行動分析学を活かした愛犬のイタズラ・問題行動の改善方法
愛犬にやめてほしい困った行動が出てきた時、あなたはどのような対策をとっていますか?
叱る人もいれば、犬を捕獲する人もいると思います。また、無視がいいと言われて、じっとしている飼い主さんもいるのではないでしょうか?
しかし、犬がその行動を繰り返すようなら、根本的な問題解決にはなっていないことが考えられます。
「犬を叱る」という行動は正しい?間違い?
犬がイタズラをしているのを見た時、叱ってやめさせる人も多いと思います。
叱る行動といっても、人間のように言葉で言い聞かせようとする人もいれば、大きな声で「コラー!」と怒鳴ったり、床を叩くなど大きな音で驚かせる人もいます。また、叩く、蹴る、マズルを掴む、仰向けにするなどの体罰を行う人もいます。
もしもそのイタズラがその後ピタッとしなくなるのなら、それは成功と言えるでしょう。
ただし、その叱り方が犬に恐怖を与えるようなものなら、犬はその人を危険な存在と考え、その後にトラブルが出ることがあるので注意が必要です。
また、叱ってもそのイタズラを繰り返すならば、その方法は適していないことになります。
改善するためのプラン立てが大切
もしかしたら、あなたが叱っているつもりの行動が、その犬にとっては強化子になっていることも考えられます。
実際「叱る」という行動は、犬の困った行動への対処であって、根本的に犬がその困った行動しなくなる保証はありません。
やめさせたい行動があるなら、まずは犬がその行動をする原因を考え、改善するプランを立てましょう。
そもそもなぜ犬は人が困る行動をするのか?
人間と暮らす中で犬の行動に困ることは、いろいろあります。ゴミ箱をあさる、盗み食いをする、家具をかじる、クッションを破く、穴を掘る、吠え続ける、人への甘噛み、トイレの粗相などではないでしょうか!?
ただし、人間にとっては困ることかもしれませんが、このどれもが犬にとっては正常な本能的な行動の場合がほとんどです。
もちろん、病気やストレスなどによって、このような問題行動をする犬もいますが、多くの場合は、「犬のあるある行動」になります。ゴミ箱をあさる、盗み食いをするなどは、食べ物を得るための「捕食行動」です。
盗み食いをした罰として、犬に食事を与えない人もいますが、それだと「飼い主からフードを与えられない可能性があるから、常に自力で食べ物を得る必要がある」と思い、さらに盗み食いなどをする動機が強くなります。
家具をかじる、クッションを破くなどの行動は、犬の捕食行動を模した遊びです。犬にとって狩り遊びは、楽しく快感が得られるものなので、叱っただけではなかなか治りません。
また、吠える、穴を掘るなどは、犬の本能的な行動で、こちらもその行動が快刺激になっていると考えられます。
人への甘噛みやトイレの粗相も、犬にとっては悪いことをしている意識はありません。こちらの対処方法に関しては、また別のコラムで紹介しますね。
愛犬のイタズラ・問題行動はなぜおきる?原因の分析方法
愛犬はなぜその行動をするのかきっかけと結果を書き出してみよう
改善プランを考えるうえで、まず問題となっている行動のきっかけと、犬にどんな結果があるのかを書き出してみましょう。
例えば、
- A:キッチンのゴミ箱の蓋が開いていた。
- B:ゴミ箱の中をあさった。
- C:中に残飯があり食べ物が得られた。
というABCの経験がある犬は、Aキッチンのゴミ箱の蓋が開いているのを見ると、Cという結果を期待して、Bゴミ箱をあさることを繰り返すようになります。盗み食いなども同じような流れが想像できます。
また次のようなパターンもあります。
<パターン1>
- A:退屈している時、テーブルの脚が目の前にあった。
- B:テーブルのを噛んでみた。
- C:木製の歯ごたえがあって気持ちよかった。
<パターン2>
- A:退屈している時、クッションが目の前にあった。
- B:噛んで振り回してみた。
- C:縫い目に歯ごたえがあって咬み続けていると中から綿が出てきて楽しくなった。
このような経験をした犬は、次から退屈すると、家具やクッションを噛むようになります。
さらに飼い主さんがやめさせようと慌ててそばに来たら、結果として飼い主さんに構ってもらえて楽しさが倍増したと感じる犬も多いと思います。
そんな経験があると、さらにその行動をするようになるでしょう。では、どうしたらよいのでしょうか?
代替行動分化強化でプランを立てよう!
