『78円の命』とは?少女が向き合った命の重み
愛知県豊橋市に住む、小学校6年生の谷山千華さんは自分の家の近所に住んでいた人懐っこい捨て猫に、『キキ』という名まえをつけて、仔猫のころからかわいがっていました。
キキは人懐こいので近所の人気者だったそうですが、大人になってある日子どもを産んだそうです。
しかし、ある日仔猫は地元の愛護センターに連れていかれてしまうのです。
何も知らない谷山さんは、『愛護センター』=『新しい飼い主が見つかる場所』に連れていかれたと思っていたのに、学校の友達からそれは飼い主のいない犬猫が殺されてしまう場所だと聞いて、自宅のパソコンで調べて、はじめて現実を知ることになります。
そこで知った現実は6年生の谷山さんの心に大きな悲しみとくやしさと、恐怖、そして命に対する責任や、その重さを深く刻んだのでした。
『78円の命』の、この78円というのは動物の殺処分一匹にかかる値段だそうです。
まるで動物の命の価値が78円しかないように思えて、胸が張り裂けそうになった谷山さんは、いなくなった赤ちゃん猫を探しているかのように鳴き続けるキキを見て、思わず抱きしめながらどうしたらよいのかわからなくて悩み続けたそうです。
人間の都合で、動物のかけがえのない命を奪ってしまっていいのだろうか?
しかし、人間の動物を育てられない都合があるならどうしたらよいのだろう?
谷山さんのかわいがっていたキキは、そのあと近所の方が避妊手術をして引き取ってくれたことで、もう二度と赤ちゃんを捨てられることのない猫になりました。
谷山さんは〝キキ〟に対する複雑な気持ちをとても素直に表現しています。
そして命を守ることは簡単なことではなく、その命に責任を持つ自信がなければ動物を飼ってはいけないのだということを作文に込めました。
谷山さんのこの作文が2013年「豊橋市小中学生話し方大会」で最優秀賞に選ばれたことから、インターネットで全国に感動が広がりました。
2013年9月は改正動物愛護管理法が施行されたタイミングでもあり、公明党の宮澤佐和子市議の提案で、豊橋市教育委員会が小中学校の道徳教材として活用することになったそうです。
その後、豊橋市の地域猫ボランティアの代表がブログで作文を紹介すると、また感動はどんどん広がっていったのです。
豊橋市教育委員会の加藤正俊教育長もこの作文を何度も読み、深く感銘を受け、小学校高学年を対象に「命の教育」の教材として積極的に取り入れることになったのです。
谷山千華さんの作文全文は愛知地域猫応援団のブログでもご覧になれます。
http://catcheerleaders.blog.fc2.com/blog-entry-151.html
『78円の命プロジェクト』を始動
目指すのは殺処分ゼロ
今年は2016年、谷山さんが作文を書いてから3年以上経過していますが、年間の犬猫殺処分年間20万匹以上という現実は変わりません。
ひとりの小学生が感じた命の尊さや動物の命に責任を持つことの重さをこの作文を通して子どもから大人まで、幅広く感じてもらうために、この作文を原作とした絵本を作るプロジェクトが『78円の命プロジェクト』です。
多くの人にこの事実が伝わることで、将来的に犬猫の殺処分がなくなることを目指すというものです。
絵本『78円の命』を全国に届けたい!
このプロジェクトは2016年1月、この作文に共感したメンバーが集まり、立ち上がりました。
メンバーは、フォトグラファーkay Nさん、アートデレクターの新村夏絵さん、イラストレーターの佐伯ゆう子さん、ライターの戸塚真琴さん、キュレーターの井上梓さんです。
作文「78円の命」を題材に絵本、ポスター、冊子を作るためのプロジェクトメンバーはボランティアという形で参加しているので、制作の労力に対する費用はかかりませんが、用紙代や印刷費、移動費などの支援を呼びかけています。
絵本「78円の命」が完成した際は価格を永続的に78円で販売するために、売り上げを、印刷費などにまわしていくとのこと。
ポスターやリーフレットは愛知県豊橋市を中心に希望の団体、また、小中学校等の教育の場をはじめとして地域猫団体や保健所に設置予定とのことです。
クラウドファンディングが目標金額を達成!
インターネットを使って多くの人から募金をつのり、プロジェクトを実現させる取り組みをしているクラウドファンディングで、2月4日から3月31日まで初期費用の100万円を目標に募金を開始しました。
なんと5日目でこの目標を達成し、8日絵本の中にページを追加するべく、第二目標として150万円を設定したということです。
▼こちらのサイトでご覧になれます
https://greenfunding.jp/lab/projects/1406/news/2675
まとめ
自分の悲しい体験から命の尊さや動物の殺処分という現実について書かれた、作文『78円の命』は、小学生の素直な心からストレートな言葉で表現された『叫び』であり、だれの心にもまっすぐに入って考える時間をつくる力を持っていると思います。
この作文はゆっくりと時間をかけて共感を呼び、確実に成長して人を動かしたのです。
プロジェクトメンバーの方々は発足にあたり、豊橋市を訪れ、作者の谷山千華さんと対面したそうです。
また作品中の猫キキに会って、絵のイメージも膨らませるなど大変丁寧に活動されています。
そして、市内の保健所や保護管理センターへも出向き、殺処分の実情や連れてこられる理由の説明を聞いたり、教育委員長にもこのプロジェクトについて説明し豊橋から全国へと広めるためのモデルケースとして道徳教材として絵本を使うことになったようです。
ひとりの小学生の悲しみと願いは同じ思いを共有する人々によって、大勢の人の願いになりました。
この素晴らしい取り組みによって、犬猫だけでなく、すべての動物の命に対してきちんと向き合って、そして大切にできる国になることを願います。
絵本の完成が楽しみですね。
大人も子どももいっしょに78円の命の重さに向き合って、遠い国の誰かの話ではない、すぐ近所を歩いてる地域の猫や、ペットショップの犬猫のこととして真剣に話し合える日が来るといいですね。