インターネットの情報の中には不正確なものもありますので、まずはかかりつけの獣医師にしっかり診断してもらいましょう。迷った時にはセカンドオピニオンで、違う獣医師の意見もきいてみるのもよいかもしれません。