被災地のレスキューではじめて陥る苦難
犬猫ボランティアさんは全国に多数いて、それぞれが捨てられたり、保健所に収容された犬や猫たちをレスキューしています。しかし、今回の東日本大震災では全くの未知の惨状だったのです。
元々犬猫ボランティアをしていて、慣れている人にとっても、それは想像を遥かに超える事態でした。
いつものようなレスキューは難しく、自らも命の危険と隣り合わせの中、飼い主さんと離れ離れになった犬や猫たちを必死にレスキューし続けたのです。
犬や猫と一緒に避難できないという現実
被災当初、行政の判断により避難所でペットの受け入れができるところは少なく、また受け入れ可能なところでも情報を大々的に公開できない状況でした。
どうして情報を公開できないのかというと、犬や猫を飼っている人があまりにも殺到してしまうからです。いくらペットの受け入れができても、人やペットを受け入れれるスペースは限られています。そのため、受け入れ側の苦渋な選択でした。
そして、避難所で犬猫の受け入れをしてもらえないと断られた飼い主さんの一部の人は、車にこもり、犬と生活することを決意した人もいました。しかし、このことで命を落とす危険性があったのです。
皆さんは「エコノミー症候群」という疾患をご存知でしょうか?
飛行機などで長時間同じ姿勢でいることでからだの血流が滞り、血栓ができてしまうという話を聞いたことがあるかと思います。
この「エコノミー症候群」は、最悪な場合死に至ります。この状態が、車でペットと被災生活を送る人を常に脅かしていたのです。特にこの症状が深刻視されたのが、新潟中越地震でした。
当時も同じように、車でペットと避難した方がエコノミー症候群になり、命を落としてしまうことが多かったのです。
これを教訓に政府もこの症状の深刻さを実感し、今回の東日本大震災ではエコノミー症候群にならないように、小まめに体操をしたり、足のマッサージをするなどの呼び掛けを強化していました。
しかし、この惨状で飢えをしのぐために食べることや飲むこと、寒さをしのぐことで精いっぱいの状況で、飼い主さんとペットたちはいくつもの命の危険と隣合わせの日々を送っていたのです。
犬猫ボランティアさんたちはペットと避難した人々がどこにいるのか、出会う人や動物保護関係者に話を聞いて、そういった方を見つけては声かけや物資を届けておりました。その声掛けに物資支援に飼い主さんは救われ、笑顔を浮かべ感謝の気持ちを述べていたそうです。
そしてご存知の通り、被災地は津波の被害で舗装されていない状況。車が通るのも難しい場所もあり、車で現地まで大回りして行かなければならなかったり、危険が伴う瓦礫の中を歩いて犬猫のレスキューをしなければなりませんでした。
福島でのレスキューの苦難
原発事故で記憶が新しい福島も、犬猫ボランティアさんは足を踏み入れていました。
しかし、当初は原発事故の直後ということもあり、犬猫ボランティアさんたちが立ち入ることは許されなかったのです。
それはこの原発事故で懸念される被爆量など、ここで起こったことを隠ぺいするためでした。それでも、犬猫ボランティアさんたちは、何度も何度も交渉して、なんとか足を踏み入れることができたのです。しかしそこも現実とは思えないほどの深刻な事態に陥っていました。
原発事故により、ペットをおいて非難せざる終えない人々。
そこに残された犬は逃げないようにリードや鎖で繋がれたままになっていました。そしてリードや鎖が外れてしまった犬たちは徘徊して、飼い主さんを必死に探していたのです。そして猫も野放し状態になり、その後の繁殖が心配されました。
瓦礫の中で見えてきた現実
瓦礫の中を、来る日も来る日も様々な犬猫ボランティア団体の方々が入れ替わり訪れて、フードの足りていない犬や猫に届けたり、ペットと一緒になんとか非難したものの寒さをしのぐものがなく、避難所にも入ることができない犬や猫に、毛布やホッカイロなどを届けていました。
しかし、車にたくさんのフードや寒さをしのぐ暖かい毛布などを積んでもあっという間になくなってしまい、犬猫ボランティアさんの苦悩は続いたのです。
行政の心ないペットに対する対応
避難所に犬猫を受け入れない自治体
避難所では、皆さんもご存じの通り犬猫の受け入れをしているところは少なく、飼い主さんとそのペットたちは避難所を諦めたり、犬猫ボランティアさんのところで預かりをしてもらっていました。
