犬の終活とは
犬の終活を考える場合、飼い主が高齢になり犬の世話が難しくなった場合の準備と、犬が高齢になった場合の準備とで大きくわけて2種類の活動内容があると考えます。
犬の終活は飼い主が先に旅立った場合のことを考えると同時に、犬との別れを考えることになります。
今から考えておきたいこと
「終活」というと、高齢犬を飼っている方に向けたお話と思われるかもしれませんね。
しかし、私は犬の終活は犬を飼い始めたばかりの時から行ったほうがいいと考えています。
特に最近は、シニア世代でもまだまだ元気で、ペットを飼われている方もたくさんいます。
高齢の方がペットと暮らすことは、生活に張り合いができて、健康にもいいとのことです。
しかし、どうしても若い方よりは体調不良になりやすく、急に犬の面倒がみれなくなってしまうということも起こります。
もちろん、これは高齢者だけに限ったことではありません。
若い方でも予期せぬ事故で入院されて、犬の面倒が見れなくなってしまうということは起こり得るのです。
若い方の場合は、体調面以外でも、結婚などのライフスタイルの変化により、自分では犬の世話ができなくなってしまう、ということもあります。
そのような場合に犬をどこに預けるのか、一時的なのか、終生面倒をみてももらうのか、などといったことも考えておきたいことです。
また、犬が病気で動物病院にかかる場合、手術や入院となると思った以上の費用がかかることがあります。
そういう場合に備えて、ペット保険を見直すことや、犬のために貯蓄をしておくことは重要です。
早めに準備しておけば、いざというときに慌てないで済みます。
犬を自分で面倒がみれなくなった場合、どこに引き取ってもらうか
私は犬の終活でこのことが一番大事だと思っています。
特に飼い主が一人暮らしの高齢者で、犬も高齢な場合は早急に考えておいてほしいところです。
「親が犬を飼っているんだけど、もう高齢で世話もできない。
私も引き取ることができないのだけどどうしたらいいか」
こういった相談を私はいままで何度も受けてきました。
やはり、前もって犬の引き取り先を決めておくことはとても大事なことだと思います。
ご自分がまだ元気で、余裕のあるうちから考えておかれたほうがいいでしょう。
家族など身内に確認しておく
自分以外のだれかに犬を飼ってもらう場合、まずは身内から考える方が多いようです。
お子さんや親戚の方で、自分が犬の面倒をみれなくなったときに、代わりに飼ってもらえるよう頼んでおくというのは一番多いケースではないでしょうか?
その場合、あらかじめ時々は犬に会って遊んでもらい、犬に慣れておいてもらうと、あとあと飼育が楽になります。
また、犬を飼うのにはお金もかかります。
犬を飼ってあげてもいいけど、あまりお金はかけられないといった方も多くいらっしゃいます。
身内であってもお金の問題はシビアなので、費用をどうするかはあらかじめしっかり話し合っておきたいところです。
特に高齢犬の場合、心臓病などのお薬を毎日飲んでいる子もいます。
犬を飼うことになった方の中には、薬の費用が負担に感じられる方も多いのです。
そういう場合も考えて、犬の余生にかかる費用は、飼い主があらかじめ準備しておく必要があるかもしれません。
老犬ホームなどの民間の施設を探しておく
家族のだれかが犬を引き取ってくれれば一番いいのですが、それができない場合もありますね。
ここで一つ、私が経験したことをお話します。
高齢の小型犬を飼育していた一人暮らしの女性の例です。
その方には息子さんがいて、もしお母さんになにかあれば自分が犬を引き取ると言っていました。
それで、お母さんも安心して犬と暮らしていたのですが、ある日、脳梗塞で倒れてしまい入院することになったのです。
もう、犬の世話は難しいといった状態でした。
犬は息子さんがすぐに引き取って世話をしてくれました。
ところが、数日して私のところに相談にこられたのです。
その息子さんは犬が大好きだったので、飼うのも全く抵抗はなかったのですが、配偶者の奥様がどうしても犬が苦手で飼えないということだったのです。
このように、お子さんに飼ってもらう約束をしていても、お子さんのライフスタイルの変化のため、約束が果たせなくなってしまうこともあります。
そういう場合も考えて、家族以外の民間の施設で、犬を世話してもらえるところを探しておいたほうがいいと思うのです。
実際先ほどの息子さんも、老犬ホームをみつけてそこで犬を預かってもらうことにしました。
ただ、すぐに見つかったわけではないので、それまでは少し苦労したようです。
このことからも、犬を終生面倒みてくれる施設をあらかじめ探しておくことは、自分になにかあった場合に、残された家族や犬のために重要だと思います。
犬をしつけておく
犬が飼えなくなってしまった知人から、犬を引き取り飼育を始めた方がいました。
しかし、10日ほどすると、この犬は飼うのが難しいと言って相談にこられたのです。
前の飼い主はトイレのしつけもしていなかったので、どこでも排尿をしてしまい、人を噛んでくるし、ケージに入れると吠え続けるとのことでした。
犬好きの方でも、これでは飼育が難しいと感じてしまうのも無理はありません。
やはり、しつけは大事です。
日頃からケージに慣れさせておくこと、人に対して極端に警戒心を抱かせないようにしておくことなどは、誰かに犬を預かってもらうことを考えると重要ではないでしょうか。
また、しつけられた犬は環境の変化にスムーズに対応しやすくなり、犬のストレス軽減にもつながります。
