犬が「お利口」に育つには?
犬を迎える多くの方が自身のライフスタイルに合う犬種探しやブリーダーの評判チェックなど、事前にリサーチされているそうです。
つまり【その犬が問題なく育ってくれるかどうか】は遺伝的な要素が関係しているとご存知の方が多いということ。
たしかに、遺伝的な要素は犬の成長において重要です。しかし、それだけで判断するのは多くの犬をトレーニングしてきた私でも難しいことだと感じています。
といいますのも、犬には約700~800種類と沢山の犬種が存在します。その上、性格などの個体差によっては、例え遺伝的な傾向が似ていても大きく違ってくる場合もあります。中には『この子は本当に○○犬なの?』といい意味でも悪い意味でも疑いたくなる子がいるのです。
ここで皆様に知っていただきたいのは、一緒に暮していく犬が将来健康に、そしてお利口に育つかどうかは遺伝的に見極められる点もありますが、生まれ持ったものだけで全てが決まる訳ではないということです。
その証拠に、世の中には飼うことが難しいと言われている犬種でも、うまく生活を送れている飼い主さんが沢山いらっしゃいます。
同じ犬種を飼っていてもうまくいく人とそうでない人がいる理由、それは遺伝的な要素が成長に影響するかどうかは〝環境などの育ち方〟によって後天的に変化させることが可能なため。
つまり、わんちゃんがお利口に育つかどうかは生まれつきの能力だけではなく、どのような育て方をするのかでも変わってくるんですね。
こう言うと多くの方が『育て方が大事なのは分かってるよ』と思われているかもしれません。しかし、意外と育て方がおざなりになってしまう例は少なくありません。
『○○犬種は賢いって聞いたのに…』『この犬種は飼いやすいよってペットショップの人に言われたんですが…』犬のしつけで困っている方のヒヤリングを行うと高確率でこの様な内容をお聞きします。
しつけが必要なことは皆様ご存知だと思います。しかし、その犬が元々持っている遺伝的な要素、能力に期待を寄せすぎて『この子なら大丈夫』と判断してしまうと『こんなはずじゃなかった…』と何かしらの問題に直面しかねません。
そこで今回は、お利口な犬に育つのは生まれつき優秀な犬だからか?それとも育て方が大きいのか?遺伝と育て方が、それぞれどの様にその子の成長に関わってくるのかを解説します。
遺伝と育て方両方の面から、お迎えするわんちゃんを選ぶことができれば将来起こる問題の予防、対策に役立ちます。
最初に遺伝とはなにか、お利口な犬とはどんな子を指すのか、話の中での前提をすり合わせていきます。その後〝犬種が持つ習性〟について触れていきます。
犬種が持つ習性や遺伝が、犬の成長にどの程度影響するか分かったところで…
あなたのライフスタイルに合う犬種の選び方と育て方についてまとめます。
最後に知っておいてもらいたいこととして、ドッグトレーナーなどのプロにしつけを頼む時の注意点。
プロにしつけをお願いしたことがある飼い主さん方から【この子の問題行動の原因は遺伝だからしつけではどうにもならないと言われた】というご相談をよく頂きます。
犬のしつけについて調べたことのある方は、上記のような情報を目にされたこともあるのではないでしょうか?はたして遺伝的な要素はしつけによって教え導くことができないものなのか?併せて解説します。
遺伝とは?
親の形質が遺伝子により、子や、それ以降の世代に伝えられること。
遺伝子は動物の身体を作る設計図のようなものです。
遺伝疾患や知能などに関係する、生まれつき表に出ていない遺伝子が表に出現するかどうかは、環境との相互作用によって決まるとされています。
そう、遺伝したからと言って、それがそのまま現れるわけではないのです。
どんな環境に囲まれているか、またそれによってそんな行動を取るかで良い遺伝子、悪い遺伝子の影響力は変わってきます。
遺伝子の影響は環境に左右されることが大きいですが、逆もまた然り。
遺伝子のエラーが大きすぎる場合、環境を変えるだけでは抑えることができません。
その為、いい繫殖を心掛けているブリーダーはその子が持つ劣性遺伝子の影響が後世に引き継がれないように繫殖を規制したり、掛け合わせるとしても、劣性遺伝子を抑え込めるような優性遺伝子とのバランスを計算します。
悲しいことに、最近増えている純血種ではそういったバランスを取ることが難しくなっています。
その理由は、特定の犬種を増やす場合、どうしても血が近い者同士(近親繫殖)の掛け合わせになるためです。
近親繫殖は優性遺伝子と劣性遺伝子のタイプも似通っているため、劣勢同士の掛け合わせが出やすくなります。
実は、人気のある鼻ぺちゃ犬種や小さすぎる個体などは、こうした劣性遺伝子の掛け合わせによって産まれました。
本来の犬の体格にかなり無理をさせた作出された犬種なのです。
さらに、人気という理由で繫殖が進んだこともあり、益々遺伝的な疾患が出やすくなっています。
身体がそういった状態ですから、繋がっている心も乱れやすく、飼うことが難しくなることも多いです。
見た目がかわいいからという理由で選んでしまうと、しつけ以前に健康で長生きすることすら難しくなる個体かもしれません。
どんな犬種をお迎えするかは皆様の自由ですが、ブリーダーの見極めと、お迎えする犬がどういった繫殖を辿ってきたかということを事前に知るようにしましょう。
お利口な犬とは?