しかし、なぜ避難所に犬猫の受け入れを行政は拒否したのかというと、動物が嫌いな人への配慮というのが表では言っておりましたが、実際のところは『動物のために用意するスペースはない』『人命が優先だ』というのが本音でした。その他には去勢避妊手術をしてない犬猫は汚すし、うるさく鳴くので迷惑という理由や、においの問題などが挙げられました。
また、避難所で受け入れ体制があっても室内ではなく、人々がいる体育館などの外だったりもしたのです。
これでは犬猫にとって避難所の意味をなしていませんでした。
突き刺さるような寒さ厳しい東北でこのような犬猫に対する行政の対応に、犬猫ボランティアさんたちは抗議し続けましたが、その声は届かないところも多かったのです。
しかし、見殺しにはできない。
そう思った犬猫ボランティアさんたちは、小まめに様子を見に行き、少しでも寒さをしのげるよう、暖めるよう毛布やホッカイロそして、段ボールなどを持ち込みました。
飼い主さんの中には『ペットと一緒にいたい』『離れたくない』という思いから、自らも外で過ごしペットと離れないように、そして、不安にさせないように必死に頑張っておいででした。
そんな日々が続き、老犬や体の弱い子達は亡くなっていったのです。
事実を隠ぺいする行政
置き去りにされた猫たちは野良猫状態になり、そのまま交配を繰り返しすぐに数が増えていきました。しかし、その事実を行政は隠ぺいしたのです。そして、数が増えてしまい殺処分に送られてしまったのです。それを少しでも防ごうと、命を守ろうと、犬猫ボランティアさんたちは現地で保護活動をしている獣医師と連携して、猫たちの去勢避妊手術を行い続けました。
現在の被災地の状況
現在も状況は芳しくはありません。
しかし、当初よりも物資支援も届くようになり、また、犬猫ボランティアさんの必死の呼び掛けで支援金なども送られるようになりました。
飼い主さんとまだ暮らせない子達もたくさんいますし、その中の子達みんなが健康というわけではありません。元々持病を持っている子や、高齢で心臓がわるい子など、様々な疾患を飼い主さんに変わって獣医師と連携を続け治療をしております。
ですが、徐々に飼い主さんたちがお迎えに来れるようになりつつあり、また、仮設住宅でペットを飼うことができずにいる飼い主さんには、月に一度などのペースで、飼い主さんのところへ連れて行って会わせてあげている犬猫ボランティアさんもいらっしゃいます。
そして、置き去りにされた猫たちの行政による殺処分を少しでも減らすため、引き続き猫たちを捕獲しては去勢避妊手術を行っています。このような犬猫ボランティアさんたちの働きで、たくさんのペットの命が救われたのです。
状況は震災当初よりも良い方向には向かっているとはいえ、犬猫ボランティアさんたちの心身や経済的な負担はかなりのものです。
『命が助かった犬猫たちを救いたい』
その一心で毎日活動されています。
震災から5年。
私たちができることを今一度見直すときです。
災害時にペットを守る方法と今私たちができること。
どのボランティアさんもおっしゃっているのは、まずは、フードや水、ペットシーツ常備薬、鑑札や迷子札の取り付けなどの準備ですが、それ以前に、去勢避妊手術を犬猫たちに受けさせておくことが大事だと言います。
極力 周りに迷惑をかけずに済むように、そして、ペットも嫌な思いをしないで済むようにとても必要なことです。できれば、去勢避妊手術をする際に一緒にマイクロチップを入れてとらうことも、震災時にいち早くペットを探しだしてもらえる手だてになります。こちらもとても重要なことです。
その他にも被災後は衛生面が不十分で、あらゆる感染症にかかる危険も否定できませんので、必ず毎年の混合ワクチンを打つことも必要なことです。
そして、震災から5年たった今、私たちの震災に対する気持ちが薄れているのは、残念ながら事実です。しかし、5年を向かえたいまでも復興に必要な資金が足りません。さらに、動物たちの保護活動の費用はもっと足りていません。犬猫ボランティアさんたちは、なんとか切り詰めて、そして物資支援や資金支援の呼び掛けを続けています。
うちの子が幸せに暮らせている裏では、未だに飼い主さんと暮らせない子もいることを思い出して、うちの子のペット用品を買うついでに被災地のペットたちに送る用品を買う。うちの子のお洋服を何枚か買うなら、そのうちの一枚分の値段だけでも資金支援をするなどの気持ちを持つようにしていけると良いですね。
一人の支援が小さくても、皆で集まれば大きな支援になり大きな輪になるのです。
あなたも少しだけ、被災地のペットたちに暖かな支援をしてみませんか?