犬がまだ元気なうちから、自分以外の誰かに飼ってもらっても大丈夫なように、しつけを意識してみてください。
どこまで延命治療を望むのか話し合っておく
今現在高齢犬を飼っている飼い主さんには、犬が重い病気にかかってしまった場合に、どこまで治療を施すかをあらかじめ考えておくことをおすすめします。
完治が難しくいわゆる延命治療となった場合に、どこまで治療を望まれるかは飼い主さんによって違ってきます。
延命治療は犬が自分の口から食事を摂れるまでにしたい、といった方や、とにかく最後まで点滴をして延命させたいといった方まで、飼い主によって考えもさまざまです。
獣医師は飼い主の意向をききながら対処していくことになります。
飼い主さんが一人暮らしの方なら、その方の考えですすめていけばいいのですが、ほかにも家族がいる場合には意見が分かれることもあります。
入院はかわいそうという人や、ここは思い切って手術して入院させようと、大きく意見が分かれてしまうこともあります。
高齢犬は数日のうちに具合が悪くなることも少なくありません。
どこまで治療するのか、家族間で話しあっておくことは大切です。
まずは、自宅で看取りたいのかどうかだけでも決めておいたほうがいいと思います。
なぜなら、高齢犬を動物病院で入院させる場合には、自宅で看取れなくなってしまう可能性が常にあるからです。
病院で預かっている最中に容体が急変して亡くなってしまう可能性はゼロではありません。
犬の性格を考えて、病院に預けるのはかわいそうだからやめよう、と決める方もいます。
また、ご自身の性格上、最後までやってやらないと悔いが残るので、入院させてでも点滴延命を望まれる方もいます。
どういう方向でいくのか、家族間で話し合っておくと、急な病気で動物病院に行ったときにも、獣医師からの提案に判断しやすくなるかもしれません。
このことは、犬が亡くなった場合に飼い主が受ける心のダメージに影響すると思うので、しっかりと考えておいてもらいたいところです。
エンディングノートの作成
人では終活の一環として、「エンディングノート」を作成する人が増えています。
残された家族が困らないように、自分が所有している財産についての情報を書いたり、家族への感謝の想いを書いたりと内容は人それぞれのようです。
ここでは、「犬のためのエンディングノート」を作成する場合、どんなことを書いたらいいかを例としてあげておきます。
犬の情報を書く
- 犬の名前
- 性別(去勢、避妊手術済みかどうか)
- 生年月日
- 治療歴や予防歴(ワクチン、フィラリアなど)
- 現在治療している病気や薬について、薬のアレルギーがあれば書いておく
- かかりつけの動物病院の情報、担当の獣医師名
- 食事について。好きな食べ物(ドッグフード、おやつの名前)、与える回数、時間
- 排尿、排便はどこでするか(屋外、犬用トイレ)
- 散歩の時間、回数
- 犬が好きなこと(どこを触られるのが好きなのか)
- 犬が嫌いなこと(触られると嫌な場所、人、大きな音など)
犬が延命治療となった場合、どうしたいか?
- 費用はいくらくらいかけられそうか
- どこまでやるか
- 犬が写っている写真も1~2枚あるといい。
- 犬を世話してくれる人の情報
- 犬が亡くなったことを知らせる人
- 犬を預かってくれる施設(老犬ホーム)の情報
- 犬の余生にかかる費用をだれに預けるか
- 犬の葬儀(合同か個別かなど)や供養法について
- 犬といっしょにやりたいこと、行きたい場所
- 犬を飼ってから今日までの思い出など
思いっきりかわいがっておく
犬を飼育してしている人に、犬を飼って大変だなと思うことを聞いたアンケートがあります。
常に上位に入っている回答が、「旅行に行きづらい」というものでした。
確かに、犬を飼うと家族揃って泊まりで出かけづらいですね。
最近はペットホテルに犬を預けて旅行も頻繁に行っている方もいます。
しかし、私は犬を飼ったからには犬との時間をなるべく多くとって欲しいと思っています。
犬は猫と違いそれを望んでいるようにも感じるからです。
時間=命ですね。
飼い主さんの時間を可能な限り犬と共有することは、犬をたくさんかわいがったことになると思うのです。
特別なことは何もする必要はなく、ただ犬と一緒にいればいいのではないでしょうか?
このことは犬にも飼い主にも満足感をもたらし、犬が亡くなったあとの悔いを減らせると思います。
まとめ
犬は人と比べて寿命が短いですね。
病気が見つかると、その進行も人より早い場合がほとんどです。
また、飼い主に急な不幸が起こることもあります。
その場合は短い期間にいろいろ決めなくてはならなくなることも多いのです。
このような明るくない話を避けたいという気持ちはわかりますが、必ずやってくることなので、今のうちから向き合っておくことです。
もっと早くから準備しておけばよかった、という声をよくききます。
犬の終活は飼い主さんの終活です。
犬のため、ではありますが、そのためにお金を貯蓄しておくことや、犬を世話してくれる人、施設をみつけておくことは、飼い主さんの安心にもつながるのではないでしょうか。
犬が亡くなったあとに、重いペットロスになられる方がいます。
どんなにかわいがってあげた人でも、犬がなくなると多少の悔いが残るようです。
それでも、犬との別れに際し、十分に準備した人はその悔いが緩和されるように思います。
犬やご自身がまだ元気なうちにしっかり考え、準備しておくといいと思い今回お話させていただきました。