膿皮症
膿皮症は皮膚に細菌(主にブドウ球菌)が増殖することによりひきおこされる皮膚病です。
原因
膿皮症の原因となる細菌は強い毒性があるわけではありません。
ただ、夏場の高温多湿の環境下では増殖しやすく、そこに犬側の体質の影響が加わると皮膚病になってしまうのです。
犬の体質としては、皮膚のバリア機能が低い犬はかかりやすくなります。
うまれつきバリア機能が低い犬もいますが、冬の間、こたつの中やストーブの前にいる時間が長く、皮膚が乾燥してバリア機能が低下してしまったといったことも考えられます。
不適切なスキンケアも皮膚バリア機能の低下の原因となります。
症状
膿皮症にかかると、犬の皮膚に円形脱毛ができることが多いです。
脱毛部のまわりにはフケがみられ、ニキビのような赤いブツブツが認められることもあります。
いつもより体臭が強くなる犬が多いようです。
そして、なにより犬は体をかゆがります。
飼い主さんのなかには、「体をかゆがってはいません」と、おっしゃられる方もいるのですが、よくお話をきいてみると、「お腹をしょっちゅう舐めている」ということがあります。
犬が体をよく舐めるのは、かゆい証拠です。
治療と対策
治療には薬浴シャンプーなどの外用剤や、抗生剤、かゆみ止めなどの内服薬が用いられます。
シャンプー剤は直接皮膚に働きかけるため、この場合とくに効果的です。
膿皮症に一度でもかかったことのある犬は、来年の夏もまた同じ症状で来院されることが多いものです。
そのため、暖かくなってきたら、症状が出る前から薬浴シャンプーで体を洗ってあげるのも予防になります。
夏場はこまめにシャンプーすることで投薬を最小限にできるかもしれません。
シャンプーの回数は、その犬の体質や皮膚病の程度にもよりますので、獣医師と相談の上決めたほうがいいでしょう。
マラセチア皮膚炎
マラセチア皮膚炎は、酵母様真菌と呼ばれるカビの1種が増殖することによって生じる皮膚病です。
体の皮膚だけではなく、耳介の内側にも増殖しやすく、外耳炎の原因となることが多いです。
原因
マラセチアが増殖することによって皮膚炎を引き起こすのですが、マラセチア自体は常在菌です。
マラセチアは健康な犬の皮膚にもみられます。
夏の高温多湿の環境は、マラセチアにとって都合がいいので過剰に増えてしまいます。
また、マラセチアは弱アルカリ性の環境を好みます。
そして、犬の皮膚は中性から弱アルカリ性なので、まさにマラセチアが繁殖しやすい環境なのです。
このことからも、犬はマラセチア皮膚炎になりやすい動物だといえるでしょう。
マラセチアは皮脂などの分泌物をえさにしており、そのため体質的に皮脂が多い(体を触るとしっとりとしていて、体臭がある)犬はマラセチア皮膚炎にかかりやすいです。
とくに夏場は垂れ耳の犬がマラセチア性外耳炎に罹患しやすいので注意が必要です。
垂れ耳の犬の耳の中は、蒸れやすいため、夏の環境下では細菌やマラセチアが増える原因となります。
症状
マラセチアが増殖すると皮膚はベタつき、独特の脂臭さを発生するようになります。
脱毛したり、腹部や脇が黒く変色したりすることもあります。犬は体を掻いたり、なめたりします。
マラセチア性外耳炎になった犬は、激しく耳をかゆがります。足で耳を掻いたり、頭をふったりします。耳を床に擦り付けて出血してしまうこともあります。
外耳炎のかゆみは放っておくと耳血腫にまで進んでしまうことがあります。耳血腫になると、犬の耳介の内側が膨らみ立ち耳の耳も垂れてきます。
こうなると、麻酔下での外科処置が必要となってくることもあるので、犬が耳を掻いてていたり、頭をふるしぐさをみたら、放っておかずに早めに受診したほうが賢明です。
治療と対策
治療には抗真菌剤や角質溶解剤が配合された薬浴シャンプー剤、抗真菌剤やかゆみ止めの内服薬が用いられます。
薬浴シャンプーは効果的ですので、この場合は回数を多めに週に2回くらい洗ってあげると良い場合が多いです。
外耳炎には治療だけでなく、予防においても点耳処置(耳に薬をいれること)が欠かせません。
ところが、飼い主さんのなかには、点耳薬をお出しても、耳に薬を入れられなかったと言われる方がときどきおられます。
犬が怒って噛んできたり、暴れてどうしようもないといった場合があるようです。
