飼い主も触れない犬
私は現役の動物看護師です。この仕事を始めて数十年。今や立派なおばさん動物看護師です。いろんな病気の動物達をみてきましたが、忘れられない家族がいます。
私が勤めた動物病院で凶暴すぎて診察室にも入れない犬がいました。何とか診察室に連れていっても、咬んで暴れて手がつけられないので、咬まないようにする口輪やエリザベスカラーをつけるのも命がけでした。
私達看護師をはじめ、先生も咬まれて傷だらけにされてしまうこともあり、そんな状態を優しい飼い主さんはオロオロして見ているだけ。お手伝いをお願いしても、犬が怒れば手を離してしまうので、結局私達が咬まれることもしばしば。
とても優しい家族でしたが、犬には優しすぎました。犬は飼い主の様子を見て自分の地位を決めます。その子は自分の地位は1番と決めてしまい、家族を完全に下にみていました。
お腹に大きな腫瘍
ある時、その飼い主さんから「寝ている時にみたらお腹に何か出来ている。」と診察に来られました。
咬まれないよう必死でエリザベスカラーをつけて診察すると、やはりお腹に大きな腫瘍が出来ていました。化膿しており、膿も出ていました。
診察の結果、悪性の腫瘍の疑いが高まり、その子の性格も考えそのまま預かりその日のうちに手術をすることになりました。
手術は無事成功しましたが、腫瘍はかなり大きくなっており摘出するのは大変でした。
次の日、面会に来た飼い主さんに聞かれました。「おとなしい子であればもっと早く気がついて、こんな痛い思いをさせることはなかったんですよね…。」私は何も答えませんでした。確かにその通りです。そう答えたかったけど、そんなことは言えません。ただ痛みでぐったりしている犬をみて何か考えている様子でした。
別人ならぬ別犬?
手術から半年経った頃、診察にこられました。その時、私達は目を疑いました。
あんなに診察室に入るのに時間がかかったのに、今はすんなり診察室に入って行きます。それも飼い主さんのしっかりとしたリードで。
以前は触ることも出来なかったのに抱っこして診察台にあげ、しっかりおさえてくれます。犬の方も唸ることはありましたが、別犬のように大人しく飼い主さんに身をゆだね、予防注射もスムーズに打てました。
受付で「わんちゃん今日はすごく頑張ってくれましたね。」と言うと「ありがとうございます!家族で相談し、この子の扱い方を考え、いろいろ勉強をしました!」と嬉しそうに答えてくれました。帰っていく家族の後ろ姿は何だか誇らしげて頼もしく感じました。
まとめ
よく病院で「この子バカだから~。」と言う飼い主さんがいます。犬はバカではありません。確かに覚えの悪い子や凶暴な子もいますが、それは扱い方やその子に合ったしつけができてないだけです。
犬は飼い主さんをみます。飼い主さんが変われば犬も変わります。どんなに凶暴な子でも、飼い主さんの気持ちが変われば犬も変わります。私が出会った家族がそうでした。
少し時間はかかりましたが、やっと本当の家族になれました。その後も何度か診察にこられましたが、日に日に大人しくなり、今はもうエリザベスカラーも口輪も必要ありません。
その瞬間に立ち会えたことを今でもよく思い出します。
この仕事をしていてつらいことも多いですが、今でも思い出す嬉しかった出来事です。
ユーザーのコメント
女性 匿名
先代のシーズーも吠えるし噛み犬で、中学生だった当時は噛まれ痛い思いをしました。
先代シーズーが1歳くらいの時に酷く噛まれ、痛みを分からせるために背中に噛み付いやりました。
よほど驚いたのか、小一時間ほど遠目から私に近づかず、翌日には噛みグセもなく穏やかな子へと変わりました。
今もシーズーふぁ好きで飼っていますが我が子より優位にならないように気をつけて生活しています。