「愛犬の体の異常」は自宅ではなかなか見つけにくい
私がトリミングをしていると、わんちゃんの体で「少し変だな?」と思う部分を見つけることがよくあります。
飼い主さんに、その異常を伝えると、「全然気付かなかった」「家では普通にしてるのに・・・」という返答を貰うことが多いです。
犬の毛を短くカットするため、肌や体の状態が見やすくなるという理由もありますが、トリマーという仕事柄、多くのわんちゃんと接する機会があるためそのような変化にもよく気がつきます。
多くのお家では1頭のみの飼育が多いため、他に比較出来る犬がおらず、変化に気付きにくいというのもあると思います。
また、トリミングの際は犬の健康状態によってシャンプー剤を変えたり、その部位に負担がかからないように犬を扱ったり、場合によってはトリミング自体を中止しなければならないこともあります。
トリマーは飼い主さん以上に「犬の体の変化に敏感な職業」と言えるのかもしれません。
この記事では、飼い主さんは気付きにくいけど、我々トリマーがよく見かける「犬の体の異常」について、部位ごとに解説したいと思います。
部位別によく見る症状:「肌や被毛の異常」
肌に赤みがある
ムレやすい脇の下やお腹などに赤い湿疹が出ていることが多いです。赤みだけでなく皮脂が異常に分泌されてしまっていて、カサブタのようになってしまっている場合もあります。
毛色が他の部分と違う
足先や陰部の周りを犬自身が舐めることで、その部分の毛色だけ黒くなっていたり、毛量が減ってしまっていることがあります。
舐めてしまう原因としては何らかのストレス、仔犬時代のクセ、その部分の皮膚に炎症が起きている(陰部周りでは膀胱炎)が疑われます。
また最初はクセで舐めているだけでも、それが原因でその部分が炎症を起こして症状が悪化してしまうこともあります。
肌に触ると痛がる
抱っこする時に腰を触ると大きい声で痛そうに鳴いたりする犬がいます。
ダックスフンドや太り過ぎている犬によく見られ、ヘルニアだったりジャンプなどをした際に腰を痛めてしまっていることが考えられます。
部位別によく見る症状:「手や足の異常」
爪の伸びすぎ
足先の爪は地面に触れてある程度削れるのですが、地面に触れる事のない狼爪(足首の付け根あたりに生えている爪)は他の爪より伸びるスピードが早いので、爪とフローリングの当たる音をトリミングに行く目安にしている飼い主さんは注意が必要です。
爪を切らないでいると肉球に刺さってしまったり、足の形自体が変形して歩き方がおかしくなってしまったりします。
関節がポキポキいう
後肢の膝を曲げるとポキポキする犬は、膝の骨が外れやすいので激しい運動をしたり、高い台などから飛び降りさせる場合気を付けなければいけません。
足裏
お散歩の際にガムなど粘着性の高いモノを踏んづけて、毛に絡みついている事があります。
部位別によく見る症状:「目の異常」
充血、目ヤニ
この症状がトリミングをしていると1番気になります。少しだからとかいつも出てるから大丈夫だろうと考えている飼い主さんが多いのですが、健康な犬であれば目ヤニはほぼ出ないので、少しでも出ているのであれば、目に何らかのトラブルが起きている事が多いです。
充血も瞼をしっかりめくって確認しないと見えないので、お家だと気付きにくいでしょう。
涙やけ
ほとんどの犬に見られるので少しであれば問題ないと思うのですが、あまりにも範囲が広かったり、常に目の下がビショビショに濡れているような場合は目のトラブルによって涙の出る量が増えてしまっている可能性があります。
またご飯などの成分がその犬にあってない場合もあるので、ご飯を変えたら治まったという人もいます。
部位別によく見る症状:「耳の異常」
耳が汚れている
健常な犬であれば汚れやニオイはほとんどありません。耳を痒がる様子があったり、耳の中を見た時に黒い汚れが出ていたり、油っぽいニオイがしている時は耳の中で菌が繁殖してしまっている可能性が高いです。
耳の中で繁殖しすぎた菌は完全に治めるのが難しく、症状の再発もしやすいので早め早めの治療が大切です。アメリカンコッカーやキャバリアなど、耳の皮が厚く垂れ耳の犬に多く見られます。
部位別によく見る症状:「その他の異常」
歯石
高齢な小型犬に多く、歯石が溜まり過ぎて歯周病になり、モノが噛めないほど歯がグラグラだったり、口臭も酷くなっていたりします。
また触られると痛いので、トリミング中も口周りを触らせてくれなかったり、噛む力が弱まったせいで顎の骨も脆くなり、簡単に折れるようになってしまいます。
溜まり過ぎた歯石は全身麻酔の手術でないと除去できないので、体力の落ちた高齢犬にはオススメ出来ません。
口の痛みが酷いとご飯も食べられず、さらに体力を奪ってしまいます。若いうちからしっかり歯のケアをしてあげましょう。
心臓の異常
トリミング中に犬は緊張していて心拍数が普段より高くなるので、お家だと聴きにくいような心音の異常も聴きやすくなります。
トリミング(特にシャンプー)は心臓への負担がとても大きい作業です。心臓の弱い犬でトリミング後に元気がなくて、そのまま亡くなってしまったという例もあります。
心音の異常が発見された場合は無理にトリミングをせずに、早めに動物病院で検査をしてみて下さい。
体力の低下
犬はトリミング中に基本的にはテーブルの上で立ちっぱなしで頑張っていてくれますが、高齢になると立っているのが難しくなってきます。
筋力が低下していたり、関節が弱くなっていたりするので、お散歩の時間を少し短くするなど日常生活で少し工夫をしてあげて下さい。
トリミングに来る回数を減らし、犬が生活しやすいように目の周りや口の周り、耳や尻尾の毛の長さを短くしてあげたりも犬にとっては快適だと思うので、いつもやってもらっているトリマーにカットスタイルを相談してみるといいと思います。
まとめ:トリマーは犬を治療する事が出来ない
トリミングには健康状態のチェックという役割もあるので、月に1回くらいの間隔でトリミングさせてもらえると、早期の症状発見の手助けになれるはずです。
ただトリマーに出来るのはあくまで状態の簡単なチェックだけで、治療は出来ません。
トリミング中にこういう症状があったと伝えても、中々病院に行ってくれない飼い主さんも中にはいます。
そして次にトリミングに来た時にも犬がその箇所を痛そうにしていたり、さらに症状が悪化して辛そうなのを見ても、何も出来ないのはトリマーにとっても歯痒く、辛いものです。
犬は自分で病院には行けないし、言葉にして我々に症状を訴えることも出来ません。トリマーと飼い主さんで力を合わせて、早期発見・早期治療に努めましょう。