実際、動物病院でも手こずる犬がときどきいます。その場合は、症状がおさまるまで、病院に通って処置をしてもらったほうがいいでしょう。
それでもやはり、今後のことを考えると、外耳炎になった犬は再発することがほとんどなので、自宅で点耳できるように、犬をしつけておくことは大切です。
飼い主さん自身も、犬の耳に薬をいれる練習をしておいたほうがいいと思います。
家族の中でも、普段あまり犬の世話をしていない人が、こういう場合にうまくできるといったこともありますので、いろいろ試されてみるといいと思います。
ただし、かまれると怪我をするので、犬には必ず口輪をして、だれかにしっかりと抑えてもらって行ってください。
なかなか難しい場合には、トリミングに通っている方は、トリマーさんに薬を預けて、トリミングの際に点耳しておいてもらうと外耳炎予防になると思います。
犬アトピー性皮膚炎
まずはじめに、犬アトピー性皮膚炎は季節にかかわらず発症する病気です。(この皮膚病は原因と治療法が多岐にわたるため、犬アトピー性皮膚炎の詳細については、今回の記事では割愛させていただきます)
では、なぜ夏に多い皮膚病で取り上げたかというと、犬アトピー性皮膚炎は夏場に症状が悪化しやすいからです。
夏になり、あつくなるとかゆみが増してきます。
もともと皮膚バリア機能が低下しているアトピー犬が、掻くことにより、前述した膿皮症やマラセチア皮膚炎を発症することが多いのです。
アトピー性皮膚炎のために、一年を通して内服薬やかゆみ止めの注射を打っている犬が、夏にはプラスアルファの治療をほどこさなくてはいけなくなることが少なくありません。
シャンプーもアトピーの犬に関しては回数を多めに、と単純にいかないことがあります。
やりすぎは皮膚バリア機能の低下を引き起こしかねないからです。
それでも、薬浴シャンプーや点耳薬などの外用剤によるスキンケアは重要になってきます。
飼い主さんには手間のかかる季節となりますが、可能なかぎり行ってあげるといいでしょう。
シャンプーをする際に注意したいこと
皮膚病の治療や予防にはシャンプーは効果的です。ただし、不適切なスキンケアは皮膚病を招きかねません。
犬の体を洗うとき、気をつけてほしいことを2点お話します。
シャンプー剤は犬用のものを使用する
人も犬も皮膚の一番外側は表皮という組織でおおわれています。犬はその表皮が人の1/3くらいの厚さしかありません。
そのため、犬のほうが人より肌がデリケートだと思います。また、人の肌はPHが弱酸性ですが、犬のPHは弱アルカリ性。
人用のシャンプーは人の肌に合わせて作られています。人用のシャンプー剤は犬には刺激が強すぎることがあるため、犬には犬用のシャンプーを使用しましょう。
ドライヤーをあてすぎない
皮膚炎にかかっている犬にはあまり強くドライヤーをあてないようにしましょう。
トリミング後に体をかゆがると言って来院されるケースがときどきあります。
健康な犬でもあまり強くドライヤーをあてると、一時的にかゆみが出ることがありますが、皮膚病を患っている犬は皮膚が敏感になっているため、ドライヤーの熱で悪化することがあります。
自宅でシャンプーするときは、なるべくタオルドライ(ドライヤーを使用せずにタオルでふくだけにする)か、ドライヤーを使用するのは短時間にとどめておいたほうが無難です。
トリミングに出す際には、トリマーさんに犬の皮膚が弱いことを告げて、ドライヤーをあまり当てないで仕上げてもらったほうがいいと思います。
仕上がりがばっちりきれいとならなくても、皮膚のためにはあまり熱をあてないほうがいいですね。
まとめ
犬が夏にかかりやすい皮膚病として、
- 膿皮症
- マラセチア皮膚炎
- 犬アトピー性皮膚炎(夏に悪化しやすい)
を取り上げました。
温かいということは、それだけでもかゆみを誘発します。
日本の夏は高温多湿ですので、細菌やカビが繁殖しやすく、それらが犬の皮膚病の原因となるというお話をしました。
かゆみを放置しておくと、犬が掻くことで皮膚炎の症状は悪化します。犬が体を普段より掻いていたり、頭を振っていたら、早めに動物病院に連れて行ってください。
しかしながら、皮膚病になる犬は毎年同じ症状を呈することが多いので、事前に対策がとりやすいとも言えます。夏はシャンプーなどひと手間かかりますが、愛犬の皮膚の管理をしてあげてほしいと思います。