唐突ですが、皆さんのお宅のわんちゃんは、忠犬ですか?
忠犬とは、飼い主さんに忠義を尽くす、忠実なわんちゃんのことです。イメージとしては、しつけがきちんとなされ、飼い主さんの言いつけを守る賢いワンちゃん……といったところでしょうか。
ウチの犬はよく吠えるし、ダメと言ってもきかないし、とても忠犬とは呼べない……という方もいらっしゃるかもしれません。
でも、忠犬かどうかは日常の態度だけではわからないもの。飼い主さんになにかあったときの態度も、大切ではないでしょうか?
今回は、わたしの家で起こった忠犬物語をお話したいと思います。
「お母さんが帰ってくるまで動かない!」
わたしの実家で飼っていたマルチーズは、気の強い子でしたが同時にとても怖がりで、怖いことがあるとしばらくぶるぶると震えて落ちつかないほどの小心者でした。
ある日、母が出かけて行くのを玄関から見送ったその子は、いつものように家中を見て回り、母がどこにもいないことを確認すると、玄関前に座り込み、ただひたすら玄関を見つめつづけます。
母が帰ってくるまで、ひたすらです。
たわむれに犬の首を触ると、かちかちに凝っていました。そんなにじっと待たなくても……というほどです。
ここまでは、よく聞く犬たちのけなげな光景ですよね。当時のわたしも、『よく待っているなあ、疲れないのかなあ』と思いながら見守っていました。
しかしこの日は、棚から物が落ちてくるような比較的大きい地震が発生。長い揺れと大きさから『避難しなくてはならないかもしれない!』と、わたしは犬を回収するため玄関まで走り、逃げるよ!と声をかけました。
しかし、犬は、がくがくと震えているくせに絶対にそこから動こうとしないのです。必ず、母が玄関から戻ってくるはずだ、と言わんばかりの踏ん張りで、抱きあげようとすると逃げ回る始末です。わたしは、家が倒壊したらどうしようかとハラハラしました。
幸い、しばらくすると地震は収まり家にさほどの被害は出ませんでしたが、犬はまだ玄関で踏ん張っていました。なにがあっても母を待つと決めたその忠誠心に感服です。
わたしなら、ここで待っていてと言われても、大きな地震が起きたら逃げてしまうと思います。
そして無事に母が帰ってきたときの喜びようと言ったら。なんだか目頭の熱くなるような光景でした。
「不審者はゆるさない!」
わたしの実家の玄関はすりガラスを嵌めた引き戸のため、うちの子がそこからさし込む光をつかってよく日向ぼっこをしていました。
犬は黒目がちなのでかなり眩しいだろうに、目をショボショボさせながらも日が落ちるまでそこにいました。
ある日のことです。うちの子が激しく吠えているので行ってみると、そこには知らない男性が。
すでに戸も開いて玄関口に入ってきていたので、正直、わたしも怖くなりました。「なにか御用ですか?」と尋ねても、「犬の声がしたから……」と言うことだけ。もしかしたら犬の声がうるさいのかもしれないと思い、静かにさせようとしたのですが、いつもなら抱きあげて落ちつかせれば鳴きやんでくれるのにこの時はなかなか鳴きやみません。
さすがに申し訳なくて謝罪すると、男性はなにも言わずに帰っていきました。
人にはさまざまな事情がありますから、こちらの判断だけで一概に不審な人物、と決めつけるのはいけないことです。しかし、我が家は女所帯だったため、こういった見知らぬ方の訪問には気を遣っていました。
もしかしたら、なにかを察知して追い払ってくれたのかも…、とちょっと感心し、あたまをたくさん撫でたのでした。小さいながら、番犬の役目を見事に果たしたわけですね。
「お父さんは?」
我が家では父が早くに亡くなったため、愛犬は突然にいなくなった父のことをふしぎに思っているようでした。
父はいわゆる、サザエさんに出てくる波平さんのような厳格な人でした。犬もそれを感じ取っていたのか、父の前では機嫌をとろうとしたり、おとなしくしてみせたりと、なかなかの甘え上手ぶり。父が帰ってくると、スリッパをくわえて迎えに出ます。普段は厳しい父も甘えられるとうれしいのか、犬のことはよく構い大事にしていました。まさに主人と飼い犬、といった関係を築いていました。
その父が亡くなり、犬はふしぎな顔をするようになります。
毎日、決まった時間に帰ってきていた父が来なくなったのですから、ふしぎに思うのも当然です。
犬は、父が亡くなっても数ヶ月ほどは同じ時間頃に玄関に行き、待っているような素振りですりガラス戸の向こうを見つめていました。ウロウロしたり、スリッパをくわえてみたりしながら、父が帰ってくるようすがないとわかると、諦めて寝床に戻って眠りにつきます。その繰り返しです。
さらに数ヶ月経つと、定時のお出迎えはなくなりました。ただ、玄関の開く音がすれば父ではないかとスリッパをくわえて走っていくのは、犬が年を取って老犬になるまでつづきました。
その犬も今は亡くなりましたが、きっと、天国で父に可愛がられていると思います。そこではあまり厳しくしないよう、墓前にお願いする今日このごろです。
まとめ
今回、この話を書くにあたってさまざまな愛犬との思い出を掘りおこしてみたところ、うちの子はどうもわたしのことは格下に見ていたことがわかりました。
わたしが子どもの頃から共に育った仲なので、たしかに主人として見るのはなかなか難しいものがあるかと思いますが……。
しかし、忠犬の姿とは見ていて胸に迫るものがあります。ただひたすらに主人に尽くすひたむきさが、人の心を打つのでしょう。
犬が忠誠を尽くせるような飼い主でいたいところです。