お利口と聞くと、賢く聞き分けのいい子を思い浮かべるのではないでしょうか?
ここではお利口=知能が高いという意味でお伝えしていきます。
知能が高いとは
新しい状況に適応し、新しい問題に対処しようとすること。
過去から経験を引っ張り出し、使用できる能力のこと。
これは、その個体が適応するべき環境で発揮できる能力であることが前提です。
その為、1つの指標では測れませんし、違う環境に生きている動物同士で比較できるものでもありません。
人と犬で違う必要な知能
例えば、人が必要な知能は人とのコミュニケーションの取り方だったり、仕事で必要な能力だったり、法律を守るなど…
人間同士安全に快適に暮らせるように、他人の権利を侵害しないように理性的な制御ができることを求められます。
犬が必要な知能はほかの犬と揉めずにいること、人と暮らす犬であれば人に嚙んだり吠えたりしないことなど、人や犬の社会にうまく適応できる能力を指します。
こうして比べてみると良くわかるのですが、犬が必要な知能と人が必要な知能は違うのです。
犬の賢さを図るとき人は人の視点から犬の賢さを判断しがちです。
例えば、人が話しかけた時に相応しい表情やテンションで犬が応えると『人の言葉がわかっているみたい!頭のいい犬だ』と感じたり、泣いているときに傍に寄り添ってきた犬に『人の感情が分かるんだ、賢いな』などと思ったりします。
そういった反応は知能というよりも、性格によるところが大きいです。
冒頭でもお伝えしたように、お利口=知能を指すのであれば、経験したこと、教えられたことを違う状況でも使っていける能力のこと。
つまり、お利口な犬とは〝人らしい表現をする犬〟というよりも〝人と一緒に暮らす為に必要なことを理解し吸収する=しつけしやすい〟犬のことを指しています。
人に合わせた感情表現をする子は素直で明るい子が多い為、しつけしやすいという面ではお利口な犬に当てはまりますが知能そのものの影響が大きいわけではありません。
教えたことが中々定着しない子でも、人が求めることを理解し吸収する能力は、適切なしつけを進めていく中で伸ばせる能力です。
どんな子でもお利口ドッグになる可能性を秘めています。
長い目で見てしつけに取り組んであげてください。
犬種の性質とは?
犬種図鑑などを見ると『知能が高く従順である』『活発で利口である』といった記載をよく目にします。
これはその種に求められる作業に応じて、選択繁殖されて定着した〝性質〟とそこから生まれる〝行動傾向〟を総括して表しています。
例えば、ボーダーコリーなどの牧羊犬は動きを追う身体能力と集中力に長けており、大きい犬種では自分より大きい動物に反抗されても動じない強さを持ちます。
ドーベルマンなどの使役犬は警戒作業の役割を担えるように、鋭敏さ(警戒心が高い)を備え筋肉が発達した強靭な身体を持ちます。
お迎えする犬種を選ぶ場合はこういった犬種が持つ気質、傾向を考慮したうえで選ぶようにしましょう。
これまでお伝えしてきた通り、その子がどう成長していくかは半分ほど育て方次第ではありますが、その犬種が持つ元々の性質も含めて考えることが大切です。
例えば、マンションなのに他の犬種に比べ吠えが定着しやすい犬種(ダックスフントやトイプードルなど)を飼ってしまう。
家を空ける時間が長く、自由に過ごす時間も確保しにくい状態でのびのびと飼う環境が必要な犬種(ボルゾイなどのサイトハウンドなど)を飼ってしまうなど。
犬は元々狼から分岐した種です。
元々一つだった種が、これだけ種類として増えたのは、それぞれ何かしらの役目を担うべくタイプ分けされた結果なのです。
つまり、犬種それぞれに何かしらの特徴があります。
吠えたり嚙みついたりという行動も当たり前のことですから、完璧に人が一緒に生活しやすい子はいません。
例え自分のライフスタイルや経済面などと照らし合わせ、慎重に迎える犬を選んでもうまくいかないこともあります。
そういったときに備え、正しいしつけや飼育方法を知ること。
前もってどのプロにしつけを頼むかリサーチしておくなど、トラブルを想定して『どんな問題が起きても対応するぞ!』という覚悟を持ってからわんちゃんを迎えるようにしましょう。
自分のライフスタイルに合った犬を迎えるには?
