「百姓貴族」とは?
この「百姓貴族」は、それぞれアニメ化、映画化、それに実写映画化もされた「鋼の錬金術師」「銀の匙」の作者、荒川弘先生のギャグエッセイ漫画です。荒川先生は、地元の農業高校を卒業し、漫画家としてデビューする前の数年間、実家の「荒川牧場」で畜産と農業に従事していました。
その時のエピソードや、現在、北海道の畜産、農業が抱えるさまざまな問題や、内地(北海道からすると、本土のことをそう呼ぶそうです)との違い、畜産農家の日常(一般の家庭に取ったら、非日常なこと)などを笑えるエピソードとして、確かな画力で描き、ほのぼのと読める漫画です。
この漫画の見どころ
続きもののストーリー漫画ではないので、1つ1つのエピソードが、農家ではない一般消費者の人には、本当に驚くことばかりで、見どころを1つに絞ることはできません。
強いて言えば、北海道で畜産と農業を営むということが、どれほど大変なことか、そして、その仕事についている人たちの大らかさや、たくましさを描いたエピソードが強烈です。中でも、農作業を手伝っていて、指がもげそうな大けがを、ヨモギ粉と備長炭の粉末で直したエピソードは豪快で強烈でした。
もう1つ、学校の社会でも教えてくれない「乳牛の繁殖の仕方」も、非常に具体的に描かれています。とはいえ、荒川先生の高い画力と、ちょうどよい脱力感で、強烈なエピソードではありながら、卑猥な印象は全く受けません。
そして、犬好きとしての見どころは、「農家の心強いパートナー」として、ただの家庭犬ではない犬達の姿が随所に描かれているところです。名前がはっきりと明記されているのは真っ黒な雑種「でんすけ君」だけですが、でんすけ君以外にも数匹の犬が登場します。
荒川家の家訓は、「働かざる者食うべからず」これは、犬でも猫でも、人間でも小学生の子どもですら、同じこと。犬の仕事は、人間の野菜泥棒だけでなく、熊やキツネから作物や牛を守ること、牛舎に住むネズミを退治することが主な仕事です。
ネズミを捕ったのに、褒めて貰えないと、褒めてくれるまでネズミを飼い主さんの前にずらっと並べる犬の話や、野菜泥棒を追い払ってくれるけれど、野菜畑を踏み荒らして野菜を傷だらけにしてしまう話、雪の日に外で寝てしまい、地面に凍りついて動けなくなった話など、一生懸命生きて、働いているのにどこかドジで憎めない犬達のエピソードにも、ほっこりします。
心に残ったシーンや台詞
心に残ったシーン
牛乳は、当たり前ですが、「牛の乳」です。生きた牛から出る、ということは、その牛は出産して、子牛を産んだ、ということです。母牛の健康を管理し、無事に子牛を産ませて初めて牛乳が出る…そこにたどり着くまで、畜産農家の人達は、餌や牛たちの生活環境に心砕いて、多大な労力をかけています。
けれども、牛乳の消費量が減ったということで、農協から「牛乳が余っているので、捨てろ」という調整に従わなければならなくなります。荒川牧場ではこの時、30トンの牛乳を捨て、4頭の乳牛を処分したのだそうです。
私たちの安定した食生活が成り立っているのは、こう言った農家さん達がいてくれるからだという事を改めて強く感じました。牛乳にしろ野菜にしろ、絶対に腐らせてはいけない、もしも、腐らせて捨ててしまわなくなった時は、生産してくれた農家さん達に本当に申し訳ないと思わなければならないと思いました。
心に残った台詞
「十勝だけなら、食料自給率1000%越えですよ?」
もし、北海道が日本から独立したら…という妄想話から出て来た台詞です。北海道の畜産、農家、漁業がどれだけ日本の食生活を支えているかを考えさせられた驚愕の台詞でした。
作者、掲載雑誌、連載時期 などの情報
百姓貴族 (1) (ウィングス・コミックス)
- 作者 荒川 弘(代表作 鋼の錬金術師、銀の匙)
- 掲載雑誌 「ウンポコ(休刊)「月刊ウイングス」
- 掲載時期 2006年~
まとめ
実際に畜産に従事していた経験と、人気漫画家の荒川先生の画力で、ゆるいギャグエッセイコミックでありながら、現在の日本の畜産農業の実情や問題が読み取れる作品です。大人はもちろん、小学高学年くらいのお子さんなら理解できると思いますので、ぜひ、親子で楽しんで頂きたい作品です。