『ハーネスをはずして』とは
世界で初めて引退後の盲導犬のための老犬ホームが、札幌市にある公益社団法人北海道盲導犬協会にあります。
盲導犬を使用する人を『ユーザー』と呼びますが、盲導犬とユーザーがどれだけ離れたくなかったとしても、活動できなくなった子たちはユーザーの元を離れ老犬ホームで残りの人生を過ごします。(老犬ホームには入れずに、老犬飼育委託ボランティアの方々によって最期までお世話することもあります)
老犬ホームでは、盲導犬としての仕事を忘れて本来の犬の姿で遊ばせてあげることを優先的に考えていて、盲導犬時代はできなかったおもちゃ遊びや、散歩のときに色々なニオイを嗅がせてあげるなど、自由に過ごさせてあげているそうです。
『ハーネスをはずして』は、そんな老犬ホームでの出来事や著者である辻惠子さんの生い立ち、老犬ホームができるまで、辛い別れなど、犬との日々が書かれた活動報告エッセイです。
著者「辻惠子氏」の想い
『ハーネスをはずして』の著者である辻惠子さんは、1966年札幌生まれで、1988年に北海道盲導犬協会のケネルという老犬の健康管理などを行う担当職員として採用されました。
老犬ホームで盲導犬たちを28年間介護し続け、250頭もの命を看取ってきたそうです。
盲導犬とユーザーの別れは「第二の失明」と言われており、辻さん自身も盲導犬とユーザーが別れる場面の辛さと悲しさは、経験を重ねてもなくなることはないと言います。
北海道盲導犬協会では盲導犬の定年を12歳と決めて、ユーザーにあらかじめ申告しておくことで別れの覚悟をしておけるようにしており、さらに、午前中に盲導犬と別れ、午後には次の子を迎えるようにしてユーザーの悲しさを紛らわす工夫もするそうですが、長年一緒に生活してきたわけですから、どうやっても別れは辛いだろうと思います。
立派に役目を終え、老犬ホームで暮らす犬たちの暮らしは、それこそ約10年ぶりの自由な生活なので、犬本来の習性を大事にしているそうです。
だからこそ、そんな犬たちの最期について辻さんは、「延命治療はせず命をまっとうさせることを第一に考えている」と言います。
最期の決断は、獣医、指導部員、老犬担当での話し合い決めるそうですが、それは何度経験しても葛藤はあるとのこと。
そして、「犬たちの老後の看取り方を考えることは、盲導犬と人がどのように生きることが幸せなのかを考えることと同じ」と話しています。
まとめ
盲導犬の子たちは散歩中にどれだけ気になるものがあろうとも、勝手に立ち止まることはありません。
気になる場所へ行きたくても勝手に行くことはありません。
そんな仕事を全うした盲導犬たちが老犬ホームで過ごす時間は、どんな思いで過ごしているのでしょう。どんな気持ちでお散歩したり、おもちゃで遊んだりするのでしょう。
盲導犬たちの気持ちを代弁したものが、老犬ホームには詰まっているのではないかと思います。
盲導犬ユーザーとの別れがどんなに辛いとしても、やっぱり犬たちには犬らしい人生を送る選択肢があってもいいと思うのです。
1日中寝ていたり、バテるまで遊んでみたり、思いっきり走り回ったり、そんな普通の犬らしい1日を送ることができる老犬ホームは、きっと盲導犬たちの楽園に違いありません。
そして、我々はそんな盲導犬のことを理解する必要があると思います。
町中で盲導犬を見かけたときは、声をかけたり口笛をふかないこと、食べ物を見せたりあげないこと、盲導犬を触ったり自分のペットを近づけないこと。
私たちがするべきことは、温かく見守ることだけです。
もちろん困っているときは助けてあげる必要があります。
また、盲導犬は信号の判断ができないため、盲導犬ユーザーに何色か伝えてあげることも大切な手助けです。
声をかけるときは盲導犬ではなく人に声をかけ、盲導犬ユーザーを驚かさないためにも身体を触れることはしてはいけません。
道を案内するときは、自分の肘か肩に手を置いてもらい、ゆっくりと歩きます。
こんな少しの知識でもきっと役に立つときがくるはずです。
町で見かけたらぜひ思い出してみてください。
盲導犬の育成費は約90%が寄付によって支えられています。
また、老犬ホームでの医療費は全て協会が負担しています。
老犬ホームは、全国各地からの支援や北海道からの助成金で運営している状態です。
盲導犬の存在と、その犬たちを支える様々な人がいることを少しでも多くの人が知ることができれば、盲導犬と人との社会はもっとより良いものにできるのではないかと、そして、今回紹介した『ハーネスをはずして』をきっかけに少しでも支援の輪が広がればと思います。