これまで、犬がお利口に育つには、犬種選びと育て方双方が大事であること。
その犬の性質に人がどこまで合わせられるかどうか想定して犬種を選ぶ必要があるとお伝えしてきました。
ここからはお迎えするわんちゃんの選び方を具体的にお伝えしていきます。
- 自分が用意できる環境や時間、お金を見積もって考えること
病気になった時の蓄えはあるか?お散歩の時間や飼育環境はその犬種にあったものを用意できるか?など最悪の事態を想定し、対処できるように準備しておくことが重要です。
- 遺伝的に大きなエラーがないこと
よく血統書や犬種の珍しさで判断してしまう方がいらっしゃいます。
例えば、チャンピョン犬の仔犬でもその子自身が健康で遺伝的なエラーが少ない個体かどうかは分かりません。
ブリーダーの質を調べてから、信頼できる繫殖者から譲ってもらうようにして下さい。
- できればしつけしやすい個体を選ぶこと(素直で温厚な性格の個体)
その犬の性格について、正直ペットショップ店員の判断は間違っていることが多いです。
できればブリーダーから直接聞いた方が良いでしょう。
その上で適切な環境での飼育、しつけを行うことを覚えておきましょう。
その問題行動、遺伝のせいです…?
最後に知っておいてもらいたいこととして、愛犬について専門家を頼るときの注意点。
例えば、犬のしつけに困った時ドッグトレーナーなどのプロににしつけをお願いすることがあるかと思います。
それらのプロの中には【犬の問題行動の原因を遺伝のせいにして解決策を提示しない】という対応を取る人がいます。
これまで見てきた内容から分かるように、犬そのものの遺伝が悪い〝だけ〟でしつけが進められないことは非常に稀です。
にも関わらず、吠えや嚙みつきなどの問題を『犬の遺伝的なものが原因』だと主張する専門家は少なくありません。
悲しいことに、専門家の言っていることだから、内容そのまま信じてしまい『しつけではどうにもならないんだ…』とあきらめてしまう飼い主様も多いのです。
皆様は『犬の遺伝的なものが問題』と犬の生まれつきのものを原因にして、匙を投げる専門家に騙されないよう注意してください。
ちなみに、専門家の中にはドッグトレーナーや獣医も含まれます。
脳の検査などを行い、医学的に証明できていれば事実の可能性が高いですが、確認もせずに行動だけみて判断することは早計と言わざるを得ません。
確かに、遺伝的な要素が大きいと中々しつけが進めずらいという点はありますが、少しずつでも進歩が見られたら充分にトレーニング可能な子です。
愛犬を守れるのは飼い主さんしかいません。
少なくとも、何もしていない人が下した診断は例えプロであっても鵜吞みにしないようにしましょう。
犬を家にお迎えするための準備
どんな子をお迎えするか決めたら、正しく導くための準備をしましょう。
(※保護犬や成犬の場合は少し変わってくるため、ここでは仔犬を想定しています)
幼少期に情緒的な経験を通じて他の犬や人との社会化を進められるようにしておく
仔犬を生まれた場所から移すには生後3ヶ月以降が望ましいとされています。
親犬や兄弟犬と一緒に過ごす時間を充分に確保してあげることで犬との社会化が進みます。
お迎え先のブリーダーさんが仔犬のことを考えて人慣れの練習を行っているかも併せて確認したいポイントです。
ペットショップなど、元居た環境がわからない場合はお迎えしてから上記の経験を積ませてあげられるように準備しましょう。
仔犬同士で交流できる教室を探したり、いろんな人に会う練習ができるようにしてあげます。
いろんな刺激に触れられるように環境を整える
おうちに来たばかりの仔犬にとって〝遊び〟は特に重要です。
遊びを通じて外の世界への適応能力を養っていきます。
仔犬が自由に安全に、探索できる場所の確保やおもちゃなどの準備をしましょう。
ここで直面しやすいのが〝遊びとしつけの線引き〟です。
遊びの中で唸ったり吠えたり、モノを嚙んだり…。
仔犬が成長するに連れて、遊びとして自由にさせてあげるところと、しつけによって制御が必要なところが出できます。
おうちの環境に慣れてきて、他の犬や人と遊びを重ねていき土台が固まってきたらしつけをスタートしていきます。
まとめ
あなたの愛犬が賢く育つかはどうかは遺伝的なエラーがないこと、その犬種が持つ性質に人のライフスタイルが合わせられること。育て方によって決まることをお伝えしました。
適切な飼育、しつけを行うことで犬と末永くより良い関係を築いていけるようになります。
これから、お迎えしたあなたの愛犬との楽しい時間が沢山待っています。この記事があなたと愛犬ちゃんのいい関係作りのガイドとしてお役に立てば幸いです。