行動分析学には、減らしたい問題行動がある場合、その代替えとなる問題のない行動を決めて、その行動を増やすようにすることで、問題行動を減らす「代替行動分化強化」という方法があります。
例えば、チャイム吠えをする犬に対して、チャイムが鳴ったら吠えるのではなく、クレートにダッシュで入るという代替え行動を強化するといった方法です。
チャイムが鳴ったら、飼い主さんがすぐにクレートに犬の好きなガムやアキレスなどの食べ応えのあるモノを投げ込むことを毎回続けていると、犬はチャイムが鳴ってクレートに入るとおいしいものが食べられると学習します。
チャイムで吠えることのメリットよりも、その強化子が魅力的な場合、犬はチャイムでクレートに入ることが増えるでしょう。
まずプランを立てる時に必要なことは
- 1.問題行動の強化子(犬がメリットと感じていること)を取り除けるが検討する
- 2.問題行動が出現しにくくなるように環境を整える
- 3.問題行動の代わりに増やす行動をきめる
- 4.「3」の行動をした時に、犬にとって問題行動の強化子と同じレベルがそれ以上の強化子(犬にとって、うれしい楽しいなどメリットと感じていること)が得られるようにする
といった流れです。上記の「3」と「4」が代替行動分化強化になります。
犬が問題行動を取ったときに、犬にとってのメリットを除去できるか検討しよう!!
問題行動を繰り返す場合、必ず強化子となるその犬にとってメリットがあるはずです。(「おいしいこと」「楽しいこと」など)
メリットがなくなれば、徐々に犬はその困った行動をやらなくなるものなのです。ただし、それは完全になくすことができればの話で、少しでも犬にとってのメリットが残っていれば効果は期待できません。
検討例1 ゴミ箱を漁る場合
例えば、ゴミ箱をあさっても絶対においしいものが得られない経験を重ねると、もしかしたらゴミ箱をあさる行動は減るかもしれません。ただ、食べ物を得る結果だけでなく、ゴミ箱の中にあるいろんなモノをあさる行動自体が楽しくなっている犬の場合は、その行動は減らないでしょう。
キッチンのゴミ箱は必ず蓋をして、犬が絶対にあされないようにすることも有効です。しかし、うっかり蓋をし忘れることがあり、そのチャンスを犬が見逃さなかったら、行動は消去されるどころか、もっとチャンスを狙うようになります。
また、犬には開けられないと思っていた蓋が、何かの拍子で開いてしまい、中をあさることができたら、きっと犬はその蓋を開ける方法を何度も試すようになります。
検討例2 物を破壊するイタズラの場合
破壊系のイタズラは、かじられては困る家具を犬の行動範囲から離すことや、クッションも犬がいるところに置かないという対策で、家具とクッションは守られるかもしれません。
しかし、他のモノがそこにあると同じようにかじったり破壊行動をする可能性は高くなります。このように消去が困難なものはたくさんあります。だからといって、犬をずっとケージに閉じこめておくのは、よくありません。
「代替行動」を使った犬のイタズラ・問題行動の対策方法
ここでオススメしたいのは、犬がやってしまう困った行動と同じぐらいの満足が得られる、飼い主にとって困らない行動に代替することです。
どんな代替行動があるのか考えてみよう!
犬のイタズラのほとんどは、捕食遊びです。獲物を得る疑似体験をして遊ぶことは、犬が好む楽しい行動です。そのため、退屈するとその遊びを勝手に始める犬が多いのです。
だったら、犬が退屈しないように、飼い主さんがその欲求を満たす遊びをしてあげることが代替えになると考えます。ゴミ箱あさりや、盗み食いをする犬の場合は、嗅覚がすぐれていると考えられるので、ノーズワークと呼ばれるおやつ探しゲームがオススメです。
例えば、ラバー製の知育玩具に犬のおやつを入れて、部屋の中に隠して「サーチ」などの言葉で、犬に探させます。ソファの下やクッションの下、家具の後ろなど、見えにくいところに置いて、匂いで捜させます。みつけたら褒めて、おやつを追加して与えます。(ノーズワークの詳しい教え方は、また別コラムで紹介しますね。)
この遊びによって、犬はA:飼い主さんの「サーチ」の指示をきっかけに、B:嗅覚をつかって食べ物を探すようになり、C:食べ物を得るよろこびを経験することになります。
ゴミ箱をあさったり、盗み食いをするよりも、A:飼い主さんの「サーチ」の指示をきっかけに捜した方がはるかに効率が良く、食べ物を得ることができるので、イタズラの頻度も減るはずです。
物をかじる・壊す場合の対策
家具をかじる、クッションを破壊するなどは、噛んでもいいもの、破壊してもいいおもちゃを与えることで代替えできるでしょう。
かじることをやめさせるのではなく、かじってもいいものを与えることで、犬は同じような満足を得られるので、かじるイタズラ行動が減るはずです。
ただし、先ほども書いたように、かじられたら困るものを犬がかじった時だけ、犬と追いかけっこしている場合は、犬はそちらの方が楽しいと思うかもしれません。
その場合は、行動が減らないので、かじっていいおもちゃを与えた場合にこそ、追いかけっこなどの楽しい遊びをプラスしてあげてください。